第34話 テスト終了
彼女達の暴挙から解放されて十分ほど経つが、まだ頭と肋骨がズキズキする。胴締めはともかく、アイアンクローでここまでダメージが入るか? あんな小さい手で、よくアレほどの力を出せたものだ。一体何が原動力なんだ?
「ねぇ、鳩山君。休憩長くないかな?」
よく言えるよね、休憩の原因を作った人間なのに。別に恨み言をぶつけるつもりはないけど、もう少し殊勝な態度を取るべきじゃない? 理由もなく一方的に暴力を振るったんだからさ。
「俺に構わず勉強しなよ。ほら、集中集中」
「我々が注意力散漫だと言うのかい? それはキミが、ベッドの上で誘ってくるからじゃないか」
ダメージを癒やすために横になることを誘うと表現するのか? じゃあ病院は売春宿だな! 一体どういう倫理観してるんだ、キミ達は! そろそろ怒るよ?
「年頃だから仕方ないと思うけど、さすがに性欲が強すぎるよ。俺達は友達だろ?」
「友達だって性交ぐらいするさ。男と女なのだから」
それは良くない方のフレンドでは? 男女でも下心が一切ないグループってあるはずだよ? というか俺の周りってそうじゃん。誰彼構わず仲良くしているけど、恋人関係に発展したのは一人だけだし。いや、厳密にはまだ恋人じゃないんだけど、間違いなく相思相愛だから実質恋人でいいよね。
「だとしてもさ、テストが終わるまでは我慢しようよ。ここで頑張らないと将来後悔するからさ」
性欲のせいで浪人なんて笑い話にもならない。別に学歴が全てだとか、一流企業が全てだとか、そこまでは言わないよ。だけど少しでも良いところに行くべきだろ?
「ここまできてお預けか。ふふっ、そういうの嫌いじゃないよ」
何を言ってんだろうね、この人は。もうツッコむのも面倒だし、この場はひとまず引いてくれるっていう事実を素直に喜ぼう。
「鳩山君は、勉強できる女の子のほうが好き?」
「まあ、どちらかと言えばそうかな……?」
なんだろう、その質問は。頭が良い子と悪い子だったら、そりゃ誰だって前者じゃないか? 別にこだわりはないけど、選ぶとしたら間違いなく前者だよ。
「へぇ、そうなんだ」
あれ、質問してきたくせに興味なさそうだぞ。世間話にしても雑だなぁ。別にいいんだけどさ、もう既に友達いっぱいいるみたいだし。
おや? 晴家さんも真面目に勉強しだしたぞ? 雨宮さんに触発されたってところかな? うん、良い関係だね。この二人は上手くやっていけるよ。
うーむ……。今日でテスト期間は終わりだが、手応えがないなぁ。さすがに平均点ぐらいは超えただろうけど、学年順位は著しく落ちるだろうなぁ。
「やぁ、善吉君。約束通りエッチしよう、エッチ」
人のクラスに来るやいなや、何を言い出すんだ。開口一番がそれって、女子高生としてどうなんだろう。オブラートな表現をする気がまるでないし。
「晴家さん、他の生徒もいるから……」
「見ればわかるさ。そんなことよりゴムは用意したかい? 一応、私のほうでも買い込んでおいたが」
そんなことって……恥の概念ないのか? 俺ら二人はただでさえ評判悪いのに、これ以上下げてどうする? 急いでも遅刻しそうだから、開き直ってゆっくり歩く的な感じ? そういうのよくないと思う……いや、待って。
「か、買い込んだ? 買ったじゃなくて?」
「夏休みが近いからね」
……毎日ヤるってこと? さすがに嫌なんだけど? 晴家さんって、ここまで性欲強い人だったっけ?
「アイツらヤバくね?」
「セフレいんのにアメちゃん口説いてたのかよ」
「いっそ赤ん坊できちまえばいいのに」
悲しいなぁ。少し前まで仲が良かった同級生達が、揃いも揃って性根の腐ったクズだったなんて。あんなのと仲良くしてた自分が恥ずかしいよ。
でもいいんだ、もういい。だって……。
「鳩山君、ハルちゃん。なんのお話してたのー?」
「明るい夏休み計画さ」
「あはは、なにそれ。私も混ぜてよ」
「断腸の思いで認めよう」
俺にはまともな親友が二人もいるからね。この子達は手の平返したりしないだろうし、腹に一物持ってるなんてこともないだろう。
他の生徒達が心配そうに雨宮さんを見つめているが、諦めなよ。キミ達はワンチャンを狙っているようだが、彼女は陰湿な人間になびくようなバカじゃないのだよ。
「さっ、一緒に帰ろうか」
「おやおや。キミは付き合いの長い私よりも、雨宮さんに手を差し出すんだね」
「学校を出たら、また三人で繋ぐつもりだよ」
「ふむ……廊下は狭いからね」
どうだい? キミ達は何故か俺を見下しているようだが、俺は美少女二人と仲良く下校だよ? キミ達は誰と下校するんだい?
いかんいかん、脳内とはいえ少々陰険だったな。彼らと同レベルまで落ちてしまうのも癪だし、我慢我慢。
「アメちゃん可愛そー……」
「もうすぐ夏休みだし、そろそろ顔じゃない?」
「うわー……マジでゴミじゃん……」
「人の心なさすぎだわ」
「首絞めはキモすぎだわ、サイコじゃん」
……? 女子生徒達が意味不明なことを言ってるが、気にしないほうがいいか?
えっと、あくまでも俺の直感なんだが……なんとなく重要そうな……。
「ほら、早く行くよ! 今日も絞めていいから」
おっとっと、急に引っ張らないでくれよ。さすがに脱臼はしないだろうけど、危ないよ? キミが怪我をする可能性だってあるんだから。
「えっ? ああ、うん、そうだね。ありがとう……?」
雨宮さんが何を言っているかよくわからないけど、この空間に居座り続けるのも不快なので従っておこう。
しかし本当に気分が悪いな。罪のないクラスメイトを、まるで危険人物を見るような目で見てくるんだからさ。




