第18話 キミの色に染まりたい
どうしよう、雨宮さんが完璧に校則違反を犯している。マニキュアの時点で校則違反なんだけど、メッシュはさすがにアウトじゃないか? いや、他の女子生徒も普通に入れてるから問題はないんだろうけど、男子生徒なら一発アウトだぞ? 実際、金色のメッシュを入れた男子生徒が、生活指導の教師によって坊主にさせられてたし。
「おはよう。オシャレな髪になったね」
「あっ、おはよう。……どうかな? 変じゃないかな?」
変といえば変かな? 一部分だけ赤色ってポピュラーなのかもしれんけど、紅生姜生えてるみたいだよ。
「カッコイイよ」
「ほ、ホント? 調子乗ってる感じしない?」
どれだけ自分に自信がないんだよ。告白を回避するために俺と距離を縮めてるんだろ? ってことは可愛さを自覚してるんじゃないのか? 俺の思い違いだったかな。
「活発な感じがしていいと思うよ」
「で、でも……私って根暗だし……自己主張できないし……」
言うほどできてないか? 最近の雨宮さんって、我が強い気がするんだけど。
「大人しそうな雰囲気とギャップがあって、素敵だと思うよ」
「……鳩山君って、何しても褒めてくれるよね」
だって……褒めないと様子がおかしくなるもん。髪を一ミリ切ったとかそのレベルならまだしも、メッシュに気付かなかったら何されるかわからん。
「それは俺がどうこうって言うより、キミが何をしても可愛いからだよ」
「鳩山君だけだって……」
何を言ってるんだ? 高橋君に告白されたばっかりだろ? それに他の男子だって雨宮さんを狙ってるけど、さすがに気付いてるだろ? 最近はあんまり話題に上がらないけど、それでもチラチラと視線送ってるヤツが何人かいるよ。ありゃー間違いなく惚れてるねぇ。俺ってこう見えて恋愛に関しては鋭いから、間違いないよ。
「ねぇ、本当に変じゃないよね? 本当に」
なんか今回はやたらと食い下がってくるな。自分でも薄々変だと思ってるのかな?
「誰かにそう言われたのかい?」
「そういうわけじゃないけど、こういうのって陽キャにしか許されないし……」
「そんなことはないと思うけど」
自分に自信がないと、メッシュ入れるだけでソワソワするんだな。せっかくイメチェンしたんだから、もっと楽しんだほうがよくない? よくわからないけど、こういうのって気分を上げるためにするんじゃないの?
「俺にオシャレはわからんけど、今のキミが最高に可愛いことはわかる」
「ま、またそういうことを……」
「キミはもっと自信を持つべきだよ。陽キャだの陰キャだの気にせず、自分のしたいようにすればいいんだよ。きっと似合うから」
そもそもメッシュ入れようと思った時点で陽キャじゃないの? 本当の陰キャは、わざわざ目立つことをしないよ。
それにしても、この短期間でだいぶ変わったよなぁ。目立たない目隠れ少女が、前髪バッサリ切ったかと思ったらメッシュなんか入れちゃって、マニキュアと……なんだっけ? テディベアじゃなくて……なんか足のマニキュア。名称なんてどうでもいいけど、とにかくまったくの別人になったよ。
性格も変わってきてるよね。最初はオドオドしてて挨拶さえまともにできなかったのに、今では挨拶どころか日常会話を振ってくれるし。
いい変化なんだけど、ただ……。
「わ、わかったよ。今週だけの予定だったけど、鳩山君がそう言ってくれるなら、これからもずっと入れようかな」
………………。
「赤色にしたのはなんとなくなんだけど、どうかな? 金色とか白色もアリかな? ワンポイントだけじゃなくて、もっとガンガン入れてもいいかな?」
俺の意見を取り入れすぎというか、俺の好みに寄せ過ぎじゃない? おかしいな、俺は『自分のしたいように』って言ったはずなんだけど。
「ハハハ、俺よりも女子に聞いたほうがいいんじゃない? それこそメッシュ入れてる女の子に……」
「鳩山君の意見が聞きたいんだけど、なんで他人に丸投げするの?」
なんでってそりゃ……。
「だって俺そういうの分からんもん」
こういうのってハッキリと言っておいたほうがいいよね。無責任なアドバイスで変な方向に行ったら、責任取れないもん。俺本当にセンスないからさ。
「分からないなりに考えてほしいんだけど、ダメ?」
そんなすがるような目をされても、分からないものは分からないんだよ。服装ぐらいなら気軽に変えれるだろうけど、髪の毛なんて下手にイジれないだろ?
「んなこと言われても、雨宮さんって何をしたって可愛いからなぁ……」
「そ、それはわかったから! もう!」
凄いな、この子。俺、この短期間で百回くらいは〝可愛い〟って言ってると思うんだけど、まだ初見のような反応してくれるもん。今時、こんなウブな子いる?
頬の紅潮っぷり、うわずった声色、とてもじゃないけど腹黒い子だとは思えないんだよね。時々不穏なものを感じるけど、気のせいに決まってるよ。だってこの人、誰よりも純粋だもん。将来の旦那さんが羨ましいよ。
「と、とにかく! 鳩山君の好みを教えて! 何度でも入れ直すから!」
メッシュってそんな気軽に入れていいもんなのか? おそらくだけど髪の毛って、ゲームのキャラメイク感覚で弄っちゃダメなのでは?
いや、それはさておいて……。
「俺の好み? なんで?」
そんなにセンスがあるように見えるのかね? 確かに雨宮さんの可愛さを見出したという実績があるけど、よほどの悪趣味じゃない限り誰でも気付けるだろ。
あっ、わかった、そういうことね。あー、はいはいはい。わかるよ、わかる。こういう時の直感、マジで当たるから。
「なんでって……言わせないでよ」
よほど恥ずかしいのか、両手の人差し指を合わせながら目を逸らす雨宮さん。そんなに恥ずかしがることないと思うんだけどなぁ。
アレだろ? 自分に自信がないから、他の人に委ねたいんだろう? 他のオシャレな女子にアドバイスもらうと、似合わなかった時に言い訳が効かないとか、そんな感じかな? そんなこと気にする必要ないのに。
でもまぁ、理由はどうあれ頼ってくれてるわけだし、全力で頭をひねるか。
「いいよ、キミの気持ちは充分伝わった」
「え、本当? 伝わったの?」
「ああ。俺に任せてくれて、嬉しいよ」
「……それって、そういうことだよね? そういうことでいいんだよね?」
「ああ、キミの考えている通りだ」
正直、今の念押しの意味はわからなかったが、コミュニケーションなんて意外とノリでなんとかなるもんよ。
イケメンに壁ドンされたヒロインみたいな顔をしているのが気になるけど、可愛いからもう別になんでもいいや。重大なすれ違いが生じてしまったような気がしないでもないけど、大事には至らんさ。多少のすれ違いで縁が切れるほど、俺と雨宮さんの関係は浅いものじゃないっていう確信があるし。
「鳩山君って……意外と所有欲あるんだ……肉食系なんだ……いいかも……」
何かブツブツ言ってるけど、乙女の独り言はスルーするのが紳士ってもんよ。聞き耳立てても良いことなんてないし、トイレにでも行くか。




