第131話 依存(にようやく気付きかけている鳩山君)
「ええっと、前にも言わなかったかな? 俺の好みに合わせる必要なんてないよ」
えっ? ここまで私を自分好みに改造しておいて、今更何を言うの? メッシュ三本だよ? もしかして我流で鳩山君の好みに合わせろって言ってる? むむむ……それはまあ、鳩山君が望むなら一生懸命頑張るけども……。
「さっき言ってたよね? 嘘告じゃないって」
「え、ああ、うん」
「それってつまり……鳩山君の好みに合わせたら、女子としての魅力が上がったってことだよね?」
私はオシャレに疎いし、センスもない。鳩山君はオシャレに疎い方だと自認してるらしいけど、私よりは確実にある。だって前より男子から視線感じるもん。確実に平均に近づいてるもん。
「雨宮さん、それはリンゴダイエットと同じだよ」
「リンゴダイエット? 何それ?」
寓話かな? 酸っぱい葡萄的な感じの。
「リンゴを食べることで痩せるってダイエットなんだけどね、これには簡単なカラクリがあるんだよ」
「カラクリ? リンゴの効果じゃないの?」
脂肪とか糖分を分解する酵素だとか、基礎代謝を上げる成分とか、そういうのがリンゴに含まれてるんじゃないの? あんまり詳しくないけど、減量中のボクサーってリンゴばっかり食べてるイメージあるし。
「朝食をリンゴにして、適度な運動と適切な食事、生活習慣を整える。それで痩せるというわけなんだけど……」
あーね。詐欺師っぽい手口だね、こりゃ。
「なるほど、わかったよ。健康的な生活してたら、リンゴがあろうとなかろうと痩せるってことだね?」
実際にカロリーとか栄養の面でダイエット向きだったりするんだろうけど、健康的な生活するなら別にリンゴを食べなくても成立するもんね。一番それっぽい食べ物ってだけの話で。
「キミは頭がいい。顔も頭も良い」
何が何でも顔を褒めてくれるじゃん。どんどん自分の顔を好きになりそうで怖いんだけど。私なんてタレ目で鼻が低いのに。
「か、顔は関係ないよね? 今そういう話してないよね?」
こんなことを言いつつも、おかわりを欲している。全ての物事を顔に結びつけて褒めてほしい。あと久々に手も褒めてほしいな、キレイな手だって言ってほしい。
「そうかな? わりと知性と顔ってリンクしてる気がするけど」
それはまあ分かるような気がする。鈴木さんとか深雪ちゃん……だっけ? アホそうな見た目で、実際に成績悪いもん。安藤君だか安西君だか忘れたけど、電車の話ばかりするあの子も私以上にブサイクだし。
「も、もう、わかったから! そのリンゴダイエットが何? 『痩せろデブ』ってことなの?」
言うまでもないけど、これは体型を褒めてほしいというおねだり。スマートさを褒め称えてほしい。贅肉を誇らしげにさらけ出してるコギャルより魅力的だってことを延々と語ってほしい。
「違うよ、むしろもう少し肉があったほうが好み……。あっ、いや、それは俺の趣味だから気にしないで」
は? ご飯の話? 日替わり定食で肉が少なくてテンション下がってるの? まさか私のスマートボディにケチつけてる? いや、分かるよ? そりゃ肉あった方がモテるよ? 私だってあの子達みたいに贅肉ほしいもん。『コレ、邪魔だなぁ』とかグチグチ言いながら、風呂上がりに鏡の前でイジりたいもん。っていうかさ、女性の大半は自分の胸の大きさなんて気にしてないっていうアンケートあるけど、あんなん絶対嘘じゃん。豊胸手術とか豊胸パッドが廃れない時点で明白だよ。それこそさっき私が言ってた酸っぱい葡萄だよ。なんなの、この最悪の伏線回収は。
「肉……? なんキロ? どれぐらい体重増やしたら良い? お腹とか足がプニプニしてるほうがいいの? それとも、胸に脂肪を集中させたほうがいいの? とりあえず今の体を見てもらえるかな? 意外と着痩せするタイプかもしれないよ?」
あの鳩山君が、無理矢理太るなんて危険なことをさせるはずがないよね? 見たいんでしょ? 私と恋人になったのにエッチな展開が来なくて我慢の限界が近づいてるんでしょ? それならそうと言えばいいじゃん、愛する人にコンプレックスを揶揄されたかと思って、刃傷沙汰起こしかけたよ。
水着姿でさえ見られたら憤死する可能性があるけど、鳩山君がどうしても見たいというなら気絶する覚悟で脱がさせていただきます。そっちも覚悟決めてよね? そういう雰囲気になった時、抑えがきくとは思えないんだ。私って、他の女子ほどじゃないけど、感情的なところあるからさ。
「ま、まあそれは置いておこうよ? とにかくだね、俺の好みに合わせたのと、キミがモテだしたのは別問題だよ」
まだ我慢するの? 男の子って我慢するの大変なんでしょ? ああ、でもよくよく考えたら、見るだけで性欲って消えないんだよね。むしろヤることをヤらないと、逆に溜まっちゃうんだよね、知らんけど。
「なんで別問題なの? こんな地味で貧相な私がモテるなんて、本来ありえないことでしょ? 鳩山君みたいな物好きばっかりだったら話は別だけど」
「あのねぇ、メッシュ入れたぐらいでモテると思うかい? マニキュアぐらいでモテると思うかい?」
「でも実際に……」
「だからキミのフィジカルだってば」
人をパワータイプみたいに言ってからに。言わんとしてることは分かるけども。
「ポニテだろうがウルフカットだろうが、なんだってモテてたんだよ。坊主とかはさすがにアレかもしれないけど」
「…………あのね? 褒めてくれるのは嬉しいんだけど、捨てられそうな雰囲気を感じて怖いの」
肉がないだの、鳩山君の要望に応えても魅力は上がらないだの、何をやってもモテるだの……手放そうとしてるように見えちゃうよ。分かってる、そんなつもりはないということは分かってる。でも急に突き放されたら不安になっちゃうよ。
「私は鳩山君の好みの女の子になりたいの。それなのにどうして、私の好きにさせようとするの?」
私なら何をしても魅力的だと言ってくれるのは嬉しい、嬉しいけど寂しい。むしろ何をしても可愛いっていうなら、遠慮なく鳩山君色に染めてほしい。だって失敗することはないんでしょ?
「あっ、チャイムが鳴っちゃった……。じゃあ、また放課後にでもゆっくりと話し合おっか?」
得心がいくまで話し合おうね。これってすっごく大事なことだからさ。




