第37話 メンヘラ自認
ついに待望の夏休みに突入した。比喩とか誇張ではなく、マジで待望だよ。最近、学校に行くの辛いし。
そういや最終日、雨宮さんの周りに多くの生徒が集まってたな。一ヶ月ちょっととはいえ別れるのが辛いのか、それとも遊ぶ約束でも交わしてたのか。どちらにせよ、すっかり人気者だなぁ。
ちなみにあれ以来バイトに応募していない。今のうちに少しでも稼いでおきたかったんだけど、二人と親睦を深めることを優先することにしたのだ。単純にバイトが怖くなったというのもあるけど。
「嬉しいね。夏休み初日……いや、厳密には前日ということになるのかな? 終業式の日を夏休みに含むかどうかは微妙なところだが、とにかく初っ端からデートに誘ってくれるなんてね」
相変わらず回りくどいというか、変に細かいな。ちなみに俺は終業式が終わった段階で夏休み気分になるタイプだよ。人によっては家に着いたタイミングだろうけど。
それにしてもラフな格好だなぁ。デートと表現してるわりには、コンビニに行く時専用の服装じゃないか。まあ、こういう格好でも充分絵になるんだけどさ。
「俺が誘わなかったら、キミのほうから誘ってきただろ?」
「嬉しいね。よくわかってるじゃないか」
すぐ嬉しがってくれるよ、この人。デートでファミレス行っても喜んでくれるタイプのイイ女だ、きっと。
「それはさておき、雨宮さんはどうしたんだい? 私達が二人で会うなんて、彼女が許すとは思えないが……」
ははは、さすがにそこまで寂しがり屋じゃないだろう。俺ら二人と違って、友達が多いようだし。
……あんまり他の生徒と遊ばないでほしいなぁ。当初は友達ができることを祈ってたけど、それはクラスメイトを信じていたからこそだよ。彼らはある日突然、おかしくなってしまったんだ。だからもう関わらないほうが……。
「さぁ? 級友達と親睦を深めてるんじゃないかな? なんせ人気者だからね」
「変な意味に取らないでほしいんだが、彼女はキミがいなくても平気のようだね」
うっ……。ジャブ感覚でストレートをぶちこんできたよ、この人。
当初の計画通りなんだが、状況ってのはいつ何時変化してもおかしくない代物なんだよ。つまり、現在の計画からは逸れているということさ。
「私は彼女と違って、キミがいないとダメだ。早い話、キミとクラスが分かれてからの数週間はダメだった。張りを失ったとでも言うべきかな?」
……俺もだよ。この二人がいないと俺はダメになってしまう。雨宮さんは俺なんかいなくても平気だろうけど、俺と晴家さんはお互いにもう離れることができない。さすがに社会人になるまでに立ち直る予定だけど、まるで自信がない。このまま死ぬまで依存してしまう気がするよ。いや、下手をすると死後も依存するかも……。
「俺も晴家さんがいないとダメかな」
だって想像できないもん。数ヶ月放置しておいてなんだが、隣に晴家さんがいない未来なんて想像できないというか、したくない。考えただけで心が折れそうになる。
「ふぅん? それは難儀だねぇ」
ははは、そういうわりには嬉しそうじゃないか。わかるよ、キミは共依存を望んでいるんだろう? 俺もだよ。俺は、キミが共依存を望むことを望んでいるよ。これが思い違い、ただの独り相撲だったら、勢い余って切腹してしまうかもしれない。
「でも晴家さんだって……その気になれば、俺以外にも……」
「ないね」
先程の意味深な笑みはどこへやら、食い気味に真顔でキッパリと否定してきた。ちなみにだが、この展開も俺が望んでいた展開だ。俺って結構女々しいというか、面倒くさい男なのかもな。メンヘラ……ってヤツかな?
「禅問答も嫌いじゃないが、彼女がいない時間を無駄にしたくないんだ」
彼女……ああ、雨宮さんね。貴重って言ったら語弊があるけど、この二人が同時に揃わない日って、この先あんまりないだろうしね。自分で言うのもむず痒いけど、俺を独占するチャンスだから無駄にしたくないってことね。
「そうだね、俺も同じ気持ちだよ。別に雨宮さんが邪魔ってわけじゃないよ? これはグループ曲とソロ曲に別の魅力があるという話に近しいものが……」
「キミの独特な例え話は道すがら聞くよ」
『うるせぇ! いいから行こう!』と言わんばかりに、俺の手を引っ張り足早に歩き出す。いやぁ、夏休み初日から振り回されそうですな。
「ちなみにどこに行くのかな? 基本的にキミに任せるつもりだけど、ボーリングとかカラオケは気分じゃないんだ」
「安心したまえ。今日は夏休みのために布石を投じるだけさ」
……? 全然ピンとこないんだけど、俺が鈍いのかな?
「私の白い肌と、長身に見合わない貧弱な手足を見ればわかると思うが、私はインドア派だ。キミはプールだの登山だのナンパだの、典型的なアウトドア派だろうが」
ナンパってアウトドアなの? そりゃインドアではないかもしれないけど。
「あはは、ナンパなんて生まれてこの方したことないよ。女の子の口説き方を知ってるなら教えてほしいもんだね」
っていうか都市伝説じゃない? 今時ナンパなんか、罰ゲームか自意識過剰のバカぐらいしかやらんでしょ。SNSで気軽に異性と出会える時代にホイホイ、ナンパに着いていくバカいないって。
「私の口説き方でよければ、じっくりねっとりとレクチャーしよう」
「……それはどっちの意味? 晴家さん流の口説きテクって意味なのか、それとも晴家さんを口説くテクって意味なのか」
「万年孤独の私が前者を提案すると思うかい? 太った子のダイエット講座なんて、誰も耳を傾けないよ」
後者かぁ……。今更だけど、やっぱり晴家さんって俺のこと好きだよね。すぐに性交を迫ってくるから、体の関係を望んでるもんだと思ってたけど……実は純愛派だよね、この人。性交がしたいというより、性交で愛を深めたいというか……。
そう考えると雨宮さんにとっての俺って、なんなんだろうね。記念すべき一人目の友達でしかないのかな。ふふっ、自分で言ってて泣きそうだよ。恋人になる気がないのに、そういう目で見られないことを悲しむなんて……俺はつくづくメンヘラ気質らしい。いや、その表現は生易しいかな。
そう……俺ってその……女性関係に関しては少しだけクズなのかもな。




