第17話 裏切り未遂
日に日に男子からの評価が上がっていた雨宮さんだったが、急に話題に上がらなくなったな。最近の漫画みたいだな、熱狂的なブームが起きても完結した途端に誰もネタにしなくなる的な。そう考えると昔の漫画って凄いよね、二十年以上前の作品でも愛され続けてるもん。
いや、昨今のエンタメ事情なんてどうでもいいんだよ。なんで高橋君の告白以降、誰も後に続かないんだ? っていうか高橋君は、なんで俺に冷たくなったんだ?
「高橋君、怒ってるの?」
「別に?」
明らかに不機嫌なんだけど、俺が何をしたって言うんだ? 自分を躊躇いなくフった雨宮さんを逆恨みするならまだわかるけど、俺に非はないだろ? いや、雨宮さんにも非はないし、強いて言うなら雨宮さんをチョロいと決めつけて無策で告白した高橋君が悪いよな? これただの八つ当たりじゃないか? そんな小さい器だから、フラレるんだぞ? 生まれて一度も告白されたことない子が歯牙にもかけないって、相当魅力ないってことだよ?
「なぁ、鳩山ー」
「ん? どしたの、鈴木さん」
「あのさー……あんまり足ばっか見ないでくんね?」
何を言い出すんだ、唐突に。不名誉な言いがかり……とも言い切れんな。ガン見とまではいかないけど、無意識に目で追ってたかもしれん。でもさ、こればかりは仕方なくない? 無防備すぎるんだよ、ミニスカ履いてるくせに。そりゃ男なら見るよ。
「珍しいね、キミがそういうことを言うの」
「はぁ? ビッチだって言いたいん?」
「言ってない、言ってない。キミは派手に見えて、心のキレイな乙女だよ」
「……そういうのもやめてくんない?」
満更でもなさそうだけど、拒んでいるのも事実のようだ。
なぜだ? ついこの間まで、この手の甘い言葉を望んでいたじゃないか。なんでまた急に塩対応よ?
「なんでそんなに冷たいんだ? 急に突き放されちゃ、悲しいじゃないか」
「……」
「キミとは良い友人でありたいんだけど、そう考えてるのは俺だけかい?」
「友人ねぇ……」
……? なんか含みのあるつぶやきだな。高橋君といい、このクラスに異変が生じている気がする。一体何があった?
「男女間の友情って成り立つんかな」
「俺はそう信じてるけど」
お互いにそういう思想だったら……の話だけどね。
「じゃあ聞くけどさ、もし……そういう雰囲気になったら?」
「お互いに好意があれば、まあ、なるようになるんじゃない?」
現時点ではそこまで好意ないし、向こうも似たようなものだろう。更に言うなら、今後も恋愛に発展する可能性は限りなく低い。考えるだけ無駄じゃない? 無人島に漂流でもしたら、まあ……。
「ヤるっての? マジで?」
「お互いにそういう気持ちだったら、そりゃまあ……もう高校生だし」
「……アンタ、よく言えるな。雨ちゃんの前でさ」
雨宮さんがなんだって? この手の下品なトークは嫌いだろうけど、いちいち目くじらを……。
「んー? 気にしなくていいよ、続けて続けて」
目くじらどころの騒ぎじゃない。背景に般若が浮かんじゃってるよ。
誰彼構わず手を出すなとは言われたけど、この会話もアウトなのか? 友達関係から恋人関係に発展したら……って話だったよな? 鈴木さんとの会話って。それの何が問題だと言うんだ? 別にこの場でおっぱじめようってわけじゃないのに。
「や、やめとこうかな、朝からこんな話……」
「なんでー? もっと聞きたいなぁ……」
え、ついに下ネタ解禁したの? 雨宮さんって、そういうの嫌いじゃないの? だからこそ不機嫌になってるんじゃないの?
「そんなに面白い話じゃないと思……」
「そう言わずに聞かせてよ。そういう流れとやらになった時、鳩山君がどう考えて、どう動くのかをさ……」
……なんか知らんけど、失言を責められてる気がする。俺そんなに変なこと言ったかな? お互いに同意しているなら、何をしたって問題ないよな? 不純異性交遊だという意見もあるかもしれんけど、前時代的と言うか、公務員的と言うか、なんにせよ相手にする必要がないと思うんだよね。
「雨ちゃん的にコイツの考え方を許してええの?」
鈴木さんからはどう見えてるんだろう。俺と雨宮さんの関係。
「あんまり面白くはないけど……裏切らないって信じてるから」
うん、良い笑顔。言ってることの意味はまったくわからんけどな!
「強いなー……アタシだったら、考え改めるまで蹴り上げるけど」
それは意識改革じゃなくて、圧政だよ。圧政というか悪政? 暴政?
「そりゃ私もいざとなったらそうするけど、鳩山君は大丈夫だよ。そうだよね?」
いざとなったらするんだ……。信じてくれるのは嬉しいけど、暴力を視野に入れるのやめてくれないかな? っていうか何を信じてるの? 何を持って裏切りと判定するの? 俺と鈴木さんがヤったら、裏切りになるの?
「雨ちゃんもスカート短くしたら? コイツ、短いだけで見てくっからさ」
俺をなんだと思ってるんだよ。性欲の化身だと思ってるのか?
「風評被害やめてください」
「なーにが風評被害だよ。いっつも太もも見てくんじゃん」
気付いてるなら足を組むな、足を。痴女か? 痴女なのか?
「それはキミが魅力的だからだよ。誰彼構わず見るわけじゃない」
「は、はぁ?」
「美人だし、キレイな足だし、健康的な肉付きだし、正常な男だったら見るに決まってるじゃないか」
俺の反論に、顔を真っ赤にしながら肩を震わせている。健康的な肉付きってのは言い過ぎだったか? 別にデブ呼ばわりしたわけじゃないんだけど、誤解を招いたかもしれない。
「……なんなん? 鳩山ってアタシのこと好きなん? 前から思ってたけど」
そりゃ人としては好きだけど……多分、彼女が言ってる好きってのは、意味が違うよな? ここで同意すると勘違いされかねん。
「好きってほどじゃないかな。とても魅力的な女性だとは思ってるけどね」
「…………」
「もっとも、キミから見た俺なんて、好みと真逆なんだろうけど」
昨今じゃギャルがオタクに優しくする作品が流行ってるけど、あんなのは幻想でしかない。そりゃまあ優しいギャルはいるだろうけど、恋愛はさすがにないよ。まあ、現実じゃありえないからこそ、人気が出るんだろうけどね。自己投影っていうの?
「別に真逆ってわけじゃねーけど……」
「でも不良のほうが好きだろう?」
「……え? いや、別に……不良とか今時、流行んねーけど……?」
あれ? ギャルっていつの時代も、不良に惹かれるもんじゃないの? 暴力は嫌いでも、自分のために暴力振るう男は好きなんじゃないの? 後先考えずに暴れてるのを見て〝ワイルド〟とか〝男らしい〟って勘違いして、惚れるもんじゃないの?
「じゃあ何か? 俺がデートに誘えば、来てくれるのかい?」
「……こう言ってるけど、雨ちゃん……どう?」
え、なんでそこで雨宮さん? 鈴木さんのマネージャーなの?
「さすがにこれは裏切りかなー……」
「え? なんで……」
「冗談だって言えば許すよ?」
なんで雨宮さんの許しを得なきゃいけないんだ? という至極当然な疑問をぶつけたいところだけど、なぜか雨宮さんがカッターナイフを弄ってるせいで、言葉が出てこない。いや、ここは強気に出るべきだ。ここで引き下がるのは、雨宮さんのためにならないさ。
俺は男だ。前時代的な考え方かもしれんが、男に生まれた以上は痛みや恐怖を乗り越えなければいけない。誰かを救うためなら、なおのことだ。
「雨宮さん、そういうのは……」
「局部の出血は命に関わるらしいけど、絆創膏でなんとかなるかな?」
「……さっきまでの会話、全部冗談だよ」




