第120話 覚悟(戦闘)
私の〝褒めてほしいオーラ〟を感じ取れなかったのか、困惑した様子の鳩山君。愛し合っているといえど、さすがにまだ分からないかぁ。
「まあ、とりあえず今は体育館の裏に行ってきたら? 呼ばれてるんでしょ?」
えっ、行かせるの? 私としてはにわかには信じがたいけど、鳩山君の読みでは告白なんでしょ? 嫌じゃないの? むざむざ豆泥棒のもとに行かせるの?
「……着いてきてくれる?」
「え、なんで? 俺、邪魔じゃない?」
……邪魔すべきじゃないの? 貴方は実質彼氏だよ? 将来を誓いあったカップルの間に小坊主が割り込んできたんだから、首から下を埋めて軍隊アリの餌食にすべきじゃない?
「だって嘘告に決まってるし……」
「嘘告……? 嘘の告白ってことかい?」
言葉の意味は通じるけど、理解はできないって感じだね。うん、あんなの私も到底理解できないよ。趣味が悪いにも程がない? こういうしょうもないノリが原因で、テレビが衰退したと思うんだけど。
「よくあることだよ。大体はメッセージアプリでやるみたいだけど」
まあ友達全然いないから、聞きかじりっていうかただの想像なんだけど。
「よくあるとしても高橋君は本気さ。言っていいのかわからないけど今日、休み時間に雨宮さんのことを話してたんだ」
……あの小坊主が私のことを?
「救いようのないブスだって話?」
うー……我ながらあざといというか、珍しくメンヘラっぽいムーブだね。加工マシマシの自撮りを上げて『私ブスすぎて辛い』みたいな投稿する人みたいだよ。メンヘラ食いに一縷の望みをかけたゴミが群がってくるだけなのに、それで承認欲求満たせるんだから凄いよねぇ。アレに比べたらマシだけど、私がやってることも大概だって考えると自嘲気味な笑みがこぼれるよ。
「違う違う。フリーだってことを教えてあげたら、告白してみるって話に……」
あれっ? 褒め言葉は? いや、それはさておき……。
「……フリー? 誰が?」
「この流れで雨宮さん以外ありえないと思うんだけど」
「……? 何言ってるの……?」
流れ的には私のことなんだろうけど、事実と異なるじゃん。なんだったらこの学校で最もフリーから程遠い人間だよ? だって恋人持ちはそれなりにいても、婚約済みは珍しいでしょ? 既婚者以外はフリーってこと?
「あっ、わかった! そういうことだね!」
鳩山君は、きっと脅されてるんだよ。『フリーだってことを教えてあげたら』ってのは、そういう体ってことでしょ? 私と鳩山君が付き合ってることはクラスでは周知の事実なのに、それを信じてくれなかったってことでしょ? 要するに私の口から直接フラないと、この件は解決しないってことだね。本当なら鳩山君が自力で解決したいところだけど、下手なことをすると相手を逆上させて私に被害が被るかもしれないもんね。
……ちょっと怖いけど、ここは勇気を出さなきゃね。大丈夫、向こうは私のことをナメてるから、いざって時は不意打ちで大事なところに膝蹴りを叩き込めば問題ないはず。この時間なら先生や生徒もそこそこいるはずだし、校舎まで逃げ切ればなんとかなるよ。なんだったら体育館に逃げ込んでもいいし。うん、走りには全然自信がないけど、向こうだって膝蹴りが入れば上手く走れないはずだよ。女の子でもまともに動けなくなるはずだから、男の子ならなおさら……。
「じゃあ、校門の前で待っててくれる?」
「あれ? ついていかなくていいの?」
私のことを心配してくれてるんだ。優しいなぁ……。
「いつも鳩山君には助けてもらってるからね。たまには私も……」
周知の事実を認めないような人を逆上させずに現実を突きつけるなんて難しいだろうけど、これからの学校生活のためにも頑張らないと。
「わかったよ。頑張ってきてね」
「うん、任せて。キッチリと処理してくるから」
格下だと思ってた三軍女子にフラれるなんてプライドが傷つくだろうけど、それで発狂してきたら物理的に傷つけてあげればいいだけ。大丈夫、真正面からの喧嘩で素人女子の膝蹴りが入ることはないけど、攻撃されると思ってない人間からの不意打ちは達人でも当たる時は当たるはず。そう、重要なポイントは二つ。一つ目は相手がキレるラインを見極めること。不意打ちで押し倒されたらまずいからね。二つ目は絶対に手加減しないこと。本気で蹴ったら痛いとか、潰れたら大問題になるとか、そういう余計なことは一切考えず、潰す気で蹴ること。よしっ、OK。
「鳩山君が気に病むことはないからね。じゃあ行ってくるよ」
鳩山君がどういう脅しを受けたのかは分からないけど、私がキッチリとナシをつけてくるから安心してね。大丈夫、愛に障害と傷害はつきものだから。




