第123話 チョロイン(ラスボス)
聞き間違いかな? 鳩山君が頻繁に女の子と手を繋ぐなんて、それはあってはならないことだと思うんだけど。フォークダンスとかだよね? 体育祭のフォークダンスで繋いだとかそのレベルだよね?
「どうしてそんな怖い顔してるの? 可愛い顔が台無し……」
「誤魔化さないで」
こんな時でも可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど、絆されちゃダメだ。こういう時は相手が目を逸らしたくなるぐらい、全力の眼力をぶつけるの。まあ、私から目を逸らしたら何するかわかんないけどね。
「いや、純粋に可愛いと思って……」
「……」
「勿論その表情も可愛いけどね?」
「ふんっ……」
私ってチョロいなぁ、アッサリと全部許しちゃったよ。頻繁に〝可愛い〟って言われ続けたら普通はそのうち通用しなくなるんだろうけど、私はいつまで経っても、耐性がつく気配すらない。だって嬉しいもん、鳩山君の口から褒め言葉を聞くの。
「鳩山君。私は、過去にそんなにこだわらないから……安心していいよ」
私が怒ろうと、泣こうと、過去は変わらない。そもそも私と出会う前のことを怒っても仕方がないしね。ここでギャーギャー騒ぐと、女としての価値が下がっちゃう。
あっ、言っておくけどあくまでも〝そんなに〟だからね? 面白くないってのは事実だし、わざわざ私の前で過去の女性遍歴を語らないでほしい。
「え、うん……」
「でも未来にはこだわるからね?」
「そうなんだ……」
「女の子と手を繋ぐのは私で最後にしてね?」
程よい重さだね。他の女性と会話禁止とかは重すぎるけど、これぐらいなら丁度良い縛りじゃない? だって普通は他人と手を繋がないじゃん。幼稚園児のお世話をする機会がやってきた時に『女児でも女の子に変わりないから浮気!』とか、そこまで言い出したらさすがに重いけどさ。
「約束はできないけど、気をつけるよ」
はい? 今もしかして喧嘩売られた? ジョークにしては不快なんだけど? なんか保険をかけられてるみたいで嫌だなぁ。もしかしてなんだけど、鳩山君にとっては女の子と手を繋ぐことが軽いことなの? 男の子は知らないけど、女の子は心を許した相手じゃないと繋ぎたがらないよ?
「……約束して」
言質を回避しようとしたお仕置きとして、親指と人差し指の間を思い切り握ってみた。おそらくは物をつまむ時に使う大事な筋肉なんだろうけど、女の子の力なら損傷はしないよね?
「お、俺が誰と何をしようと……」
「んー?」
「あだだだ! 爪はダメだって!」
親指の爪で相手の親指の爪を指圧するという、全然痛くなさそうに見えて結構痛い技をお見舞いしてあげた。浮気をほのめかした相手に対してこれは、相当優しい対応だと思う。別に後遺症が残るわけでもないし。
「じゃあ約束して? 誰彼構わず手を出さないって」
まあ、本来であれば約束するまでもないことなんだけどね。校則に『靴を履いて登校すること』なんてわざわざ書かないじゃん? 靴なんかヨッシーでも履いてるんだからさ。それと同じだよ。
「あ、ああ、それなら約束できる。約束するよ」
〝それなら〟かぁ、なんか不穏だなぁ。まさかとは思うけど、他の子にキスとかハグをして『え? 俺の中ではこんなの〝手を出す〟に入らないよ?』って開き直るつもりじゃ……。なんてね、それはさすがに被害妄想がすぎるよね。浮気とかうんぬん抜きにしても、鳩山君は性に関して真面目だもん。下手したら結婚までエッチなことをしてくれないかもしれない。うーん……たしかに私も貞操を大事にしたい派なんだけど、さすがに結婚までお預けは長くない? 今はまだ自分に自信がないけど、大学生のうちに自信がつくと思うんだよね。そりゃ私一人じゃ無理だよ? でも鳩山君と一緒にいれば意識も変わってくるというか、強い女になれる気がする。
「ありがとう。絶対に裏切らないでね」
「ハハハ、自分で言うのはなんだけど、俺は人を裏切れない性格だからさ」
「……そっか」
疑っちゃってゴメンね、鳩山君。でも私だって不安なの。分かるでしょ? 言質を取ろうだなんて最低かもしれないけど、鳩山君はイイ男だからやっぱり心配になってくるの。ほら、前にコギャルがちょっかいかけてきた時も、相手の顔を立たせるために悪ノリしてたでしょ? 本当はコギャルなんか興味ないのに、性的興奮を覚えたフリしてたじゃん? 私が止めなかったら強引にキスされてたかもしれないし……不安だなぁ。手を出すアホが二度と現れないように、もっと外堀を埋めないと……。




