第111話 無自覚メンヘラ
「帰ろっか、鳩山君」
よし! 自然に誘えた!
……でもこれ私が成長したってわけじゃないんだよね。昨日の件(痴れ者という表現でさえ生易しく感じるぐらいのビッチに籠絡されかけた件)で怒り心頭だから、その勢いで誘えたって感じなんだよね。こうして考えると、やっぱり怒りも一種のエネルギーなんだね。
「あっ、はい」
せっかく私が自然に誘ったのに、鳩山君は不自然だ。昨日のことを反省してくれてるのかな? まあ、当然だよね。私は実質彼女なのに、その私の前であんな下品な女に誘惑されたんだもん。男の子だからエッチな誘いに勝てないのは、ある程度仕方のないことだってのは理解してるよ? 私は理解ある女だからさ、メンヘラ女みたいにちょっとしたことで『浮気だ! 人生狂わされた!』とか喚かないよ。でもアレは明らかにライン超えでしょ? チラチラ見ちゃうぐらいならまだ分かるよ? 許すかどうかは別としてね。でも口説くのは違うくない? 女の下着見ながら口説くって、いくらなんでも性欲に忠実すぎるでしょ。
……もしかしてだけど、私を傷つけないために、他の女で性欲を処理しようとしてるのかな? うん、ありがた迷惑だよ。言っとくけど、私はこう見えても尽くすタイプだよ? メンヘラ女子みたいに『私を不安にさせないでほしい。常に安心させてほしい。でもエッチなことはしたくないから、我慢してね』とか、そういう不条理なことは一切言わないし。いや、そりゃまあ怖いよ? 私は顔も体も自信ないし、性的なことに苦手意識があるよ? でもさ……鳩山君はこんな私を本気で好きでいてくれてるんだから、それに報いたいよ。
……こんな甲斐甲斐しい女の子、現実にいるってヤバくない? 自分で言うのもなんだけどさ、性格良すぎない? 陰キャなのに性格良くない? そう考えるとどんどん腹が立ってきたなぁ。鳩山君のことは好きだし、なんでも許してあげたいけど、こればかりはお灸を据えてあげないとね。
「鈴木さんに抱きついてもらえるなんて羨ましいなー。男の子なら至福でしょ?」
「アレはそんなんじゃなくて……」
………………危ない、危ない。人間って急に頭に血が上ると、一瞬クラッとするんだね。血管系の病気を患っている人は怒ると血管切れて倒れるって聞いたことあるけど、それは本当のことなんだなぁって実感したよ。
いや、そんなことはどうでもよくてさ、うん、なんでこの状況で言い訳なんかするの? いや、なんでできるの? 言い訳をしたくなる気持ちは分かるけど、なんでそれを実行できたのかが理解に苦しむよ。だって私は、鳩山君のために心を鬼にして問い詰めたんだよ? 私の性格的に、こういうネチネチした詰問はありえないことじゃん? そういうの嫌いなのに、鳩山君のために厳しく振る舞ってるんだよ? なんでそれを汲み取ってくれないの? 鳩山君は人の気持ちが分かる人でしょ? 私のことなんてどうでもいいの? それともあの女の下着でも思い出して、思考がフリーズしちゃってたのかな? さすがの私も大事なところに蹴りを入れるよ? たしかスネで蹴れば重症を負わないんでしょ? どこで聞いたか忘れたけど、多分合ってるはずだし、次不誠実なことをされたら……。いやいや、暴力はよくない。『私は女だから何をしても許される! 女の暴力なんて痛くないんだからDVじゃない!』みたいなことをほざくバカ女は嫌いだし、私は絶対に酷いことなんてしないよ。
「でも嬉しそうだったよね?」
「ほら、俺ってこんなんじゃん? 女の子との絡みがそんなにないからさあ」
……なんでそんなにすぐポンポンと言い訳が出てくるの? しかも私に対して失礼な言い分じゃない? あれかな、私を怒らせて楽しもうって腹積もりかな? 男の子は好きな子の気を引くために怒らせるって言うしね。まあ、私みたいに理解ある女は少ないから、基本的に逆効果なんだろうけど。
「そうだよね、私との絡みはノーカンだよね」
ご要望にお応えして、拗ねてみせた。私なんかがこんなことしても可愛くないと思うんだけど、鳩山君の趣味は本当に分からない。どこまでいけばいいのか分からなくて困るよ。さすがに口を尖らせるのは気持ち悪いかな?
……なんでちょっと困った顔してるの? あれかな? 蹴られたいのかな? 男の子って友達同士でわりと強めに叩きあったりするし、痛いのが好きなのかな? うーん……鳩山君の要望とはいえ暴力は振るいたくないんだけど、鳩山君のためにも覚悟を決めといたほうがいいかもね。




