第32話 休憩時間延長
食後の休憩がてら、ゆっくりとテスト勉強の準備を始めた。まあ、準備と言っても勉強の計画を練るぐらいだが。
「善吉君は今回のテストどうだい? いつも通り楽勝かい?」
中々痛いところをついてくるじゃないか。人のせいにするつもりはないが、今回あんまり手応えがないんだよな。なんていうか集中できないんだよ。具体的に言うと、席替えしてから調子が悪い。他の生徒から無視をされだしてからは、更に悪い。メンタルってかなり重要な要素なんだなぁ。
「いやー、あんまりかなぁ」
「いつもそう言って、良い点を取るじゃないか。今回も例によってかな?」
よらないんだよなぁ。ご多分に漏れるんだよなぁ。少なくとも今日受けたテストは一科目目以外ボロボロだよ。晴家さんが気に病んだら申し訳ないから言わないけど。
「いや、本当に全然だね」
本当にどうすっかなぁ。俺の両親はテストの点数ごときでガチャガチャ言ってこないと思うけど、急に下がったら心配されるよなぁ。塾とか家庭教師は面倒だから嫌だし、なんとしてでも巻き返さねば。
「それはかなり珍しいな。善吉君はテスト期間など関係なく、コツコツ勉強するタイプだろう? 少なくとも去年は一年中そうだった」
それは俺に限らなくないか? 勉強すれば、基礎的な能力や精神が成長する上に就職にも有利なんだぞ? 高卒と大卒の生涯年収に差があることは言うまでもないし、勉強しないヤツなんているのか?
「まあ、色々とね?」
「ふむ……」
顎に手を当て考え込んでいる。理由を推察しているのだろうか? 正直自分でもあまりわかっていないし、詮索してほしくないのだが……。
しばらく考えた後に、何故か雨宮さんに視線を送る。また喧嘩が始まるんじゃないだろうか。少しばかり心配だが、見に回ろう。
「……晴家さんには興味ないから、勉強に集中できたんじゃないかな?」
え、何その的はずれなカウンター。というかそれだと、自分が原因って認めてるようなものじゃないか?
「興味があるから、彼はケダモノになったのだよ」
「………………」
あの、もうやめましょうよ。性交の話題を出すの、もうやめましょう。何を狙っているのかわからないけど、そんなくだらない話で喧嘩なんてバカじゃないですか。余計なことを言わなければ三人で仲良く出来るかもしれないのに、わざわざ友情を崩壊させるなんて……。
「私の貧相な体に欲情するなんて、よほど私が好きじゃなければありえない話さ」
あの、本当にやめません? 処女を奪っておいて一年も放置したことを怒っているのかな? でも俺だって初めてだったわけだし、おあいこにしませんか?
っていうか別に一年は放置してなくない? 違うクラスになってから、まだ三ヶ月かそこらでしょ? 俺別に悪くなくない?
「……あのさ、晴家さん。ちょっといいかな?」
一見すると笑顔だが、明らかにキレている。質問というより、詰問が始まりそうな予感がしてならないんだが?
「なんだい? スリーサイズかい?」
「それは調査済みだから別にいいよ。それよりね? 去年たまたま同じクラスだったからって、マウント取らないでもらえるかな?」
マウント……なのかなぁ。俺と性交したことなんてなんの勲章にもならないと思うんだけど、それより……調査済みって聞こえたんだが……? え? それってその、晴家さんのスリーサイズを……? なんのために……? 怪しい業者に売りつけるつもりかい?
「悔しいなら雨宮さんもすればいいよ。ちなみに私の時は、彼のほうから体の関係を求めてきたよ」
「あ……?」
え、確かに『ヤろう』って言い出したのは俺だけど、雰囲気を作ったのはキミじゃないか? あの状況は誰であっても魔が差すってばよ。
とにかくこの流れはまずい。何故俺とヤったヤらないで喧嘩になるかはわからんけど、止めないとまずい。現時点で雨宮さんの目が、殺戮者のそれになってるもん。よし、無理矢理にでも止めよう。
とりあえず手をパンパンと叩き、二人の気を逸らしてみることにした。
「そろそろ勉強しないかい? 雑談は休憩時間にしようよ」
とは言ったものの、できることなら金輪際この話をしないでほしい。多分叶わぬ願いなんだろうけども。
「それもそうだよね。私は鳩山君と勉強がしたくて来たんだもん」
そう! そうだよな! こんなしょうもない猥談をするために集まったんじゃないよな! きっと晴家さんも同じ……。
「私は久々に体を重ねるのが目的で来たよ」
早急にお引き取り願いたい。テスト最終日ならいいけど、今は違うくない? 別に悪影響はないだろうけど、だとしてもタイミング……というか雨宮さんいるんだよ?
「晴家さん、勉強しないなら帰ってくれるかな? 私と鳩山君は真面目に勉強したいんだよ」
そうだそうだ、申し訳ないけど帰ってくれ。そりゃまあ、ね? ここまで性交性交言われたら、久々にヤりたくなるけども……でもね? わかるだろ? いや、わかった上で言ってるな、この人。
何故雨宮さんが過剰に反応するのかはわからんけど、それ目的だよな。煽るためにわざとこういう発言してるんだろうね。本当になんのためよ。雨宮さんと喧嘩したいのかな? 喧嘩ごっこがしたいのかな? プロレスってヤツ?
「安心したまえよ。さすがの私も、テスト前に体力を奪う気はない。善吉君は一発だけで呼吸が乱れるほど、体力がないからね」
いや、誰でも乱れるよ。多分それが正常だと思うよ? もうどうでもいいから早く勉強しようよ、休憩時間にしちゃ長過ぎるって。もう満腹感はないだろ? じゃあ勉強だ、勉強。いい加減にしないと、俺の中に眠る教育ママの人格が……。
「だから今はこれで我慢しようじゃないか」
え、何、何、何? なんで近づいてくるの? うぐっ……。
「暑い時期だが不思議と不快感はないね。いや、不思議でもないか。むしろ自明の理と言うべきだろうか?」
あの、晴家さん? 机が上手く見えないです。貴女、座高が人一倍高いんですから気を遣ってくださいよ。
「……その体格で膝の上に乗るのはどうなのかな?」
よく見えないけど、凄い顔してそうだな。電車でイチャつくカップルを見ると腹が立つ的な?
「キミは大型犬を愛せないタチかい?」
あっ、なんかスジ通ってる気がする。別にそんなことはないはずなんだけど、正しい言い分な気がする。
「……狐のくせに」
なんで雨宮さんは、晴家さんを狐呼ばわりするんだろうね? 目つきが鋭いっていうか、ツリ目だからかな?
「同じイヌ科じゃないか」
「ずいぶんとお喋りが上手なんだね。それなのに一人ぼっちなんて不思議だねぇ」
「そういうキミはお喋りが下手なのに、友人がたくさんいるようだね。今からでも会いに行ってきたらどうかな? ちなみに私は量より質を取るタイプだよ」
なんで喧嘩になるのかな。ただ膝の上に乗っただけじゃん。ちょっと甘えてきたぐらいで、何をカッカしてるんだ? 雨宮さんも後で膝の上に乗ってきたらいいじゃないか。なんだったらキミら二人で乗せあいなよ。
「その状態だと鳩山君が勉強できないよね? もう少し他人のことを気遣ったほうがいいと思うよ?」
「ふふ、いずれ他人じゃなくなるのだから、問題はないだろう」
いや、多分そういう意味じゃないと思うよ? 雨宮さんの言う他人って、自分以外の人って意味だと思うよ? この場合、家族だろうと他人判定だと思う。
「本格的に付き合ってから言いなよ。一度体の関係を持ったくらいで彼女面なんて、どっちも可哀想だよ」
「それは応援かい? ありがとう、雨宮さん」
「…………叩かれたいなら、そう言いなよ」
もうダメだ、キャットファイトが始まるまで秒読みだよ。二人共他人に危害を加えるような子じゃないと思うけど、この二人が揃った時に限り、話が変わってくるらしいな。いわゆる同族嫌悪? なんでだよ、同族なんだから親近感とか愛着とか、プラスの感情が沸くべきだろ。
……あの、そろそろ本当にやめない? また母さんが殴り込んでくるよ? テストが終わってから、気が済むまで喧嘩すればいいじゃない。っていうか俺は無関係なんだから、俺のいないところで雌雄を決しなよ。
……はぁ、巻き添えってツラいなぁ。




