第134話 婚前交渉(救護活動)
お、お、落ち着こう。プロポーズされたってのは確定なんだけど、すれ違いを防ぐためにもちゃんと確認を取っておかないと。思い上がりとか勘違いで暴走する痛い女は嫌いだし、万が一にもそういう哀れな女になりたくない。
「そ、その、鳩山君? えっと、その……私と席が離れても平気ってのは、その、離れてても心は……的な……」
「うん、その解釈でいいと思うよ」
はい、確定です。片時たりとも私のことを忘れずに想い続けてくれるんだってさ、あはは、熱すぎるよ。心臓がバクバクいってるよ。
「……そっか、鳩山君がそこまで言うなら席替えを受け入れるよ」
血の涙を流しそうなほど辛いけど、鳩山君だって死ぬほど辛いんだから、私も頑張らないとね。
「俺も受け入れるよ。辛いことだけどね」
「アハハ、やっぱり鳩山君も辛いと思ってたんだ」
素直になってくれて嬉しいよ。痩せ我慢してる貴方も素敵だけどね。
「ああ、凄く辛いよ。キミと同じ名字だったら、また隣になれたのにね」
「お、同じ名字!?」
露骨! 露骨すぎるって! さっきのも大概だけど、同じ苗字になりたいってのは露骨すぎるよ! 今すぐ……高校生のうちに結婚しようってこと? うー……一秒でも長く私と過ごしたいだなんて、当たり前のこととはいえ面と向かって言われると体が熱くなってくるよ。
「あはは、でもそれだと家族だと思われちゃうね」
「か、家族……? それって、その……」
「まあ、俺的にはアリだけどね」
「ま、待ってよ、そんな急に、そんな……」
限界、これ以上は無理だって。いや、さすがにこれ以上の攻めはないだろうけど。
「えっと、一緒に保健室行く?」
「……!?」
究極の攻めがきたんだけど! 神の一手! 最善手でもあり、禁じ手でもある最強の一手!
「は、はと……鳩山君……そんな、ダメだって……」
神聖なる学び舎を性なる学び舎にするなんて、そんなのダメだよ。気持ちは分かるけど、せめて私の家で……。
「ゴメンよ。キミがなんと言おうと、無理矢理にでも連れて行くから」
「ちょっ!?」
肉食系にも程があるよ! まずい、まずい、本当にまずい。普段は紳士的な鳩山君だけどたまに、いきなり所有欲や性欲、強引さを見せてくるんだよね。私ってそういうギャップに弱いみたい。それほどまでに自分が求められていること、性欲を抑える能力に長けた男の理性を壊してしまったこと、それらに対する優越感もあるのかな?
「おんぶしようか?」
「お、おんぶ? えっと、その……?」
「お姫様抱っこのほうがいい?」
もうダメ、完全に落ちました。学校でエッチなことはダメだとか、皆の前でお姫様抱っこはまずいだとか、もうしばらく健全なお付き合いをしたいだとか、その辺の面倒くさい考えは全てぶっ飛びました。もう完全にメスです、私は卑しいメスです。
「…………家族……ついに……」
私は決して重い女じゃないけど、ここまできたら結婚を確定させても許されるはずだよ。この期に及んで『実は他に好きな人がいてさー。っていうか俺は結婚とか別に考えてなかったっていうか、キミは親友みたいなものかなって』とか言い出したら、男に生まれたことを後悔させちゃうよ。それぐらい許されるよね? もうその段階だもんね? もうちゃぶ台は返せないよね、ここまできたら。認識の相違があったとかそういう言い訳が通じない段階まできてるもんね。
……血が出るんだよね? 保健室のシーツ汚しちゃうけど、これどう誤魔化すんだろう。オキシドール……だっけ? アレでなんとかなるのかな? 匂いとか音とかそういうのどうするんだろう。
……鳩山君、真剣な顔してる、カッコいい……。何があっても絶対に私のことを幸せにするって覚悟が見て取れるよ。こんな素敵な人にお姫様抱っこされてるなんて、本当にお姫様になった気分だよ。他の女子生徒がキャーキャー喚いてるけど、いつもと違って不快感がない。むしろ称賛、万雷の拍手のように感じる。ああ……もっと、もっと騒いでほしい。この騒音が何度でも私を勇気づける。




