第26話 旧友
えっと、四組で合ってるはずだよな? 晴家さんは多分、出席番号結構後ろの方だよな? んー……おっ、いたいた。相変わらず一人でいるなぁ。
なんかやけに注目を浴びてる気がするけど、何故だ? 別のクラスの人間が訪ねてくるなんて、珍しいことでもないだろうに。
「何しに来たんだろ……」
「自分の教室に居場所ないんじゃね?」
え、俺? ひょっとして俺に向けて言ってらっしゃる?
待て待て、落ち着け。疑心暗鬼になってると、被害妄想が激しくなるもんさ。隣の芝は青いの逆バージョン的な? ははは、それは全然違うか。
「やぁ晴家さん、調子どう?」
テストが近いってのに読書とは余裕だなぁ。美少女が表紙のラノベをカバー無しで読めるのは、中々に豪胆だよね。不良っぽい生徒が多い学校だから、ウザ絡みされそうなもんだけど。
「ふむ、善吉君か。久しぶりだね」
一瞬だけ俺に視線を向け、再びラノベに目を落とした。うーむ、喋り方といい、雰囲気といい、相変わらず……。
「今日もクールだね。カッコイイよ」
ウルフカット、鋭い眼光、塩対応、抑揚のない声、何を取ってもクールビューティだよ。ダボダボの白衣でも着れば、同性からモテるタイプのマッドサイエンティストに見えるだろう。
「……変わらないな、善吉君は」
「キミこそ、以前と変わらない佇まいだよ。女子校だったら、孤高の王子様になっていたかもね」
難攻不落という噂が立って、それがまた人を惹きつけるというタイプだろうな。残念ながらこの高校では、孤高というより孤独なわけだが。
「女としての魅力は無いと?」
あはは、本当に変わらないや。以前の彼女も、きっと同じセリフを吐くだろうね。
「そりゃ無理があるよ。その美貌で魅力が無いなんて」
他の生徒の手前、大きな声では言えないが、彼女が魅力皆無なら他の女子は汚物同然だよ。別に他の女子がダメってわけじゃないよ? 彼女が美しすぎるのさ。
「私もチョロいな……。キミの言葉を真に受けるのは馬鹿だと知りながらも、馬鹿の道を歩んでしまう」
相変わらず難解だな、彼女の言葉は。まるで俺の言葉が、その場しのぎの軽い言葉であるかのような言い方をしおってからに。
「それで? テスト前にスッキリしにきたのかい?」
スッキリ……? 少々変な表現だけど、正解だ。同級生達から不当に嫌厭されているので、旧友と談笑して気分を晴らそうという魂胆だからね。いやぁ、彼女は俺のことをよく理解してるね、嬉しいよ。
「うん。失礼な言い方かもしれないけど、キミが適任かなって」
「……本当に失礼だね」
呆れ返った顔をしているが、これは彼女なりの演技さ。確かに彼女は捻くれ者呼ばわりされているが、都合の良い女扱いされてるなんていう被害妄想をするほど、捻くれていないよ。むしろ根は真面目、純情さ。
「あはは、ゴメンよ」
「もっと謝ったほうがいいね。キミの本性は、もう既に露呈しているんだ」
これも彼女なりの演技……だよね? ラノベを嗜んでいるだけあって、意味ありげに見えて無意味な茶番を好むタイプなのだろう。普段の喋り方も芝居がかってるし。
「しかしまあ、私もスッキリしたよ」
お? 晴家さんも俺と話したかったのかな? そっか、彼女は去年と変わらず孤独なんだな。いやぁ、足しげく通ってあげるべきだったね。
「ずっと疑問だったんだよ。なんで私みたいに目つきが悪くて、不気味に背が高い女に構うのかと」
不気味にって、確かに女子で百七十センチ超えは珍しいかも知れんが、そこまでおかしくはないだろ? スポーツ選手なら普通サイズだろうし。
「見た目なんてどうでも……」
「ふふ、どの口が言ってるのかな? 容姿に恵まれていないからこそ、声をかけたのだろう?」
……? 色々とおかしいぞ、今のセリフは。彼女は去年、容姿に対するコンプレックスを解消したはずだ。仮に再発していたとしても、今のセリフはおかしい。可愛い子を選んで声をかけるのはわかるけど、逆はないだろ?
「俺がブス専だってこと? だとしたらキミは完璧に対象外だなぁ」
「……あの手この手で褒め殺しにくるね」
違うんだよ。キミや雨宮さんが、あの手この手で卑下してくるんだよ。
「ははは、実はそれを望んでたりして? なんてね、そんなはず……」
「望んでるよ? 自虐すれば、キミは褒めてくれるから」
……おや?
「い、意外と強かだね。いや、意外でもないのかな」
恋愛強者って感じするもんなぁ。クール系だからかな?
「初めは本気でコンプレックスだったさ。でもキミに出会ってから自信がついた」
おー、かなり嬉しい言葉だ。俺のおかげで救われた人間がいるってのは、俺自身の自信にも繋がるからね。
「最初はからかわれているのだと思ったよ。キミの褒め言葉を聞くのが、苦痛で仕方がなかった」
マジか……それはちょっと、考えが足らなかったかもしれない。どちらかと言えば彼女のマイナス思考に原因があると思うけど。
「それはゴメン……」
原因はどうであれ、傷つけたことに変わりはない。手遅れかもしれないが、精一杯の謝罪をさせてもらおう。
「謝る必要はないさ。ある日を境に、キミの言葉が心地良いものになったからね」
心地良いもの? 捉え方が変わったということか? どういう心境の変化だろう。
「えっと、それは、俺の言葉が真実だと知った……」
「好意だよ」
「え……?」
行為? 好意? いや、厚意か。お節介ってことか? ああ、人情に触れて心が温まったってことね。
「まっ……。ただの錯覚だったようだが」
「ふぇ? 錯覚?」
「……私のほうは本物なんだがね」
わからん……。雨宮さんにしろ晴家さんにしろ、言葉が足りないんだよな。友達が少ないとはいえ、高校生なんだからもうちょっと円滑なコミニュケーションをだね。
「勘違いでも嬉しかったよ。キミに求めてもらえて」
「求め……?」
「私もつくづく女だな」
……? どこで再認識したの? 男を自認してたってこと? 多様性?
あまり要領を得ないが、チャイムが鳴ったので渋々、話を打ち切り自分の教室に戻ることにした。まっ、いつもの茶番、寸劇だろうから気にしなくていいか。
とりあえず放課後、下校に誘ってみようかな。まだまだ話足りないし。
そういや教室に戻ってから雨宮さんの視線が冷たい気がするけど、何があったんだろう。機嫌悪いのかな? デリケートな問題かもしれないし、忘れることにしよう。




