第129話 所有欲が強い男(雨宮さん視点)
女の子の機嫌を取るために適当なアドバイスをする男が腐る程いる昨今、鳩山君は〝分からない〟と正直に話してくれた。素敵だなぁ、私の彼氏。
「分からないなりに考えてほしいんだけど、ダメ?」
甘えるの上手くなったぁ、私。美容院効果とかメッシュとかポリッシュとか、色々な物のおかげで最低限の容姿を手に入れたおかげだね。あっ、言うまでもなく一番は鳩山君だよ? 鳩山君がいなければ『ブスが化粧してもなぁ……』って感じで、メイクを覚えることなく社会人になっていたと思うよ(いやまあ、メイクはまだ全然分からないっていうか、今のところ必要ないんだけどね)。
「んなこと言われても、雨宮さんって何をしたって可愛いからなぁ……」
「そ、それはわかったから! もう!」
私のおねだり攻撃にカウンター決めないでよ、もう。いや、褒められるのは死ぬほど嬉しいんだけど、今は私が攻めだから! ……何しても可愛いかぁ、えへへ。正直者だなぁ。
「と、とにかく! 鳩山君の好みを教えて! 何度でも入れ直すから!」
「俺の好み? なんで?」
「なんでって……言わせないでよ」
たまに意地悪だよね、貴方。分かってるくせにさぁ。でもそこが好き、いや、そこも好き、いや、大好き。胸板に頭をグリグリしたい。コアラみたいに飛びつきたい。
「いいよ、キミの気持ちは充分伝わった」
「え、本当? 伝わったの?」
「ああ。俺に任せてくれて、嬉しいよ」
「……それって、そういうことだよね? そういうことでいいんだよね?」
私を鳩山君の色に染めてくれるってことだよね? ……いや、染めたいってことだよね? 私を自分の女にしたいってことだよね? もうとっくの昔にそうだけど、本格的にマーキングしたいってことだよね?
「ああ、キミの考えている通りだ」
来ました、他の男子が寄ってこないように染め上げる気です。そっかぁ、あの小坊主にちょっかいかけられた件、結構ガチで怒ってくれてたんだね。
……これで私も鳩山君の所有物かぁ、んふふ。
「鳩山君って……意外と所有欲あるんだ……肉食系なんだ……いいかも……」
学校の中だってのにプロポーズ紛いのこと言われちゃって、私はいったいどうしたらいいの? 私が勇気を持って周りにアピールを頑張ってるのに対して、鳩山君はサラリと周りの男子に牽制しちゃうんだもん。っていうか女子に対しても牽制してるよね? 『俺の女はコイツだけだから』って、周りの女子を諦めさせようとしてるんだよね? あっ、気付いたらもういないや。お手洗いかな? それともプロポーズが恥ずかしくなってきたのかな? 可愛いなぁ。
あっついなぁ……。あっ……ど、どうしよう……マーキングってことは……キ、キスマークとかつけられるんじゃない? あわわわ……早い! 早いって! どうしよう、周りへの牽制のためにあえて目立つところにつけられたら。お母さんとお父さんにバレたら大事だよ。……キスマークかぁ。私の成長スピードよりも早く、ステップアップするんだから、追いつけないよぉ。
「雨ちゃん、気に入ってもらえてよかったじゃん」
ん? いきなり何? 鈴木さん、空気読んでよ、万雷の拍手は心の中で送ってくれないかな? コンサートで『ブラボー!』って叫ぶオジさんと同レベルだよ?
まあでも、恋愛イコールストレートに体を求め合うことって認識のコギャルにも理解できたってことは、さっきのはプロポーズってことで確定だね。芸術を理解できない人が足を止めたなら、それは本物の芸術品じゃん? それと同じだよ。
「ありがとう」
「それにしても雨ちゃんがハイライト入れるなんて驚いたわー。次はインナーカラーとかどうよ?」
……? ハイライト? 私が入れたのはメッシュですけど? えっ、これハイライトって言うの? あ、後で調べてみよう……。
「イン……何?」
「えっ、インナーカラー分からんの? ナハハ、雨ちゃんマジおもろい」
貴女は徳川十五代将軍の三代目すら分からないレベルでしょ、どうせ。オシャレ関係のワードでマウント取らないでくれる? 大体さ、ズボンをパンツって呼ぶのアホだと思わない? ショートパンツとかスキニーパンツみたいな使い方をする分にはいいんだけどさ、ズボンって単語を使ったらダサいって風潮やめない? パンツって言うほうがおかしいからね? 既に下着の方で定着してるのに、なんで同じ読み方にするの? イントネーションが違うのは分かるんだけど、だから何よ?
「雨ちゃーん? ダイジョーブ?」
「……え? うん、大丈夫だけど……」
「ごめん、ごめん、急に笑っちゃって不快になったよね? バカにするつもりは全然ないから、安心して」
あっ、こっちこそなんかゴメン。そういうところまで気が回るんだ。ふぅ、なんか最近、私って嫌なヤツなんじゃないかって思うようになってきたよ。
「ううん、気にしないで。で……インナーパンツがなんて?」
「……パンツ? んくっ……。イン……インナーカラーってのは……んくく」
……インナーとかアウターとか言われたら、そういう単語出ちゃうよね? どうせアレでしょ? シャツって単語もダサい判定なんでしょ? 肌着って言い方も年寄りくさいとか思ってんでしょ? なんだろうねぇ、流行ってる方の単語を使わないとダサいっていう風潮は。そんなんだから皆、ネズミ講に騙されるんだよ? ネットワークビジネスっていう名称に変えただけで引っかかるんだよ?
「インナーカラーってのは? なぁに?」
「こ、怖い、怖い! 鳩山追い詰める時の笑顔やめろし」
あっ、この笑顔って鳩山君以外にも効くんだ。ヲタクの暗黒微笑みたいで痛々しいものだと思ってたけど、私のキラースマイルは効果あるんだ。
「ま、まぁまぁ。インナーカラーってのはこんな感じで、髪の内側に色を入れんの」
「へぇー」
モデルか何か知らないけど、キレイなお姉さんの写真を見せられた。あー、言われてみれば街中でこういう見かけるねぇ。
……モデルさんが美人ってのもあるけど、ちょっとドキッとしちゃったよ。私が入れても痛々しいだけなんだろうけど、鳩山君視点ではアイドルとかモデルなわけじゃん? じゃあ……刺さるかもね。女の子でもドキッとするんだから、鳩山君ならきっと……。よしっ、じゃあちょっと、アピールも兼ねて鈴木さんから色々教えてもらおうかな。鳩山君にちょっかいをかけた過去を手打ちにしてあげるよ、それで。本来ならカエシをするところだけど、なんやかんや情が移っちゃったし(まあ、どれだけ仲良くなろうと、鳩山君に手を出したら容赦なく叩き潰すんだけど)。




