第15話 かませ犬
雨宮さん、だいぶ変わったよなぁ。マニキュア効果か知らんけど、カースト上位の女子と妙に仲が良い。盗み聞きするつもりはなかったけど、今度メイクについて教えてもらう予定らしい。いやー、俺もそろそろお役御免かな?
「鳩山ー。お前本当に雨宮さんとヤったんか?」
「雨宮さんの家、どこにあるか教えてくれよー」
問題はこの手の男子をどう処理するかだな……。見た目が変わっただけで手の平返しするような男子達を、雨宮さんに近づけていいものだろうか? 雨宮さんって押しに弱そうだし、ヤリ捨てされそうで不安だ。
いや、いかんいかん、クラスメイトを信じないでどうする? そんな畜生にも劣るようなことをするヤツがどこにいる? いるはずがなかろう。
「ヤってないよ。ヤる予定もない」
「おいおい、エッチなDVD見たんだろー?」
「ただの洋画だよ。そりゃエッチなシーンはあったけど」
「あー、雨宮さんってウブな感じするもんなー」
おお、誤解が解けたようだ。そうだよ、話し合えば分かり合えるんだよ。人間なんだからさ。
「じゃあ寝たってのは?」
「寝転べるタイプのソファだよ」
「それだけ?」
「ああ、隣合わせで寝そべっただけさ」
「ほえー……」
男子って楽でいいな。疑うことを知らないのか? ってぐらい、すんなりと信じてくれたよ。俺の人徳もあるのかな? なんてね。
「じゃあさ、じゃあさ、雨宮さんはまだ処女ってことだよな!」
「そういうことは大きな声で言うもんじゃないよ」
……俺の人徳だよな? 雨宮さんが処女であると信じたいがために、俺の話をすんなりと信じたってわけじゃないよな?
いや、だってほら……人間って自分に都合の良いことばっかり、すんなりと信じるじゃん?
「とにかく、付き合ってないんだな? 俺が雨宮さんを狙っても問題ないよな?」
告白すること自体に問題はないけど、処女であることに歓喜してる時点で、違う問題が発生しそうなんですが。
「俺に聞かれても困るよ。俺の所有物じゃないんだから」
「そっか。俺もそろそろ彼女の一人ぐらいほしかったからなぁ。まぁ、雨宮さんなら及第点かな」
もう既に告白が成功したつもりになってるのもアレだけど、雨宮さんで妥協するという考え方が最低すぎる。
でもまあ……結局は雨宮さんの問題だよな。告白を受け入れるも、拒むも彼女次第だろう。無理矢理関係を迫られたとかそういう事態が起きたら、助けにいくっていうスタンスで問題ないはず。そもそも人の恋路を邪魔しようってのが無粋さ。
ふー、ようやく今日の授業が全て終わった。今日も平和だったなぁ、今朝の出来事を除けばだけど。
さてと、さっさと帰るか。と、帰宅する準備を進めていたら……。
「鳩山君、鳩山君」
今朝、問題を起こした張本人が声をかけてきた。本当に積極性が出てきたよね。その積極性のせいで俺は、女子からの評価がダダ下がりなわけですが。
「どうしたの? 俺はもう帰るところなんだけど……一緒に帰るかい?」
「うん、一緒に帰るのは当たり前の話だけど、ちょっと相談が……」
当たり前なんだ……。一緒に帰る約束なんてしてたっけ? まあいいや、下校のお誘いをしてもらったり、相談相手に選んでもらえるあたり、良好な関係が築けてるということだもんな。
「相談? なんのことかわからないけど、下校の道すがら聞くよ」
「それじゃダメなの。だって、今すぐ起こるイベントだから」
イベント……?
「あのね、高橋君から体育館の裏に呼び出されたの」
ほー……アイツ、もう実行に移したのか。フリーだと知るや否や、速攻で告白とは中々やりおるなぁ。
「やったね」
「ヤってないよ? なんであんなのと……」
話が噛み合ってないことも気になるけど、今なんて言った? 小声だったから上手く聞き取れなかったけど、あまりよろしくない表現を用いていたような……。
「いや、そうじゃなくてだね。告白されるってことは、俺の言った通りキミは可愛いんだよ」
「え? 告白? 高橋君が?」
何を驚いているのだろうか? 体育館の裏に呼び出しなんて、告白か決闘しかないだろう。もしくは持ち込み禁止のカードゲームとかを交換したりとか。
「そんなにおかしいことかい? 一部の男子はキミのことが気になってるよ」
「……ブスが顔を出して、マニキュアとかネイルしだしたから? まあネイルは二度としないけど……」
まーた自分のことを卑下してるよ、この人。ネイルを封印する意味もわからんし。
「なんですぐ自分のことをブス呼ばわりするかなー……」
「だって……そう言えば……」
……? なんだろう? よくわからないけど、今はそんなことについて議論してる場合じゃないよな。
「まあ、とりあえず今は体育館の裏に行ってきたら? 呼ばれてるんでしょ?」
「……着いてきてくれる?」
「え、なんで? 俺、邪魔じゃない?」
風俗に母親連れて行く男がいるとか聞いたことあるけど、それに近くない? それとも、女子の世界じゃ普通のことなのか? 同伴を頼むにしても、同性に頼まんか?
「だって嘘告に決まってるし……」
「嘘告……? 嘘の告白ってことかい?」
高校生がそんな稚拙なことするか? もう義務教育修了してるんだぞ?
「よくあることだよ。大体はメッセージアプリでやるみたいだけど」
よくあるんだ……。この国、終わりだよ。
「よくあるとしても高橋君は本気さ。言っていいのかわからないけど今日、休み時間に雨宮さんのことを話してたんだ」
「救いようのないブスだって話?」
高橋君をなんだと思ってるのさ。そんなヤツ、金を積まれたって友達にしないよ。
「違う違う。フリーだってことを教えてあげたら、告白してみるって話に……」
「……フリー? 誰が?」
何が引っかかったのか、顎に手を当てながら小首をかしげる。可愛い……。
「この流れで雨宮さん以外ありえないと思うんだけど」
「……? 何言ってるの……?」
キミこそ何を言ってるんだよ。俺以外の男子とまともに喋ったことないキミが、フリーじゃないと申すか? 言っておくけど、乙女ゲームは男性経験に入らないぞ?
「あっ、わかった! そういうことだね!」
訝しげな表情をしていた雨宮さんだったが、納得のいく答えが見つかったらしく笑顔になった。よくわからないけど、自己解決できて偉い! もう俺の手助けなんていらないんじゃない? キミは自分の足で歩けるよ。
「じゃあ、校門の前で待っててくれる?」
「あれ? ついていかなくていいの?」
っていうか一緒に帰るのは確定なんだね。他に予定があるわけじゃないから、別にいいんだけどさ。
「いつも鳩山君には助けてもらってるからね。たまには私も……」
……? 一人で告白の返事をすることが、恩返しになるっていうのか? まあ、恩師への恩返しって、成長した姿を見せることだと思うけど……なんか違う気がするんだよなぁ。ちょっと俺と雨宮さんの間にすれ違いが起きているような……。
「わかったよ。頑張ってきてね」
とりあえず応援しとこう。雨宮さんの考えはよくわからんけど、これから頑張る人にあれこれ言うのも良くないしね。
「うん、任せて。キッチリと処理してくるから」
処理する……? なんか物騒なワードだけど、要するに告白を断るってことでいいのかな? 別に受け入れる義務はないから断るのは全然いいんだけど、ニュアンスがおかしい気がするんだよね。なんていうか……。
「鳩山君が気に病むことはないからね。じゃあ行ってくるよ」
俺の不始末の尻拭いしようとしてる感が否めないんだよね。夫の不祥事に対応する妻のような……。ハハ、考えすぎだよね。




