第33話 夢のタッグマッチ(リンチ)
今はエアコンがついてるからいいけど、登下校の際にそれなりの汗をかいてるはずだよな? なのにやたらと良い匂いがするのは何故?
くそっ、勉強しなきゃいけないのに、視覚と嗅覚を同時に攻撃されているせいで集中できない。
「晴家さん、そろそろどけてくれない? 俺もテスト勉強したいんだけど」
少し名残惜しいけど、いつまでもこの体勢を維持するわけにはいかない。普段なら別にいいんだけど、今回のテストは厳しそうだから勉強したいんだよ。このままだと平均点ギリギリになりかねん。
「このままでも見えるだろ? 私の教科書なら」
自分のを読みたいんだよ。それにノートとペンが使えないじゃん、これだと。
「一応見えるけど見にくいんだよ。それに自分のペースで勉強したいっていうかさ」
「ふむ……。そうだ、これならどうだい?」
何か妙案が浮かんだらしく、自分の教科書を手に取り腰を上げる。服を着ているとはいえ、突然目の前に尻が来るのは心臓に悪いな。……高身長なのに小さくて可愛いなぁ、雨宮さんがいなかったら触ってるかもしれん。
「よいしょっと」
「なっ……!」
晴家さんの行動があまりにも予想外だったのか、勉強に集中していた雨宮さんが驚きの声を上げた。
「ふふ、やはりこの体勢は落ち着くね」
あの……向かい合って重なるのはまずくない? 健全な見方をすればハグ、不埒な見方をすれば性交だよ。
「これならお互いに邪魔にならないだろう? 私は机を使えないから、腕に負担がかかるけどね」
「なんでそこまでして……」
二人きりなら全然問題ないんだけど、この場には雨宮さんもいるんだよ? 母さんが急に入ってくる可能性もあるしさ。
「この体勢が好きなんだよ。お互いに身動きが取りづらいけど、一番安らぎを覚えた体位さ」
あー……そういやヤったわ、この体位で一回だけ。でもそれをこの場で言う?
「ぐぬぬ……」
ほらー、生々しい下ネタに嫌悪感を抱いてらっしゃるもん。もしかして、現場を想像しちゃったか? 俺と晴家さんがヤってる現場を。
晴家さん、後ろ向いてるから見えないと思うけど、雨宮さん凄い顔してるよ? やめとこ? ね? ね?
「後ろからもよかったね。少し痛かったが、あそこまで激しく求められると……自分がメスだということを思い知らされるね」
本当にやめよ? 貴女、嫁入り前よ? 雨宮さんが結婚式に出席した時『でもこの人、鳩山君と色々な体位で性交したんだよね』っていう目で見ちゃうじゃん。面識のない新郎を哀れんじゃうじゃん。
「晴家さん、鳩山君」
「は、はい!」
お、俺まで呼ばれた! 晴家さんにイエローカード出るのはわかるけど、俺にまで出るのはおかしくないか? 俺ここまでノータッチよ?
「もう勉強する気はないってことでいいかな?」
半ギレでそう問いかけ、答えを待たずに教材をしまいだした。どうしよう、完全に怒らせちまったよ。もう帰る気満々じゃないか。
「うん、ハナからないよ」
晴家さん? それは薄々察してたけど、だからって馬鹿正直にそれを言うか? 相手怒ってるんだぞ?
「そっかー」
怖い怖い怖い怖い怖い、その穏やかさが逆に怖い。漫画だったら顔の上の方に黒い影が入るタイプの笑顔だよ。
「じゃあ三人で仲良く赤点取ろ?」
あ、雨宮さん? え、お帰りになるんじゃないんですか? なんで靴下を脱ごうとしてるんです? あ、あー! 今日、結構暑いもんなー。エアコン効いてるけど、ここに来るまでに靴下が汗で濡れちゃってるよね。
「こっち脱がせてくれるかな?」
俺の近くに座り込み、片足を差し出す。さり気なく晴家さんの尻を蹴ったような気がするけど、それはさておき下品だよ。パンツ見えそうだから、やめなさい。
「素足で勝負とは考えたね」
わかるの? 雨宮さんの思考がわかるの? 何を考えたら、この奇行に至る? 年頃の女の子って、人に靴下触られるの嫌だろ? 臭いとか汗とか気にする年頃だろ?
「善吉君、脱がせてあげたまえ。キミは脱ぐところのを見るのも、脱がせるのも、どちらもいけるだろう?」
いけるけど! どっちも好きだけど! だからって暴露するか? それをさ。
「余裕たっぷりだね。鳩山君は何よりも私の足裏が好きなのに」
決してそんなことはないんだけど、だとしたらなんだと言うのだろう。何をするつもりなんです? 足ツボマッサージ?
「べ、勉強! 勉強しよう!」
「そうだね、とりあえず脱がしてくれるかな?」
噛み合ってなくない? 『そうだね』って言いながら相手を無視するのって、相当感じ悪いよ? そりゃまあ、脱がしてからでも勉強はできるけども。
「晴家さんもそろそろ降りてよ! 勉強しないなら、帰ってもらうよ!」
「…………本気かい?」
なんで冗談だと思ったんだろう。誰が保健体育の勉強しようなんて言ったよ? 実技なんてないから!
「今日の晴家さんはラインを超えてるよ。さすがにふざけすぎだから、帰ってくれないかな? 俺はもう、雨宮さんと二人きりで勉強しよ……」
「……キミは拒絶するんだね、私を」
よほど俺の発言が気に触ったのか、食い気味に差し込んできた。
待ってよ、拒絶は違うくない? 真面目に勉強しろって言ってるだけじゃないか。
「キミだけは私を受け入れてくれると思っていたのだが……」
く、苦しい……。こ、これが抱擁力……? これが女子力……? 内臓が損傷しかねないぐらいの勢いで胴締めされてるんだけど、そっちはそっちで股関節痛くないのかな? っていうか、爪が背中に食い込んでるんだけど! 俺が一体何をしたって言うんだよ、何も悪いことしてないのに!
「さっきから、ちっとも硬くならないし……もう私は過去の女なのかい?」
「な、なんの話を……ってか、苦しっ……」
「昔は抱き合っただけで膨らませていたくせに、可愛気がなくなったね」
あっ、硬くってそういう……。この期に及んでまだ下ネタを?
「そう言えば、新入生の子とも仲睦まじそうに話していたね? 私とクラスが別れてすぐに新たな妾を作ろうだなんて、キミは行動力の権化だね。いや、性欲の権化と表現したほうが適切かな?」
ど、どこから突っ込めばいいんだ? 新入生の子ってなんの話だ? 多分校内の案内とか、その辺じゃないのか? 結構な数の後輩と話した気がするんだが、晴家さんが思うような関係に至った子はいないぞ? っていうかマジで苦しい……。
それに行動力とか性欲に関しては、キミ達に言われたくないよ。妾の意味もわからないし。いや、妾の意味自体はわかるよ? でもその言い方だとキミが本妻みたいに聞こえるよ? 数回ヤっただけだよね? 体の関係はあるけど、交際をした覚えはないよ? 俺なんか間違ったことを言って……あだだだだ!
「あ、雨宮さん……?」
な、なんでアイアンクローされてるんだ? え、これタッグマッチ? 五秒以内の反則だからセーフなの? 俺の相方いないんだけど?
ちょ……こめかみグリグリするのやめて! 握力低いからって、的確にツボを刺激するのやめて! わりとマジで痛いから!




