第40話 疎外感
普段は食卓で食事を取っているのだが、晴家さんと雨宮さんが来ているので、わざわざ俺の部屋まで食事を運んできた。
俺の家におぼんなんてあったんだな。普段は使うことないから、知らないのも無理はないんだけど。
「私はお義母さんと一緒に食べてもいいんだけどね」
「同意するよ。理想は善吉君と二人きりだけどね」
俺が気にするんだよ。別に親と仲悪いわけじゃないし、むしろ良好な関係を保ってるけどさ、それでもなんか嫌じゃん? 女子はそうでもないんだろうけど、男子は自分の親と友達会わせるの気まずく感じるんだよ。大人になればそうでもないんだろうけど、なんとなく気恥ずかしいのよ。
「ハルちゃんは一人で食べるほうが好きなんじゃないの?」
「基本的にはそうだね。善吉君は特別だが、普段は親でさえ卓を囲まない」
まあ、そういう人もいるよね。こういうのって家庭によって差があるから、明確な正解がないというか……。
ああ、そういや家庭科の教科書に、孤食は良くないみたいなこと書いてたっけ。ノンデリだよなぁ、皆が皆、温かい家庭を持ってるってわけじゃないのに。
「ふーん……。まあ、それはどうでもいいんだけど……ハルちゃん、鳩山君のお家に泊まるって本当なの?」
「ああ、夏休みいっぱいというごく短期間ではあるが」
晴家さん? 夏休みって長期休暇なんですよ? 全然短期間じゃないと思うんですけど、詳しく聞いていいですか?
「随分と図々しいね。私もちょくちょく泊まりに来る予定だけど、さすがに四十連泊する勇気はないかな」
え、雨宮さんも泊まるの? しかもちょくちょく? 人によってだいぶ振れ幅あるんだけど、具体的には何日ぐらいだい?
「宿泊するにあたって、食材やらお金やらは持ってきた。無論、私の親が出したお金だが、スジは通している」
マジか、それは知らなかったぞ。どれくらい持ってきたか知らんけど、そりゃ母さんも文句言わないはずだ。……いや、でも四十連泊は長いって。
「だとしても非常識じゃない? ちゃんと男の子の家に泊まるって説明した?」
「勿論さ。キミに聞かれなかったからわざわざ言わなかっただけで、もうすでに紹介してるよ」
あー、そういや晴家さんのご両親には何度か会ってるな。妙に気に入られてた記憶があるけど、娘を任せられるほどの信頼を得ていたんだな。ちょっと誇らしいや。
「しかし善吉君の母上殿も変わったお人だ」
なんだろう、いきなり。晴家さんも大概な気がするんだけど。
「私との関係を認めておきながら、雨宮さんのことも認めている。孫の顔が見れればなんでもいいのかな?」
「は、ははは……気が早いというか……飛躍しているというか……」
晴家さんの好意には気づいてるけど、結婚までいくの? 学生同士の遊び、甘酸っぱい青春止まりにする気はないのかな? 高校の彼女と結婚ってあんまりイメージ湧かないし、するとしても俺にはもう既に好きな人が……。
「言うほど飛躍かな? 昔に比べて結婚しない人も増えてきてるし、親としては息子に恋人がいたほうが安心できると思うよ」
そうかな? そうかも……。いや、さすがに早いだろ。まだ高校生だぞ? 雨宮さんが親の立場だったら、同じような考えに至るのかい? 俺は……どうだろう。
「ま、まあ……そういう話も悪くないけど……俺的には、昨日雨宮さんが何をしてたかが気になるかなぁ」
「えー? そんなに気になる?」
「そりゃ気になるよ。終業式の後、たくさんの生徒に囲まれてたじゃないか」
ホント、すっかりスクールカースト上位だよなぁ。ちょっと前まで常に一人ぼっちだったのに、オシャレしただけで人気者たぁ……俺はダイヤの原石を見抜く能力に長けているのかもしれない。晴家さんもスクールカーストはさておき、ティーンズ向けの雑誌に載ってそうなビジュアルだし。
……むしろなんで不人気なんだ? この人、雨宮さんと違って前からこの髪型のはずなんだけど、なんで人気出ないの? ウチの高校は巨乳専門しかいないのか? いや、だとしたら雨宮さんが人気なことの説明がつかないぞ。脱いだところを見たことはないが、平均より少し小さいぐらいだろうし。
「ポスターの宿題があったでしょ? 面倒だから、皆で初日に済ませちゃおうっていう集まりだよ。あの日ぐらいしか、教室使える日ないだろうからね」
「へ、へー……。真面目だねぇ」
何それ、めっちゃ楽しそうじゃん。
例年通りなら俺も誘われてただろうに、どうしてこうなったんだろうね? 皆目見当もつかないんだけど、誰かの陰謀? 『全国民から抽選で一名無視しましょう』みたいなお触れが出たの? 触れてるのは気だろ。
「残念だよ雨宮さん。私達と一緒に描けないなんて」
「……別に? ポスター描くのってスペース使うし……それに描いてるところを見られるのって恥ずかしくないかな?」
……? スペースうんぬんはわかるんだけど、後半部分おかしくない? 俺ら二人に見られるだけで恥ずかしいのに、クラスの皆と一緒に描いたの?
「ちなみに来週は作文を済ませる予定だよ。これは図書館で出来るからね」
……当然ながらその集いに俺は誘われてない。っていうか雨宮さんも誘ってくれないんだね。まあ、別に誘われたところで行くつもりはないんだけどさ。
いやあ、喜ばしいねぇ。雨宮さんが皆と打ち解けて、一緒に夏休みの宿題に取り組んで……もう俺がいなくても平気だな。
となってくると、立場が完全に逆転しちゃってるな。クラスに馴染めず孤独な俺が構ってもらってる形だもん。別にどっちがどっちでもいいんだけど、自分に自信を持てなくなってきたな。俺本当に社会でやっていけるのかね?
「勉強だけかい? 遊ぶ約束はしてないのかい?」
「勿論誘われたよ。今まで知らなかったんだけど、高校生の夏休みって結構いろんなことをするんだね」
晴家さんがどういう意図でその質問をしたのかしらないけど、あんまり聞いてほしくなかったな。敗北感というか、孤独感というか……いや、晴家さんが滞在してるから孤独ではないんだけども。
……去年は山とかプールとかカラオケとか、鬱陶しいくらい頻繁に誘われてたんだけどなぁ……。俺のスマホ、今年の夏休みはただの目覚まし時計になりそうだわ。




