第27話 契り
よし、晴家さんを下校に誘おう。本当なら雨宮さんにも声をかけて三人で帰りたいところだが、二人ともシャイだから気まずくなるかもしれないし、そもそも雨宮さんはクラスメイトと勉強会だ。俺も混ざりたいけど、何故か嫌われてるからなぁ。
「あっ、晴家さん」
予想通り一人だ。さすがロンリーウルフ。
「む? わざわざ下駄箱で出待ちとは、善吉君は欲求不満だね」
違うクラスの旧友を下駄箱で待つことが何故、欲求不満に繋がるのだろう。相変わらず難解だ、彼女は。
「あはは、人肌が恋しいって意味じゃ欲求不満かな?」
ある日突然皆から無視されるなんて、こんなに辛いことがあるだろうか。人は一人では生きていけないんだよ? どうしてこんなイジメみたいなことが、平気でできるんだ? 倫理観どうなってんだ?
「……テスト前だと言うのに、男の子は大変だね」
「……? そうだね……?」
「普通は自分で処理するものだがね。善吉君程の男なら、都合のイイ女が山程いるというわけか」
なんか知らないが、やりとりに違和感があるな。確かに家の方向が同じというのは都合がいいけど、別に女の子にこだわってはないぞ。自分で処理というのもよくわからない。寂しさぐらい耐えろってことか? 男だって寂しいものは寂しいぞ。
「ふう……私以外にも山程いるだろうに、どうして今さら……」
うう……しばらく声をかけなかったことを怒ってるのか? だって違うクラスだもん。俺とばっかりツルんでると、新しい友達ができないじゃん。
「山程? (家が近くて一人ぼっちなのは)キミしかいないよ」
「……私しかいない?」
「うん。キミしか(一緒に帰ってくれる人は)いないよ、俺には」
「……私もずいぶんチョロいねぇ」
おっ、どうやら一緒に下校してくれるらしい。よかったぁ、断られたらどうしようかと思ったよ。
「しかし、いいのかい?」
急になんだろうか、どちらかと言えば俺のセリフなんだが。今の俺と下校するなんて、大半の生徒は嫌がるだろうに。
「と、言うと?」
「いや、なに。方便とは言え『キミしかいない』だなんて、軽々に言ってしまってもいいのかい?」
むしろ重々しく言うべきようなことだったのか? 下校の誘いってそんなに重大な案件なの? 別に方便でもないし。
「どういうことだい? まるで他人に聞かれちゃまずいかのような……」
「まずいだろう? 回り回って、あの子の耳に入るかもしれないよ?」
あの子……? どこのどなた? いや、そもそも知られたくない人ってのがいないんだが? 俺と晴家さんの関係ってまあ……男女の仲と言えば男女の仲だけど、不健全性的行為で教師にチクるヤツなんていないだろ? 仮に密告されたところで、特にお咎めなんてないだろうし。
「誰が何を言おうと、俺とキミの関係を邪魔させはしないさ」
よほどの妬み屋でもない限り、高校生の情事に文句なんて言わんだろ。お互いに同意の上だし。
「それは………………」
……? 何? ローディング入った? ナウローディング? 足を止めてまで考え込んでるけど、そんなに引っかかる要素あった?
「なんだい? キミが何を言っても怒らないよ?」
「……それは、私を取ったと解釈していいのかい?」
……? 晴家さんを取った……? それはその……複数の選択肢がある中で、晴家さんを選んだってことだよな? いや、どういうこと? 咀嚼しても意味をよく理解できなかったんだが?
あっ、もしかしていつもの自虐? 『自分なんかと一緒にいたら他の生徒に嫌われるのに、それでも私と過ごすのかい?』ってことか? なーんだ、一年経ってもまだそんなこと言ってんのか。バッカだなぁ、この子は。
「(色眼鏡で見てくる人達より)キミのほうが(友達として)遥かに大事に決まってるだろう?」
「……! ふぅん? どうせ同じことを言ってるんだろう?」
同じこと? それはその、晴家さんを遠巻きから馬鹿にしている人達にってこと?
「いや? キミにしか言わないよ?」
「……善吉君がそう言うなら信じよう。嘘だとは知りつつもね」
嘘じゃないんだけどなー。っていうかそれ、信じるって言うの? 〝仕方がないから話を合わせる〟の間違いじゃない? まあいっか。
「友として忠告しておくが、二兎を追えば二兎から噛み殺される可能性もあるよ」
なんだそりゃ? 両方に逃げられるんじゃなくて、反撃されるの? ははは、恐ろしい兎もいたもんだね。きっとラノベとかアニメの引用だろうね。
「肝に銘じておくよ。ありがとう」
「ん。覚悟の上ってことだね」
いや、別に兎を追いかける趣味はないんだけど……。
「兎に噛まれるのも悪くないさ。殺されるのはちょっと嫌だけど」
「……おいおい、夏服だよ? ネックウォーマーすら巻けない時期だというのに」
意味がまったくわからん。保護具? 兎の噛みつきはネックウォーマーで防げるってこと? あんな防寒着ごときに防刃能力あんの? というか兎って、そんな的確に頸動脈を狙ってくるんだ。
「指とか腕かな、噛まれるとしたら」
「指ねぇ……」
「む? 晴家さん?」
急に俺の手を取ってきたが、なんだ? こんな普遍的な指なんか見つめて、一体何を……あだっ!?
「あだだだだ! 血! 血出るって!」
なんで!? なんで指を噛まれてんの!? しかもなんで薬指? 人の指なんて噛んだことないけど、一番選ばない指じゃない?
「しょっぱいなぁ」
傷害事件を起こしておいて開口一番それかい。これが裁判だったら、情緒酌量の余地無しって判断されるよ? 別に訴訟する気はないけども。
っていうか糸引いてるって! あーもう、唾液まみれになったじゃないか。
「いったいなぁ、もう。ちぎれたらどうするのさ?」
「ある意味ちぎったね。ふふふ、我ながら上手いかな」
……………………? さっぱりわかんないや。
あーあ、相変わらずミステリアスな子だよ。こんなんだから新しいクラスにも馴染めないんだよ。
これは足しげく通う必要があるな。テスト期間が明けたら、昼食は晴家さんと取るようにしよう。っていうか土日も遊ぼうかな。俺に依存しない程度に接して、コミュ力を上げないとね。
「指の直径が変わっても問題ないんだから、本物よりいいよね。まあ、いずれは本物も用意するが……」
ほら、また意味不明なことを言ってるもん。漫画とかアニメを禁止する気はないけど、影響受け過ぎちゃダメだって。いやぁ俺の周りは、ほうっておけない女の子ばっかりだねぇ。




