第14話 援誤射撃
理由は知らないが、俺は女子生徒から声をかけられやすい。まあ、頻繁に外国人が道を訪ねてくるって人もいるし、その類だろうね。
別に構わないさ、それ自体は悪い気しないし。でも……。
「鳩山ってさ、いつも誰をオカズにしてんの?」
結構な確率で、下品な話なんだよなぁ。慎みってわかるか? 大和撫子ってわかるか? お前のそれはナデシコじゃなくて、ナデナデシコシコだぞ。
「黙秘権を行使するよ」
「おいおい、照れんなよー。アタシだろ? アタシ」
自分であってほしいのか? 嫌悪感とかないのか? 性的消費だの性的搾取だの喚いている連中が跋扈しているが、ああいうのについてはどうお考えで?
というか、この手の話はなぜか雨宮さんの機嫌が悪くなるから、やめてほし……あれれ? 穏やかな笑顔を浮かべてらっしゃるぞ? よほど良いことがあったのだろうか? 今朝の星座占いで一位だったとか、そんなレベルではなさそうだが。
「想像にお任せするよ」
「えー? 正直に言ったら、ヤらせてやろうと思ったのになー」
本当に下品な女だ。自分に自信を持つのはいいことだが、もう少し節度を持ったほうがいいのではないだろうか?
お節介かもしれんが、正してやるべきだな。
「佐藤さん。冗談でもそんなこと言わないほうがいいよ」
雨宮さんの機嫌が悪くなっちゃうから、本当に勘弁……あれれ? まだご機嫌でいらっしゃるぞ? なんだろう、この余裕がある感じは。不適切な例えかもしれないけど、正妻の余裕っぽさがあるぞ。
「冗談じゃないんですけどー? ガチのマジなんですけどー?」
嘘をつけ、嘘を。キミのように派手な女性は、チャラチャラした不良にしか興味がないだろう? 俺を童貞だと勘違いして、からかっているだけだろ?
「言ったね? もう知らないよ? キミのように魅力的な子から誘われて我慢できる男なんていないんだから」
跡が残らない程度の力で両肩を掴み、身動きが取れないようにした。チラッと雨宮さんのほうを見たが、まだ余裕そうだ。一体どういう心境の変化だ? 変化前の心境が既に意味不明だったから、なんとも言えないけど……。
「えっ、ちょっ……」
予想外の反撃に戸惑っているようだが、まだだ、まだ終わらんよ。ちゃんと懲らしめておかないと、第二、第三の被害者が出てしまうからな。
「たとえ教室でも……これぐらいは許されるだろう」
そう言って徐々に顔を近づける。無論、本当にキスをするつもりなど毛頭ない。そもそもの話だが、佐藤さんがこのまま無抵抗を貫くはずがない。さすがに頭突きはしてこないだろうけど、反撃に気をつけねば。
「んっ……」
え、なんでキス待ち顔?
もしかしてアレか? 冗談だってことを見抜いてるのか? それとも、俺が日和ると読んでいるのか?
どっちにせよ癪だが、さすがにキスするわけにもいかんよな。
「ハハハ、何を本気に……うっ!?」
俺が佐藤さんの肩から手を離した瞬間、今度は佐藤さんが俺の顔を掴んできた。あの? 佐藤さん? 何をなさるおつもりで?
「佐藤さん……?」
なぜ顔を近づけてくるんです? なぜ本気で俺の顔を固定してるんです? っていうか痛いんですけど? え、これ……マジでキスされるヤツ? 好きでもない相手とキス……ましてや生徒が大勢いる教室なんて嫌なんですけど?
誰か! 誰でもいいから助けてくれ!
「佐藤さん」
おっ……? 雨宮さん……?
「あん? 何? 雨ちゃんもキスしたいん?」
「ううん、そうじゃなくて……鳩山君、本気で嫌がってるから」
お、おお? あの雨宮さんが……他人に注意を……? 成長したなぁ……。
「何言ってんの? 雨ちゃん」
「あのね? 鳩山君は、処女しか興味ないんだって」
……雨宮さん? 俺そんなユニコーンみたいなこと言ったか? どこの誰と間違えてんの?
いや、方便か、俺を救うための。機転を利かせたと言えば聞こえはいいけど、別のピンチが訪れないか?
「は、はぁ? マジで言ってんの?」
「うん、マジだよ。だから私にアプローチしてきたの」
マジ設定にされちゃったよ。別に処女かどうかなんて然程気にしないのに。というか、誰が誰にアプローチしたのよ。この場を切り抜けるためとはいえ、後先考えなさすぎでは? 下手したら、俺と雨宮さんが付き合ってるなんてデマが流れるよ? 困るでしょ? さすがに。
「……はぁ」
「何かな? その目は」
なんで佐藤さんからジト目を向けられてるんだろう。そんなに処女厨が嫌いなのだろうか? 別に処女厨じゃないんだけどな、俺は。
「アンタさー……。そんな不純な動機で雨ちゃんに近づいてたん? 引くわー」
あれっ、なんかとんでもない誤解を受けてる気がするぞ? 俺は下心一切なかったし、むしろ善意からの行動だし。
とりあえず訂正しておくか。もうキスをする流れじゃなくなったし、ネタバラシしても大丈夫だろ。
「いや、それは……」
「鳩山君を責めないであげて!」
雨宮さん? 人と喋れるようになったのは喜ばしいことだけど、嫌な予感がするから今は喋らないでくれないか?
「なんで庇うん? 雨ちゃん被害者っしょ?」
「……いいの。もう一緒に寝た仲だもん」
雨宮さん? 〝一緒に寝転んだ〟だよね? その言い方は語弊がない?
「え? 寝たって……」
ほらっ! この手の話に慣れてるギャルでさえ困惑してるよ!
「文字通りの意味だけど……?」
違うんだよ、雨宮さん。文字通りに解釈されるとまずいんだよ。
ほらー! 教室がザワザワしはじめたよ! 佐藤さんの強引なキス未遂で注目浴びてる状態で、雨宮さんが変なことを言うから! しかもよりによって普段の倍ぐらい大きな声で!
「マジポン?」
「マジポンだよ」
マジポンの語源が気になるけど、今はそれどころじゃない。雨宮さんの虚言を今すぐにでも止めないと、サイアクな目に遭う気がする。
「一昨日の話なんだけどね、一緒に寝ながら、エッチなDVDを見たよ」
うん、ただの洋画ね? キスシーンとかベッドシーンあったけど、決してそれメインじゃないからな? 日本のアニメにおけるパンチラみたいなもんだからな? 寝転べるタイプのソファで、アクション物の映画を鑑賞しただけだからね? 確かに濡れ場で、ちょっと気まずい空気になったけどさ。
「私はストップかけたんだけど、鳩山君がこのままいこうって……」
「ヤベーじゃん! 鬼畜じゃん!」
違う、違うよ。雨宮さんが濡れ場で、『DVD止めていい?』って聞いてきたから『これぐらい洋画なら普通だよ。このまま見よう』って返しただけだよ。わざとじゃないと思うんだけど、ことごとく語弊がある言い方をしてくるな。
「ってか一昨日も雨ちゃんの家に行ったん?」
「実質恋人じゃん」
「ポッポちゃん意外とやるなー」
「詳しく! その話詳しく!」
これだから思春期の子供は面倒なんだよ。いくらなんでも恋バナ好きすぎだろ。ここは学び舎だぞ? もっとアカデミックなトークをだな……。
まあいい、交際している事実なんてないわけだし、誤解はすぐに解けるさ。火のないところに煙は立たないってな。
「でもアイツ、雨宮さんと付き合ってるのに佐藤とキスしようとしたのか? しかも目の前で。クズすぎね?」
「普段から女口説いてるもんなー」
「別のクラスの女子の家にも上がったらしいぞ」
「ヤリチンかよ……」
「鳩山ってそうなんだ……」
待ってくれ。煙モクモクなんだけど、俺はどうすればいい?
いや、まあ落ち着け。ここでギャーギャー騒ぐのは、後ろめたいことがある人間なんだよ。自分がシロなら、堂々としてりゃいいのさ。そもそも雨宮さんだって、俺とそういう仲だと誤解されたくないだろうし。
……だよな? 雨宮さん。これはお互いにとって、不名誉な誤解なんだよな? 焦燥感が一切伝わってこない表情をしてるけど、内心ではこの状況を快く思ってないんだよな? スポーツで読みが的中した時の監督みたいな顔してるけど、俺の気のせいだよな? ……信じるよ?




