第114話 待ち合わせの裏側
どうしよう、前髪が全然決まらない。前髪のポジション、略して前ポジが全然上手くいかない。風なんて吹いてないはずなのに、勝手に動いてる気がしてくる。髪なんて寝癖さえなければそれでいいって考えだったのに、鳩山君のおかげで最近妙に気になるんだよね(鳩山君に会わない時はどうだっていいんだけど)。
うー……後一時間かぁ……。さっきまでは待ち合わせまで長すぎてモヤモヤしてたのに、今度は時間がなさすぎて焦燥感を覚えてるよ。服、変じゃないよね? 相手は年頃の男の子なんだし、肌を出したほうがよかった? いや、それは私のキャラじゃないし、鳩山君が求めてるものとは違う気がする(そもそもそんな下品な服持ってないし)。今ならまだ着替えられるけど、どうしよう……思い切ってショートパンツを履いてみる? お母さんが血迷って購入したショートパンツを解禁しちゃう? いやいやいや、それは攻めすぎだって。あんなの履くぐらいならスカートを……いや、ここはスキニーパンツで細く見せる作戦で……いや、でもあれは動きにくいし、男の子からのウケが悪そうな気がする。色は無難に白と黒だけで固めるとして、露出は丁度いいぐらいに……丁度ってどれくらい? さすがに半袖のシャツ一枚はやりすぎだよね? うーん……よく分からないけどこれでいいや! このフリルがついたよくわからない長袖! 無難が一番! これ以上悩んでる時間なんてないし、ここは直感に任せるべき!
……まだ四十分以上あるけど、玄関前で待機しておこうか。えっと、前髪ヨシ! 服装……多分ヨシ! お手洗いも済ませたし、汗臭くもない。……一応シャワーだけでも浴びておく? いやいや、今からはさすがに間に合わないって! えっと、発声練習しといたほうがいい? 緊張で声が出ないって可能性も……いや、今すべきことは鳩山君が来た時の対応をシミュレーションすることで……。ダメだ! 時間が経てば経つほど焦る! 深呼吸しても全然効果を実感できないし、もう詰んだかもしれない。一旦部屋に戻って瞑想でもする? いや、そんなことしてる間に鳩山君が来たら大変だよ。やっぱりこういう時は家の前で出迎えてあげないと、ポイントを稼げないよ。現時点で恋人みたいなものだけど、細やかな気配りが大事だからね。
待ち合わせの二十分前になってようやく鳩山君の姿が見え始めた。充分早い時間だけど、私にとっては永遠に感じられたよ。普通は焦ってる時って、時間が経つの早いはずなのにね。
「あっ、来た来た」
緊張で震えそうになっている自分を落ち着かせるために、いつもより声と身振りを大きくしてみた。我ながら涙ぐましい努力だね。
「おはよう。やっぱり私服姿も可愛いんだね」
私なんかと違って、サラッとこういうこと言えるんだもんね。本当に凄いよ、鳩山君は。私だったら『えっと、私服……えっとその、いい感じ……だね?』みたいにどもるよ絶対。
「は、早い早い! まだエンカしてから数秒!」
この〝エンカ〟って言葉はあまり好きじゃないというか違和感があるんだけど、こういう言葉使っていかないと時代遅れだと思われるもんね。まあ、来年頃には使ってる人の方が時代遅れになるんだろうけど。
「いやいや、ウチの学校が私服OKだったら、毎日が今以上に楽しいだろうねえ」
うー……私は鳩山君に勝てないんだろうなぁ、この先も。緊張でバグらないように三時間ぐらい前から、深呼吸やらなんやらで気持ちを整えてたのに、一瞬で呼吸や脈拍を乱されたよ。
「んもー……。どうしてそういう恥ずかしいことを……平然と……」
「その服アレはだろう? モード系ってヤツだろ? 知ってるよ」
…………違うけど? モード系に詳しいわけじゃないけど、これはどっちかと言えばガーリー系じゃない?
「全然違うけど、褒めようとしてくれてるのはわかったよ。ありがとう」
ふぅ、なんか分からないけど一気に冷静になれたよ。鳩山君が適当なことを言ってくれたおかげだね。
さてと……後は着実に距離を縮めていくだけだね。理想としては今日中に交際だけど、理想はあくまでも理想、今日は腕を組みながらお話することを目標にしよう。




