第127話 (無意味な)躾完了
〝美人〟ってのはお世辞の常套句だから、まあいいよ(蹴り上げ案件だけど)。でもさぁ、〝健康的な肉付き〟はアウトじゃない? 具体的すぎるというか、本音に聞こえるというか。……世間一般論の話だよね? 肉あったほうが男ウケが良いってのは私も聞いたことがあるし、そういう話だよね? もしかして私の体に不満を抱いてるの? 一回目の訪問で私の足から目を逸らしたのは、肉付きが足りなくて興味を抱けなかったから? 違うよね? 肉付きが良い方が好みだけど、それはそれとして私が一番だよね? っていうか私も結構プニプニしてるよ? 鈴木さんの太さには敵わないけど、白い上に柔らかいよ?
「……なんなん? 鳩山ってアタシのこと好きなん? 前から思ってたけど」
はぁ? 〝前から思ってた〟だぁ? コギャルってのはチョロすぎるんだよね、嫌になってくるよ。貴女が見られているというより、女という性別が見られてるだけなんですけど? 女子高生っていうブランドが見られてるだけなんですけど? っていうか鳩山君は男子の中じゃ、見てない方の部類に入るんだけど? 男の本能に抗ってなるべく見ないようにしてるんですけど? でも私のことは好きすぎて、本能に抗えず口説く毎日。分かる? 分からないかぁ。
「好きってほどじゃないかな。とても魅力的な女性だとは思ってるけどね」
「…………」
あはは、フラレちゃって絶句してるじゃん。さすがに分かるんだ、コギャルでも。
「もっとも、キミから見た俺なんて、好みと真逆なんだろうけど」
はい、完全に脈無しです。鈴木さん、元気だしてよ。ヤりたいだけなら、いくらでも相手はいるんだからさ。高橋……君……だっけ? アレでいいじゃん。
「別に真逆ってわけじゃねーけど……」
フラレたんだから大人しく真逆ってことにしておきなよ。『アンタなんか全然アタシの好みじゃねーし』とか強がってなよ。好みなのに相手されないって、ちっぽけなプライドに傷がつくでしょ? もっと自分を大事にしなよ。
「でも不良のほうが好きだろう?」
そう、コギャルはヤンキーに惚れる生き物。イキってるだけの男を強いと思い込んで惚れるの。バカだからそういうのに簡単に引っかかるの。
「……え? いや、別に……不良とか今時、流行んねーけど……?」
もー、往生際が悪いなぁ。男に対して執着心ありすぎじゃない? よく私の目の前でワンチャン狙えるなぁ。まあ、ワンチャンなんて存在しないんですけど。
「じゃあ何か? 俺がデートに誘えば、来てくれるのかい?」
……さすがに怒るよ?
「……こう言ってるけど、雨ちゃん……どう?」
どうもこうもないよ。
「さすがにこれは裏切りかなー……」
「え? なんで……」
「冗談だって言えば許すよ?」
おもむろにカッターナイフを取り出し、刃を出したり引っ込めたりして遊んでみせる。メンヘラっぽくて気持ち悪い挙動だけど、こういうのって想像で恐怖を煽ってやるのが一番効果的なんだよ。『殺すぞ』みたいな脅し文句より、さりげなく入れ墨見せられた方がよっぽど怖いじゃん。
「雨宮さん、そういうのは……」
屈しないか、さすが鳩山君、男らしいね。じゃあ……。
「局部の出血は命に関わるらしいけど、絆創膏でなんとかなるかな?」
「……さっきまでの会話、全部冗談だよ」
冗談かぁ、よかったぁ。まあ分かってたけどね、うん。
ちなみに私も冗談っていうか、ただの雑談だからね? 人を切りつけるとかありえないし、ましてや恋人の大事なところなんてありえないよ。せいぜい蹴り上げるぐらいだよ。まあ今回は一旦、蹴り上げも無しにしてあげるけどね。まあ機会があればデコピンぐらいは……。
それはさておき、私もそろそろオシャレに手を出してみようかな。鳩山君への求愛は勿論、他の人への牽制にもなると思うんだ。陰キャ女子が急にオシャレとか、男絡み確定だからね。ヤリ目の男子とか、泥棒猫が近寄りづらくなるはず。




