第21話 外堀召喚
ワンチャン救急車もアリなぐらい発熱していた雨宮さんだったが、ほんの一時間程で体調が戻ったらしく、教室に戻ってきた。顔色的にも無理してるわけじゃなさそうだし、良かった良かった。
「鳩山君、私も気付かなかったから偉そうなことは言えないんだけど……そりゃ保険医がいるよね」
……? 保険医がいるから保健室に行ったのでは……? なんか、保険医がいないという前提で行ったかのような言い草だけど、まあ熱のせいでおかしくなってるんだろうな。ここは早退を勧めるべきだろうか?
「でも鳩山君の気持ちは受け取ったよ。……凄く……嬉しかった……」
保健室に連れて行ってもらったぐらいで大げさだなぁ。隣の席の子が体調不良なのに無視するヤツのほうが珍しくない? ま、まあ……冷静に考えたらお姫様抱っこはやりすぎだったかもしれないけどね。
「別にこれぐらい何度だってするさ」
「な、何度もする……?」
あれ? また顔が赤くなってない? そりゃ保健室に搬送するぐらいお安い御用だけど、こんなハイペースで起きるイベントか?
「キミが嫌じゃなけりゃ、また抱くよ」
「い、嫌じゃないよっ! 勿論っ!」
恥ずかしがってるように見えたけど、案外お姫様抱っこ平気だったのか? それとも俺に気を遣ってるくれているのだろうか?
「それより顔が赤いけど大丈夫なのかい?」
「えっと……その……」
「やっぱり保健室のベッドより、雨宮さんのベッドのほうがいいかもね」
こういう時は家で一日中寝るに限るよ。一時的に体調が良くなったところで、急にぶり返す可能性があるし。
「……は、鳩山君……そこまで私のことを……?」
そりゃそこまで顔真っ赤にしてる人がいたら、誰だって心配するよ。血の通った人間だぞ? 仮に嫌いなヤツでも、よっぽどの恨みがない限りは助かってほしいよ。
「勿論だよ。その顔を見たら……そりゃね」
「わ、私の顔を見て……? そ、そんなに?」
「うん。可能であれば今すぐにでもベッドに連れ込みたいね」
「あわわわ……」
赤面に加えてパニックまで起こし始めたんだけど、ガチで救急車呼んだほうがよくないか? なんにせよ早退は確定だよな?
「雨宮さん、今日ってご両親いるのかい?」
「……!? そ、それって……」
「うん、そうだよ」
歩いて帰るの厳しそうだし、ご家族に車出してもらわないとね。あー、でも父親しか免許持ってないパターンとかあるよな。特殊な仕事でもない限り今は仕事中だろうし、どうしたもんか。
「い、いないよ! 夜までいないよ!」
夜までかー……さすがにそんな時間まで学校で待機はできんよなぁ。
「んー、じゃあ俺の親に頼んで車出してもらおうか?」
「く、く、車……!?」
「遠慮しなくてもいいよ? 俺の親はそういうの気にしないタイプだし」
どうせ昼間はバラエティ番組でも見ながらゴロゴロするだけの生活だし、呼び出しても平気さ。むしろ同級生の女の子を見捨てるほうがよっぽど叱責案件だよ。
「く、車はさすがに……それにお義母様の前で……」
「ハハハ、大歓迎だと思うよ? 可愛い娘が欲しいって、いつも言ってるし」
「む、義娘っ!?」
今日の雨宮さんは、声とリアクションがいちいち大きいな。体調が悪すぎて情緒不安定なのだろうか?
「む、義娘が欲しいってことは……孫娘とかも欲しいのかな……?」
「え? あー、そりゃそうじゃない? まだあんまり考えたことなかったけど、俺も親孝行のためにさっさと結婚したほうがいいのかな」
「け、結婚? もうそこまで……?」
そんなに驚くことかね? 女子って教室で結婚関係の雑誌読んだりしてるし、男よりよほど考えてるんじゃないの?
「別に婚期を焦ってるわけじゃないよ? 俺は一人の女性を最期まで愛し続けるつもりだから、軽い気持ちで結婚なんかしないさ」
後先考えずに結婚して、そのまま離婚なんてバカバカしいからね。まあ、雰囲気に流されて性交したことあるから、あんまり偉そうなことは言えないけど。
「それって……その……そういうことだよね……?」
モジモジしながら確認を取りにきた。前から薄々思ってたんだけど『これってそういうことだよね?』ってセリフ多くない? 基本的に問題なく意思疎通ができてるはずだから、何も考えず肯定してるわけだが、そのうちすれ違いが起きそうで怖いな。
「うん、そういうことだよ」
「本気なんだね……嬉しい……」
嬉しい……? 雨宮さんが……? えっと、どういうことだ? 俺が誠実な男だから嬉しいってこと? あー、友達がガチの善人だったら、なんか嬉しいもんなぁ。俺が善人かどうかは別としてね。
「そう言ってもらえて俺も嬉しいよ」
「……幸せにしてね?」
めっちゃ人の人生に踏み込んでくるやん、この人。そりゃキミに言われなくたって奥さんは幸せにするよ? 正直余計なお世話だけど、これも成長だよね。あの引っ込み思案な雨宮さんが、人を真正面から応援できるようになるなんてねぇ。
「うん、雨宮さんもね」
「勿論だよ。任せて」
軽く胸を叩いて頼もしい返事をする雨宮さんだが、まずは体調治したら? 満身創痍の人に〝任せろ〟と言われても、不安しかないよ。
「ははは、その前にまずは家に帰らないと。早退するって先生に言ってこようか?」
「ほ、本当にいいの? テスト前なのに……ごめんね?」
……? あれ、俺も早退する流れ? 親に丸投げする予定なんだけど、俺も付き添う感じ? 別にいいんだけど、学校が認めてくれるか?
「えっと、俺も一緒に行ったほうがいいの?」
「え? だって来てくれないと……できなくない……?」
何を……? あー、ナビってことね? 確かに友達の親と会話って気まずいよね。
「住所だけ伝えたら後は勝手に送ってくれるよ。カーナビ付いてるから」
「……?」
「母さんと二人きりが気まずいのはわかるけど、体調悪い子にガンガン話しかけたりしないから安心してよ」
「……?」
何一つ伝わってない雰囲気を感じるんだけど、どういうことだ? 俺そんなに日本語おかしいかな? あっ、本格的に熱が出てきた感じ? 頭働いてないのかな?
「えっと鳩山君? 車で……その……ヤるんだよね?」
「え? 何を?」
「……? そ、その……保健室の代わりに私の部屋のベッドで……」
「え? うん、自宅療養が一番かなって」
「え? え? え? 待って? ヤる流れじゃ……」
どうしよう、見事なまでに噛み合ってないぞ。俺の話が理解できていないというよりも、初めから何かを誤解していた雰囲気があるんだが、一体何をどう勘違いしてたんだろう。
「だ、だって、さっき私の両親の話……あっ、そういう……」
どうやら勘違いに気付いたらしい。どういう思考回路で誤解が解けたのか、そもそもどういう勘違いをしていたのか、非常に気になるところだけど時間がないから置いておこう。
「じゃあ早退ってことでいいんだね? 母さんに連絡するよ?」
「………………」
あまり早退したくないのか、顎に手を当て逡巡している。いや、逡巡というか……思案? なんとなくだが、脳内で何かをシミュレートしているような気がする。
「うん、是非お願いしていいかな? ちょっと家まで歩けそうにないから」
やはりさっきの無言は思案っぽい。だって、決断したというより考えがまとまったような顔つきだもん。あくまでも雰囲気の話だから実際のところはわからんけど。
「あんまり会話しないように言っておこうか? 気まずいでしょ?」
「ううん、気にしないで。是非ともお義母様とお話したいから」
「そ、そうかい? じゃあ電話してくるね」
てっきり大人との会話が怖いのだと思ってたんだけど、杞憂だったか? 初対面の中年女性と何を話したいのか知らんけど、コミュ力を上げるって意味ではアリだな。
……なのに何故、俺は不安を覚えているのだろうか。取り返しのつかないことをしてしまった気がするんだけど、これも杞憂でいいんだよな? スマホを操作する手が震えてるんだけど、俺も風邪気味なのかな? ははは……。
ちなみに母さんは快諾してくれたし、教師も早退の許可をしてくれたよ。雨宮さんを紹介した時、二人とも嬉しそうだったのが気になるけど……女の世界は男子禁制ということでスルーしとこう。




