第126話 躾(のつもり)
「や、やめとこうかな、朝からこんな話……」
私的には満面の笑みのつもりなんだけど、鳩山君は妙に怯えている。愛する人を怒らせたことに対する恐怖と罪悪感に苛まれているのかな?
「なんでー? もっと聞きたいなぁ……」
まあ、許さないんだけどね? いや、最終的には許すよ? 鳩山君に悪意がないことは私が一番知ってるからね。でもアッサリと許すのは良くないと思うんだ。鳩山君が自発的に浮気することは百パーセントないけど、変な勘違い女が付きまとってきて強引に……って展開は普通にありえるからね。勿論、鳩山君は私という恋人がいるから全力で拒否するだろうけど、それでも女の子が強引に迫ってきたら詰みだよ。下手に抵抗すると怪我をさせちゃうもんね。私としてはその女の自業自得だけど、世間は男の方を被害者に仕立て上げるだろうし、男はそういう展開を避けるために全力を尽くさなきゃいけないんだよ。そう、これは鳩山君の危機感を煽るための問い詰め。
「そんなに面白い話じゃないと思……」
「そう言わずに聞かせてよ。そういう流れとやらになった時、鳩山君がどう考えて、どう動くのかをさ……」
たとえ冗談でも他の女を抱くなんて発言はしてほしくない。想像するだけで腹が立つもん。
「雨ちゃん的にコイツの考え方を許してええの?」
許せるわけないじゃん。メンヘラ女が鳩山君にまとわりつくなんてクソ展開は、御免被るよ。メンヘラは百害あって一利なしだから。
「あんまり面白くはないけど……裏切らないって信じてるから」
だって約束してくれたもん。それに『人を裏切れない性格だから』って言ってたもんね。
「強いなー……アタシだったら、考え改めるまで蹴り上げるけど」
コギャルが珍しく正しいことを言ってる。うん、普通の男だったらそれでいいと思うよ。鳩山君はそんなことするまでもないと思うけど。
「そりゃ私もいざとなったらそうするけど、鳩山君は大丈夫だよ。そうだよね?」
そろそろお試しで一発ぐらい蹴ってみたい気持ちもあるけど、万が一があるから我慢するよ。あんまり度がすぎると軽く一発蹴っちゃうからね?
「雨ちゃんもスカート短くしたら? コイツ、短いだけで見てくっからさ」
うーん……。他の性欲持て余した男子にも見られちゃうからなぁ。それになんだろう、そういう釣り方ってあんまり良くない気がするんだよね。鳩山君に見られるのは決して嫌じゃないし、むしろもっと見てほしいとさえ思ってる。恥ずかしいけど、恋人なんだから頑張らなきゃ。でもまずは性的な誘惑とか一切なしに、私を求めてほしいの。だって性的なアピールなんて裏技じゃん。女性としての魅力が低くても、思春期の男子はそういう欲求に抗えないでしょ? 生意気な後輩が気弱な先輩をからかう漫画とかよくあるけどさ、男子だったら欲求に負けるの当たり前だからね? ああいう漫画の女の子って、自分が魅力的だからって思い込んでるけど、それって急に大声出して『ビビってるー』ってからかうようなもんだからね? 自分以外の女の子でも同じことができるって思考に至らないのが不思議だよ。
「風評被害やめてください」
「なーにが風評被害だよ。いっつも太もも見てくんじゃん」
あんまり言わないであげてよ。一回目の指摘はグッジョブだったけど、これ以上追い詰める必要ないじゃん。どうせアレでしょ? 『私の太ももを見るってことは、私に惚れてるんだ。私は魅力的なんだ』って勘違いしてんでしょ? クレームと見せかけて、周りの女子にマウント取ってるんでしょ? 貴女以外でも見られるから、よほどのブス以外は見られるから。
「それはキミが魅力的だからだよ。誰彼構わず見るわけじゃない」
……嘘つかないでよ。いや、厳密には嘘じゃないのか。鈴木さんは平均より上ってのは間違いないし、誰彼構わずってのも真実だよ。『キミだから見ちゃう』って解釈もできるけど、本当は『ブスだったら見ないよ』って意味なんでしょ? もー、普通は前者の解釈をするんだから、迂闊なこと言わないでほしいなぁ。
「は、はぁ?」
ほらっ! 前者の解釈してる! 鈴木さん! 貴女は『ブスではない』って言われただけだから! 『キミは美人だよ』って言われたわけじゃないから!
「美人だし、キレイな足だし、健康的な肉付きだし、正常な男だったら見るに決まってるじゃないか」
言った! お世辞とはいえ〝美人〟って言いやがった! そりゃブスか美人の二択なら間違いなく美人だけど、鳩山君の中では大したことないでしょ。だって鳩山君の好みは私だもん、コギャルと正反対だもん。
……一発ぐらい蹴るべきかな、そろそろ。




