第19話 高嶺の花
「ケンジもフラレたらしいぞ」
「まー、マルコメ君だしなー」
「ケンジは仕方ないにしても、隣のクラスの澤井もフラレたって噂だぜ?」
「嘘だろ!? 中学時代に女子百人斬りしたって噂の澤井が!?」
……まーた雨宮さんが男をフッたよ。高橋君入れて五人目だけど、告白される頻度凄くないか? すっかり高嶺の花だなー。
フるにしたって、少しは検討とかしないのかな? 澤井君なんて、男の俺から見てもイケメン系だぞ。ケンジ君は、まあ……アレだけどさ。
「聞いてよ、鳩山君。この前ね、また男子が嘘告してきたの」
何言ってんだ、この高嶺の花は。疑心暗鬼にも程があるだろ。俺は嫌だよ? この短期間で五回も嘘告が発生する学校なんて。
「そうなのかい? 本気だと思うけどねー」
「アハハ、鳩山君みたいな物好きは、そうそういないって」
一度も口を利いたことない相手に嘘告する物好きのほうが、そうそういないよ。民度悪すぎるよ、そんな学校。
「そんなこと言うけどさ、今の雨宮さんってイケてるよ?」
俺の適当なアドバイスでメッシュを三本に増やしたのが良かったのか、ここ数日で男子からの人気爆上がりしたよなー。なんて言い方は、恩着せがましいかな?
聞くところによると、俺と話してる時の雨宮さんの笑顔で落ちた男子もわりといるらしい。これも恩着せがましいかな? でも今のところ俺以外に最高の笑顔を引き出せたヤツはいないわけだし、十パーセントぐらいは俺の功績と言っても許されるさ。
「え? そりゃ鳩山君の好みには近づいただろうけど……」
俺の好みの寄せることの意義はさておき、ぶっちゃけ適当だよ? メッシュとかも難しいことわからんから、とりあえずバランス良く三本生やそうって提案しただけなんだよね。ちなみにスカート丈が短くなってるけど、これも俺の安直なアドバイスによるものだ。
「何度も言うけど、誰から見たって魅力的だよ? なんでここまで無自覚なのか理解できないよ」
正確な評価は無理でも、ある程度わからんか? 自分の容姿が一般的にどれぐらいのレベルかって。
「だーかーらー、そんなことないって。鳩山君だけだよ? 私のスカートが短くなって喜んでるの」
絶対、俺以外の男子も喜んでると思うんだけどなぁ。多分だけど、階段を上がる時とか、足を見られてると思うよ?
「膝出すだけでも恥ずかしいのに、こんないつ見えるかわからない長さなんて……」
え、そのレベルの恥ずかしがり屋だったの? やけに長いと思ってたけど、その耐性でよくそこまで短くできたな。
「あはは、雨宮さんはお上品な振る舞いだから見えないさ」
っていうか下に何か履いてるだろ? スパッツ的な何かを。
いや、履いてないわ。よくよく思い返してみたら、足のマニキュアを見せてもらう時にパンツ見えたわ。
「……ごめんね」
「え? 何がだい?」
「見たいんだよね? 鳩山君は変わり者だから」
パンツを見たいという欲求と、変わり者って結びつかないと思うんですけど。むしろ見たくないヤツのほうが変わり者だからな? っていうか別に、見たいなんて一言も言ってないのに、見たがってることになっちゃってるよ。正解だから反論の余地がないけど。
「謝ることじゃないさ。むしろ謝るのは、短くするように提案した俺のほうだよ」
短めの女子が多いから周りに合わせるって意味で提案したんだけど、それは言わないほうがいい気がする。適当なアドバイスだと知られたら、怒られるの確定だもん。
「ううん、謝らないで。鳩山君のためなら、スカート丈なんかいくらでも短く出来るし、なんならスカートなんて履かなくてもいい」
短ければ良いってものでもないと思うけど、履かなくていいってどういうことだろうか。タイツオンリーってこと?
「ええっと、前にも言わなかったかな? 俺の好みに合わせる必要なんてないよ」
俺は自分の感覚が普遍的なものだと自負しているけど、保証はないんだ。俺の好みに合わせたせいで浮く可能性もあるわけだし、自己流を貫いてほしいよ。我流なら、多少ひどい目にあっても納得いくだろ?
「さっき言ってたよね? 嘘告じゃないって」
「え、ああ、うん」
「それってつまり……鳩山君の好みに合わせたら、女子としての魅力が上がったってことだよね?」
……そうかな? そうかも……。いや、違う。一瞬納得しそうになったけど、それはありがちな罠だ。
「雨宮さん、それはリンゴダイエットと同じだよ」
「リンゴダイエット? 何それ?」
え、リンゴダイエットが女子に通じないことある? 男の百倍ぐらいダイエットに詳しいんじゃないの? ボクサーの次に詳しい生き物だと思ってたんだけど、よくよく考えたら雨宮さんは、自分磨きをしてこなかった子だもんな。それなら知らなくても仕方ないか。っていうか雨宮さんは、元からスマートだからダイエットするって発想自体がなかったのかも。
「リンゴを食べることで痩せるってダイエットなんだけどね、これには簡単なカラクリがあるんだよ」
「カラクリ? リンゴの効果じゃないの?」
そんな甘い話はないさ。いや、多少は痩せる効果があるかもしれんけど、リンゴ食べるだけで痩せるなら苦労しないって。
「朝食をリンゴにして、適度な運動と適切な食事、生活習慣を整える。それで痩せるというわけなんだけど……」
「なるほど、わかったよ。健康的な生活してたら、リンゴがあろうとなかろうと痩せるってことだね?」
さすが雨宮さんだ。そう、自然と痩せる習慣の中にリンゴを取り入れただけの話なんだよ。これってナシでもバナナでも成立するんだよ。なんだったらチョコレートでも成立するよ? 健康な生活してたら、板チョコ一枚食べる余裕ぐらいできるもん。
「キミは頭がいい。顔も頭も良い」
ぶっちゃけ小学生でも気付くカラクリだけど、わざわざそれを口にする必要はあるまい。誰だって、頭を褒められて悪い気はしないだろうし。
「か、顔は関係ないよね? 今そういう話してないよね?」
「そうかな? わりと知性と顔ってリンクしてる気がするけど」
賢い人はわかりにくいけど、アレな人はわかりやすいよね。あんまり言うと差別と捉えられかねんから、深くは語らんけども。
「も、もう、わかったから! そのリンゴダイエットが何? 『痩せろデブ』ってことなの?」
どういう育ち方をしたらそこまでネガティブになれるんだよ。雨宮さんって既に、良くも悪くも痩せてるのに。
「違うよ、むしろもう少し肉があったほうが好み……。あっ、いや、それは俺の趣味だから気にしないで」
「肉……? なんキロ? どれぐらい体重増やしたら良い? お腹とか足がプニプニしてるほうがいいの? それとも、胸に脂肪を集中させたほうがいいの? とりあえず今の体を見てもらえるかな? 意外と着痩せするタイプかもしれないよ?」
話の本筋と無関係のところで盛り上がりだしたよ。墓穴というか、ヤブヘビだったかな。俺としては是非とも体を見せていただきたいところだけど、その欲望をさらけ出したら詰む気がする。雨宮さんが俺を狙ってるわけないし、からかってるだけってのは明白なんだけど、それでも我慢したほうがいい気がする。
「ま、まあそれは置いておこうよ? とにかくだね、俺の好みに合わせたのと、キミがモテだしたのは別問題だよ」
まったく、こんな短い文章一つのために地雷を踏むなんて。下手な例え話はしないほうがいいかもしれないね、この人には。
「なんで別問題なの? こんな地味で貧相な私がモテるなんて、本来ありえないことでしょ? 鳩山君みたいな物好きばっかりだったら話は別だけど」
雨宮さんって、自分を卑下する時と、俺を追い詰める時だけ饒舌になるよね。喋るようになったのは嬉しいけど、配分というものを考えてほしい。
「あのねぇ、メッシュ入れたぐらいでモテると思うかい? マニキュアぐらいでモテると思うかい?」
「でも実際に……」
「だからキミのフィジカルだってば」
根暗ヘアーをやめた時点でモテ確だったのよ。なんでって、元からモテる素質があるんだもの。その素質を打ち消すお邪魔要素がなくなっただけの話で、俺の功績じゃないっての。
「ポニテだろうがウルフカットだろうが、なんだってモテてたんだよ。坊主とかはさすがにアレかもしれないけど」
「……」
なんで無視よ? 俺、変なこと言ったか?
「……あのね? 褒めてくれるのは嬉しいんだけど、捨てられそうな雰囲気を感じて怖いの」
……どういうことだ? そんな雰囲気、微塵も醸し出してないと思うんだけど。
「私は鳩山君の好みの女の子になりたいの。それなのにどうして、私の好きにさせようとするの?」
あー、そういうことね。アレ……? これって、依存の始まり? 若干だけど、俺に依存しそうになってない?
「あっ、チャイムが鳴っちゃった……。じゃあ、また放課後にでもゆっくりと話し合おっか?」
……ひょっとしてなんだけど、少しずつ悪い方向に向かってないか? 俺はただ、雨宮さんに自信をつけてほしかっただけなんだ。俺に依存させたいわけじゃないし、むしろ逆なんだよ。俺抜きでも逞しく生きれるように……そう思って色々とアドバイスしてたのに……。




