第136話 肩透かし
まだだ、落ち着いて。鳩山君は私がお義母様に認められる前提で考えてるけど、親というのは時に厄介な生き物なんだよ。息子のことが大事すぎて、奥さんにあれこれ口を出す親なんてのも珍しくないよ。子供を作るタイミングとかにも口を出してくるかもしれないし、下手をすれば望んでいない可能性もある。
「む、義娘が欲しいってことは……孫娘とかも欲しいのかな……?」
「え? あー、そりゃそうじゃない? まだあんまり考えたことなかったけど、俺も親孝行のためにさっさと結婚したほうがいいのかな」
「け、結婚? もうそこまで……?」
結婚してくれるのは分かってたけど〝さっさと〟ってことは……学生結婚を視野に入れてるってことだよね? 今思いついたみたいな雰囲気出してるけど、初めから私と結婚する気満々だったよね?
「別に婚期を焦ってるわけじゃないよ? 俺は一人の女性を最期まで愛し続けるつもりだから、軽い気持ちで結婚なんかしないさ」
はいっ、ダメ押しきました。浮気しない宣言と結婚について真剣に考えているというアピールいただきました。そっか、学生結婚が大変だと分かった上でなお、意志は固いということだね? そもそも高校生が婚期焦るわけないんだし、これはつまり必死じゃないっていうアピールでしょ? あんまりガッついたら取り逃す的な? あはは、そんな心配する必要ないのにね。逃げるとかそんなことしないし………………させないし。
「それって……その……そういうことだよね……?」
「うん、そういうことだよ」
「本気なんだね……嬉しい……」
生涯かけて愛すなんて、相当な覚悟が決まってないと宣言できないよ。重すぎて逆に軽い言葉に聞こえるもん(勿論、鳩山君の場合は本気なんだろうけど)。
「そう言ってもらえて俺も嬉しいよ」
「……幸せにしてね?」
「うん、雨宮さんもね」
「勿論だよ。任せて」
〝一生尽くす〟じゃなくて、〝二人でお互いを幸せにしよう〟ってのがいいね。本気だというのが窺えるよ。
「ははは、その前にまずは家に帰らないと。早退するって先生に言ってこようか?」
「ほ、本当にいいの? テスト前なのに……ごめんね?」
「えっと、俺も一緒に行ったほうがいいの?」
「え? だって来てくれないと……できなくない……?」
「住所だけ伝えたら後は勝手に送ってくれるよ。カーナビ付いてるから」
「……?」
そりゃ私を送ることだけを考えたらそれでいいかもしれないけど……。
「母さんと二人きりが気まずいのはわかるけど、体調悪い子にガンガン話しかけたりしないから安心してよ」
「……? えっと鳩山君? 車で……その……ヤるんだよね?」
「え? 何を?」
あっ、いやっ、うん、車でヤるわけないよね。あはは、やっぱりそこは私のとんでもない勘違いだよね。でもそれはそれとして……。
「……? そ、その……保健室の代わりに私の部屋のベッドで……」
「え? うん、自宅療養が一番かなって」
「え? え? え? 待って? ヤる流れじゃ……」
あんまり女の子がこんなところで〝ヤる〟って言わないほうがいいんだろうけど、今はそれどころじゃない。
「だ、だって、さっき私の両親の話……あっ、そういう……」
まさか……まさかとは思うけど……。
「じゃあ早退ってことでいいんだね? 母さんに連絡するよ?」
「………………」
本当に体調不良だと思われてる? 鳩山君のアプローチが激しすぎて発熱してただけなんだけど、風邪か何かだと思われてる?
「うん、是非お願いしていいかな? ちょっと家まで歩けそうにないから」
あはは、嬉しいな、本気で私のこと心配してくれてるんだ。私の体調を気遣ってくれてるんだ、優しいなぁ。
「あんまり会話しないように言っておこうか? 気まずいでしょ?」
「ううん、気にしないで。是非ともお義母様とお話したいから」
……またもや肩透かしを食らっちゃったけど、この勘違いはこの勘違いで最大限に利用させてもらうよ。別に怒ってないよ? 私は切り替えが下手な性格ってだけで、この恥ずかしい勘違いをいつまでも引きずるつもりはないよ。
「そ、そうかい? じゃあ電話してくるね」
……絶対に打ち解けてみせるからね。嫁姑問題なんて起こさせないから。
「母さん、こちらがさっき話した雨宮さんだよ」
「あ、雨宮です……。よろしくお願いします……」
「ええ、よろしくね。私が責任を持って送り届けるから、善吉は気にせず授業を受けなさいよ」
頼りになるお義母様だなぁ。これは難攻不落かも……。
「え? ああ、うん。気をつけてねー」
「色々ありがとうね、鳩山君」
「うん、気にしないで。早く元気になってよ」
「うん、ありがとう」
最後の最後まで鳩山君は優しいなぁ……。




