第42話 禁欲失敗
晴家さんがドスレートに好意を伝えてきた以上、これからは軽い気持ちでヤるわけにはいかない。
無論、晴家さんと交際するなら問題はない。だが俺は、雲倉さんと向き合うつもりだ。ならばこれからは、晴家さん達とは健全なお付き合いをする。それがスジというものだろう……けども。
「私も俗物だな……。性交で多幸感を得るだなんて」
スジ……通せなかったよ……。
だってしょうがないだろ? 晴家さんと常に一緒にいるから、ここ五日ほど自慰ができなかったんだぞ? 健全な男子高校生が五日も我慢し、尚且ついつでも性交してくれる女性が眼の前にいて……そりゃスジも違えるわな。
「私の貧相な肉体でアレほどまでに硬くできるなんて、キミはよほど私のことが好きらしいね」
「……誰でもああなるかと」
「ならないね。ましてや今は、無料で性的なコンテンツを楽しめる時代だ」
そりゃ昔の学生よりは耐性というか、衝動を抑える能力あるだろうけども……。
「私にソレはついていないが、嘘をつける代物じゃないということぐらいわかる」
目……見たら? 確かに男はそっちに脳みそあるって説もあるけど、実際は違うからね? 仮にそうだとしても目を見ようよ、別に脳みそ見ながら喋らないでしょ?
「……体は正直ってヤツだね」
「出会った当初はキミの褒め言葉を全てお世辞だと思っていたが、全て本音だったというのがわかるよ」
……もうやめませんか? 行為が済んで、シャワーと着替えも済ました。つまりもう過去のことだろ? この話題をいつまでも引っ張るのはよくないと思うんだ、雨宮さんの前でうっかり話してしまうかもしれないし。
「しかし何故、私に迫ってきたんだ? 今日は雨宮さんが来る予定じゃないか」
「……雨宮さんに頼めと? まだそこまでの仲じゃないよ」
自分で言っておいてなんだが、『まだ』から発展することはないんだろうな。今や人気者だし、いつ彼氏ができてもおかしくないと思う。というか夏休み前から告白されまくってたし、そのうち彼氏できるでしょ。
「確かに関係値という意味ではそうかもしれない。だが、彼女は拒まないさ」
雨宮さんの何を知ってるというのだろうか。そこそこ仲が良いってレベルの男が性交を迫ってきたら、普通に考えて拒むだろう。男女逆だったら話は変わってくるかもしれんけど。
「百歩譲って受け入れてくれるとしても、俺は頼まないよ」
「ふむ……? 私より小さい背丈でありながら、私よりも三センチは大きいぞ?」
その大きいってのは……バストとかヒップの話だよな? なんで知ってんの? そういや雨宮さんも晴家さんのスリーサイズを調査済みって言ってたけど、草(情報を集める忍者)でも雇ってるのか?
「あのねぇ、こういうのは気持ちが大事なんだよ。容姿も大事だろうけど、関係性というものがだね……」
「ふふっ。初めてを奪っておいて、恋人関係にならない男が何を言うのかね」
いや、だからそれは普通のことだろ?
「というかさ、晴家さんってその……俺と恋人関係になりたいんだよね?」
「ああ、子供を作るかどうかは将来の私達次第だが、結婚までは確定してるね」
確定してるんだ……恋人になることさえ確定してないのに。
「じゃあ俺と雨宮さんがヤるなんて、許せないんじゃないの? というか家まで遊びに来る時点で嫌じゃないの?」
「驚いたね、その一般的な考えに至っているなんて」
……? ひょっとしてバカにされてる?
「一つ聞いていいかい? ダメだと言われても聞くが」
じゃあ断り入れる必要ないじゃん。別にいいんだけども。
「何故その考えを持っていながら、私達と仲良くしているんだい? 我々の関係を、雲倉氏が知らないとでも思っているのかい?」
彼女が我々の関係を知っているかどうかは知らんけど、それよりも……。
「晴家さん、あの子のことっていうか、俺と彼女の関係を知ってたの?」
「知らないと思っていたのかい? 雨宮さんも把握してるはずだよ」
諜報員でもいるの? キミら、色々と詳しすぎないか? さすがの俺も、ここまでくると少し怖くなってくるんだけど。
「俺と雲倉さんが実質恋人だと知ったうえで、押しかけてきたの? 言っちゃ悪いけど、まともじゃないよ」
「キミが言えた義理じゃないと思うが……キミ達が実質恋人関係だというのは、初耳だね。おかしいな、私の情報収集にぬかりはないと思っていたのだが」
……? なんかこの会話おかしくない? 矛盾してるような……。
「雲倉さんの口から直接聞いたわけじゃないのだろう? キミのことが好きだと」
「それはまあ、そうだけど……でも雰囲気っていうか、その……」
あ、あれ……なんか急に不安になってきたぞ?
「無論、それなりの好意はあっただろう。キミは人たらし……特に女性をたらしこむ能力においては目を見張る者がある」
褒められているような、けなされているような。
「さっさと唇を奪ってやればよかったものを……逃した魚は大きいというヤツかね」
え、俺もうダメなの? フラグ折れちゃってるの? っていうか晴家さんはどこまで知ってるんだ? この人の性格的に、雲倉さんに直接インタビューなんてありえないと思うんだが……。
「ある日突然、クラスメイト達が冷たくなったんだよ? 彼女も例外じゃないと考えるほうが、自然だと思うがね」
「で、でも……キミ達は変わってないじゃないか」
そう、そうだよ。この二人は勿論、雲倉さんも同じだよ。こんなしょうもない学年ぐるみのイジメに加担するはずがない。
「雨宮さんは知らないが、私は元より並々ならぬ好意を抱いているからね」
「それは雲倉さんも……」
「彼女よりも先に私と体を重ねたのに? 百年の恋も冷めるというヤツだよ」
うぐっ……。今まで気付かなかったというか、考えもしなかったけど……これってかなり不義理な行いでは? お互いに告白してないから他の異性と何をしても問題なしって、冷静に考えたら異常な考えでは……?
いや、落ち着け、とりあえず落ち着け。ここまでの一連の話って、晴家さんが勝手に言ってるだけじゃないか。実際に彼女が俺を見限ったかどうかなんて、わからないじゃないか。俺をモノにするために、嘘をついてる可能性がある。いや、むしろその可能性のほうが高い。
「悪いけど、俺は信じないよ」
「……現実逃避するのは自由なんだが、私との約束を違えるのは感心しないな」
約束……? なんかしてたっけ……?
「なんの話だい?」
俺の問いかけを無視し、ベッドに寝転がりラノベを読み出す。
あー、完全に拗ねてらっしゃる。よくわからん人だなぁ……。




