第121話 異世界転生(スカッと系漫画)
念のためにスチール缶の缶コーヒーを買っていった。『長話になると思って』とか適当に言っておけば、飲みながら話を聞いても言い訳は利くはず。もし殴りかかられたら、スチール缶で受けて指を折ればいい。体重差的に私も怪我するだろうけど、指の骨折のほうがダメージ的には大きいから逃げられるはず。口に含んで毒霧にも使えるし、投げつけることだってできる。堂々と持ち運べる護身グッズとしてはわりと優秀だね。まあ、取っ組み合いにならないように立ち回るつもりだけど。
「あっ、きたきた」
「……」
「遅いよ、もう」
「……お手洗いに行ってたの。それと喉も乾いちゃって」
「へー。まっ、焦らされたからには良い返事を貰わないとな」
気持ち悪っ……。っていうか鳩山君の言ったとおり、本当に告白じゃん。別に鳩山君を疑ったりなんかしてないけど、私に告白する物好きがいたことに驚きだよ。鳩山君と違って本気じゃなさそうっていうか、絶対ナメてるよね? 陰キャだし華奢だから言いなりにできるとか思ってるんでしょ?
「お返事?」
「まーたまた。知ってて来たくせにー」
「……」
「知ってると思うけど、俺はピッチャーやってんだよ」
知らないよ! 坊主だから野球部なんだろうなとは思ったけど、貴方のことは微塵も興味ないから!
「将来有望でクラスの中心の俺に誘われて、ウキウキだったろ?」
「……」
心底気持ちが悪い。この根拠の分からない自信はある意味尊敬するけど、それはそれとして不快だよ。まあこれぐらい不快な方が容赦なく蹴り潰せるけど。
「俺こう見えて今は彼女いねーの」
「……へー」
見たまんまだけど? 女遊びが好きそうな見た目だけど、見た目だけだよ。こんな気持ち悪い性格で寄ってくる女なんて、ろくなのいないだろうし。
「まあ、繋ぎって形だけど彼女にしてやるよ」
「……繋ぎ?」
「理想の女ができるまで遊んでやるって言ってんの。ダイジョーブ、最低でも一回は気持ち良くさせてあげるから」
「………………ははっ」
はい、完全にナメられてます。いやぁ、鳩山君って本当に良い男だったんだなぁ。
「嘘だと思ってる? 俺は抱いてから判断するタイプだから、ちゃんと約束守るわ」
「……いやぁ、その……」
「まあ雨宮の頑張り次第では本カノもありうるから頑張りなよ」
……どうしよう、気持ち悪すぎて逆に怒りが湧いてこない。えっ、ここまでクソな男って実在するの? こういうのって漫画とかにしか出てこないんじゃないの? こんなよくネットで見る、百パーセント創作のスカッと系漫画に出てきそうなクズ男、現実に存在していいの? ここで私が『女ナメんじゃねえよ! テメーに抱かれてえ女なんていねえよ!』みたいに怒鳴りつけて、コメントで『強い女素敵です!』とか称賛される流れ? 『私も学生の頃似たようなことがありました! 正論で畳み掛けたら泣きじゃくってました! おかげで周りからはアネゴと呼ばれてます(笑)』みたいな気持ち悪い自分語りコメントがつきまくるの?
「私は遠慮させてもらおうかな」
「遠慮しなくていいって」
ここでの〝遠慮する〟は〝地獄に落ちろ〟って意味なんだけど?
「私は顔とスタイル良くないし、やめたほうがいいよ」
「繋ぎだから気にしなくて大丈夫だって」
……襲われそうな雰囲気ではないけど膝蹴り入れてもいい? ここで潰してあげたほうが幸せじゃない? この人も、周りの女性も。
「ごめん、私、恋愛とかよく分からないから」
「教えてやるって」
貴方が教えられるのはナンパの失敗方法ぐらいでしょ。よっ、反面教師。
……はぁ。面倒だなぁ、女のタダ食いがしたいなら適当にSNSで探せばいいのに。
「……私は男子苦手だからごめん」
「俺は怖くないって」
「ごめん、無理だから」
「ふーん? 鳩山も男子だけど?」
……鳩山君の名前を出されると面倒だなぁ。っていうか鳩山君がいることを知った上でちょっかいかけてくるの厄介すぎる。多分だけど、私とヤりたいっていうより、鳩山君から豆泥棒したいだけなんだろうね。
「ごめん、貴方のこと全然知らないから」
「だから教えてやるって」
「結構です。じゃあ……」
「待てって、頑張れば繋ぎから本カノに昇格できっから」
なんでそれが特典になると思ってるの? さすがにキレそうなんだけど。
「そんなに自信あるの?」
「えっ? あー……まあ自信っていうか、アレだな、アレ」
「………………男性経験なさそうな私にとっては優良株だってこと?」
「あー、自分で言っちゃう? まあ、そんなところかな。実際嬉しかったっしょ?」
おかしいな、私本当にネットでよく見る漫画の世界に転生しちゃったのかな。この人が罰ゲームでこういうセリフ言わされてるんじゃないかって、そう思えるほど最低なんだけど。
「ごめん、全然嬉しくない」
「は? こんなチャンスもうこないけど?」
「……知らないみたいだから言っておくけど、私は鳩山君と恋仲だから」
あんまり鳩山君の名前を出したくないけど、諦めさせるにはこれしかないね。
「え? ははは、雨宮はフリーだって聞いたぞ」
「貴方が聞き入れなかっただけでしょ。もう実質婚約済みだから」
「実質婚約って何? 脅されてんの?」
……私だけじゃなくて鳩山君のこともバカにしてない? ここまで人に対して怒りが湧き上がったの初めてなんだけど。そういや山中さん達が、クラスメイトの誰々さんがキモいって話をしてたね。興味ないから名前の部分が抜け落ちてるけど、きっとこの小坊主だよ。
「鳩山君と付き合ってたら他の男子なんて目に入らないから。ごめんね」
「はぁ? 意味分からんし」
「今日のことは忘れるから、もう関わらないでほしい。他の男子もそうだけど、貴方は一際、魅力皆無だから」
怒りのあまりスラスラと言葉が出てくる。あー最悪、後で鳩山君に甘えよっと。
「マジで何? 鳩山に相手されたからって思い上がってる系? モテてると勘違いしてんの?」
「ブスだって自覚してるよ。悪い?」
「自覚してんなら逆らうなよ。遊んでやるって言ってんのに」
「……もういいよね?」
これ以上会話を続けると私の頭の血管か、向こうの生命線が切れちゃうよ。背中を警戒しながら早歩きで逃げよっと。
「鳩山みたいな女たらしのクズの言う事を真に受けちゃって、可哀想な女」
……無視、無視。ここでブチ切れたら鳩山君に迷惑がかかっちゃうよ。そりゃ鳩山君を侮辱されたのは許せないけど、鳩山君は器が大きいからこんな矮小な生き物の戯言なんて気にも留めないはず。ここでキレたら鳩山君の顔に泥を塗っちゃう。
「アイツは誰にでも優しいぞー。なんだっけ、たしか……ハル……」
無視、無視。遠くから煽ってきてるけどガン無視。はい、スピードアップ。
……コギャルを使ってあの男を潰せないものかなぁ。




