第16話 言質
そういや現実世界の告白ってどんな感じなんだろうな。俺も結局、恋人関係まで発展した女子がいないし。……まあ、ヤることはヤってたから、実質恋人みたいなもんだったけど。
「お待たせ、鳩山君」
あっ、告白イベントを終えた人が来た。詳細を聞きたいけど、俺の方から根掘り葉掘り聞くのはよくないよね。
「ずいぶん早かったね?」
教室から体育館裏、体育館裏から校門、それらの移動時間を差し引くと、告白の対応にかかった時間って三分もないんじゃない? 高橋君もだいぶ、すんなりと引き下がったようだね。
「うん。向こうも本気じゃなかったみたいだったから」
……及第点とか言ってたもんなぁ。まあでも、とりあえず褒めておくか。告白を拒否するのって普通の人でも勇気がいることだし、内気な雨宮さんなら尚更だろう。
「ちゃんと断れて偉いね」
「きゃっ!?」
あっ! またやっちまったよ……。
「ゴメン、女の子って頭を撫でられるの嫌なんだよね」
雨宮さんって小動物感あるから、妹感覚で接しちゃうんだよなぁ。俺に妹なんていないけど。
とにかく手を……あれ?
「雨宮さん? 何? その手は……」
俺の手をガッシリと掴んで自分の頭に押し付けてきてるんだけど、これはもっと撫でろということか? 撫でられるのって、髪型が崩れるから嫌なんじゃないの? いや、ストレートヘアーだから崩れるとかそういう概念がないのかもしれんけど。
「撫でられるのが嫌ってのは、相手によると思うよ?」
それはそうかもしれんけど、俺は嫌な相手じゃないのか?
「……もしこれが高橋君だったら?」
「反射的に膝蹴りしちゃうかも」
なんで仕留めにいくの? その反射って、条件反射じゃなくてカウンター的な反射だよね? 反撃だよね?
「普通は手を払ったり、体を反らしたりするんじゃないかな?」
「恐怖とか嫌悪感を感じた時に、相手を慮る余裕なんてないよ」
高橋君を嫌悪してるんだ……。俺に嫌悪感抱いてなくて良かったよ、危うく膝蹴りされるところだった。
「この前も思ったけど、雨宮さんって少しばかり攻撃性を秘めてるよね」
「私のお母さん厳しいから、イジメられそうな時は反撃しろって教えられてて」
それはなんと言いますか……。人の親を悪く言いたくないけど、前時代的と言いますか、後先考えてないと言いますか、想像力が足りてないと言いますか。
そりゃまあ、家庭の数だけ教育方針が存在するってのはわかるんだけどさ。
「それは気を強く持てって意味じゃない? ウジウジしていると余計にイジメられるから、強気に出ろっていう……」
「それもあるだろうけど、もしもの時は手を出していいって」
キミの母上殿、ヤンママかい? それとも武闘家?
「そっか、深くは聞かないけどさ……。とりあえず手を離してくれないかな?」
会話中ずっと雨宮さんの頭に手を置かさせられてるんだけど、異様な光景だよ。第三者から見れば、雨宮さんの記憶を読み取ってるように見えるよ。
「だって……離したら撫でてくれないでしょ?」
「撫でてほしいならいくらでも撫でるよ。いつでもね」
減るもんじゃないしね。雨宮さんのキューティクルは減りそうだけど。
「え、それって……」
「うん、そのまんまの意味だよ」
「……もー」
あっ、ようやく手を離してくれたぞ。もう満足したから、撫でなくてもいいってことだろうか? 『もー』の意味はわからんけど。
「じゃあそろそろ帰るかい?」
今更だけど、まだ校門なんだよね。監視カメラなんていちいちチェックしてないだろうけど、こんなところでイチャイチャするのはちょっと……。
「……あの……そろそろいいよね?」
なんだこの手? 握手か? それとも……。
「まさかとは思うけど、手を繋いで帰ろうってこと?」
「ダメ……かな?」
うう……そんなウルウルした目で見られると、断るに断れないよ。変な噂が立ちそうだから、正直遠慮したいところなんだけど。
「俺はいいんだけど、雨宮さんはいいの? 俺と交際してるとか、そういう噂が立つ可能性があるよ?」
「……? うん、いいけど……?」
あれ、俺がおかしいのかな? 雨宮さんと関わりだしてから疑問符を使う頻度がかなり増えたんだけど、俺と雨宮さんって相性が悪いのかな。思考回路が違いすぎるというか、なんというか。
あっ、そういうことか! 他の男子に告白されるのが嫌だから、俺と付き合ってるという噂が流れたほうが、都合が良いってことね。
うーん、それはどうなんだ? 一時的に協力するぐらいなら全然いいんだけど、それをずっと続けるってのはなぁ……。
「じゃあ、握るよ?」
「あっ……大きい……」
手を握ったくらいで、そんな恍惚とした表情せんでも……。
「雨宮さんの手は小さくて可愛いね。柔らかいし」
「……それは女の子の手だから?」
「いや、雨宮さんの手だからだよ」
結構色んな女子の手を触ってきたけど、雨宮さんが断トツで小さい。別に小さければ良いというものでもないけどね。
「……あのね、実は男の子と手を繋ぐのって、体育祭のフォークダンス以来なんだ」
〝実は〟感ゼロだけど、それを口にするほどノンデリじゃないさ。というか、あんなのを手を繋ぐにカウントしていいのか?
「そっか。俺はわりと繋ぐけど……」
「は?」
いでっ!? なんで急に力を強めた? 大した握力じゃないけど、不意打ちだから結構痛かったぞ。
「どうしてそんな怖い顔してるの? 可愛い顔が台無し……」
「誤魔化さないで」
圧が……圧が凄くて……凄いです。別に誤魔化そうなんて思ってないんだけど。
「いや、純粋に可愛いと思って……」
「……」
「勿論その表情も可愛いけどね?」
「ふんっ……」
満更でもないらしく、顔をプイッと背ける。やっぱり可愛いなぁ、謎の圧さえなければもっと可愛いんだけど。
「鳩山君。私は、過去にそんなにこだわらないから……安心していいよ」
「え、うん……」
あとは言葉足らずなところさえ直ればなー。脈絡がないというか、自己完結してるというか、意思疎通が出来てると思い込んでるというか。
「でも未来にはこだわるからね?」
「そうなんだ……」
それは誰だってそうじゃない? 過去は諦めがつくけど、未来はできる限り最良な未来を目指したくなるし。
「女の子と手を繋ぐのは私で最後にしてね?」
……どういうことだろう。なんで雨宮さんで女性遍歴にピリオドを打たなきゃいけないんだ? 俺が誰と何をしようと、雨宮さんには関係ないというのに。
そこまでして告白を避けたいのか? まあ、自分の可愛さを自覚し始めたと考えたら、良い変化なんだろうけども。
「約束はできないけど、気をつけるよ」
「……約束して」
痛い痛い痛い! 親指と人差し指の間の筋肉を指圧しないで! 変なツボにダメージ入ってるって!
「お、俺が誰と何をしようと……」
「んー?」
「あだだだ! 爪はダメだって!」
ひ、ひでぇ! 指の爪を爪で押してきやがったよ! 小学生の時に流行ったよ、そのイジメ!
「じゃあ約束して? 誰彼構わず手を出さないって」
暴力を背景に交渉を持ちかけるのはよろしくないけど、これぐらいの条件なら飲んでもいいな。
「あ、ああ、それなら約束できる。約束するよ」
だって俺はそんなことしないし。そりゃまあ、仲の良い子は何人かいるし、性交の経験も何度かあるけど……それは問題ないよな? 誰彼構わずじゃないし。
どっちかと言えば、俺にこんな約束をさせることの意図が気になる。俺が交友関係を広げると、彼女にとって不都合なことがあるのか?
「ありがとう。絶対に裏切らないでね」
「ハハハ、自分で言うのはなんだけど、俺は人を裏切れない性格だからさ」
「……そっか」
なんだろう、このやらかした感……墓穴を掘ったような感覚は一体……?




