第110話 浮気未遂
彼女の前で別の女(彼氏持ち)を〝可愛い〟と褒めるのって、重罪じゃない? いや、分かるよ? 私の反応が見たいんでしょ? 私にかまってほしいんでしょ? 私が嫉妬するところを見たいんでしょ? お望み通り見せてあげるよ。
「……やっぱり誰にでも言うんだね」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。コギャルにヘッドロックされて幸せそうにしていた浮気者は、一瞬で表情がこわばった。ふふっ、さっきまでだらしない顔してたのに、急に真顔になっちゃって。
「おっ? 雨っち嫉妬かー?」
「雨宮ちゃん可愛いなー」
……お願いだから黙っててくれない? っていうかいつまで抱きついてんの? セクハラだよ? 不同意猥褻罪……だっけ? それだよ、それ。情緒酌量の余地はないから。鳩山君に対する猥褻行為は、絶対的法定刑だから。外患誘致罪以上に重たいからね? 分かってる?
「鈴木さん、気を付けて」
「ん? 何が?」
「鳩山君は女の子の足の裏が大好きだから」
「マジ? 足フェチはわかるけど、足裏フェチ? 強いなー」
くっ……まだヘラヘラしてる。性の乱れの象徴であるコギャルにとっては、この程度の性癖は可愛いものなんだ……。
「別に足裏限定じゃないよ。足自体好きだよ」
……鳩山君? 違うでしょ? 〝私の足〟が好きなんでしょ? そんな言い方するとさ、コギャルが勘違いしちゃうって。
「へー、顔挟んであげよっか?」
おいっ、さすがに度が過ぎてるよ? 鳩山君はそんなもので落とせないけど、それでも良い気持ちはしないんだよ。まずい、キレそう。
「ハハ、気持ちだけで嬉しいよ」
……そういう大人の対応は良くないと思うよ? コギャルに通じないから、そういうの。バカは言葉を額面通りに受け取るからね。
「遠慮すんなってー」
嫌がってるの! 鳩山君は本気で嫌がってるの! 貴女の顔を立てるためにああいうことを言っただけなの! それぐらい分かってよね!
うわっ、鳩山君の机に座って足と下着を見せつけてる。下品にも程があるよ。気持ちが悪いなぁ。ほら、鳩山君本気で引いてるじゃん。人の男にそんな汚物見せつけないでよ。
「下品だよ、鈴木さん」
ほら、鳩山君もこう言ってるんだから、さっさとどっか行ってよ。
「鼻の下伸ばしてるくせにー」
伸ばさないよ! 〝鼻が曲がる〟の間違いでしょ!
「鈴木さんが相手なら誰だって興奮するよ。しない男がいたら、ソイツはまともじゃないね」
もー! 鳩山君! いい加減にしてよ! そういうこと言ってると勘違い女が続出するんだって! コギャルなんてすぐに性交しようとするヤツばっかなんだから、刺激しちゃダメ! バカのくせに〝既成事実〟という小難しい言葉を乱用する生き物なんだよ! 逆レイプされる前に距離を取らないと!
「アハハ、アタシのこと好きすぎじゃん。彼氏のアホは、ここまで気の利いたこと言わんし」
それは貴女に魅力がないからだよ。どうせ彼氏さんも、性欲満たすことしか考えてないんだよ。性欲処理するための道具に温かい言葉なんてかけないでしょ? もういいから、彼氏さんのところに行ってきなよ。私と鳩山君が相思相愛なことぐらい分かるでしょ?
っていうか鳩山君も否定してよ! 別にこんな女、全然好きじゃないでしょ? きちんと否定してあげないと、誤解されるって。
……ふぅ。ちょっと圧をかけておこうかな。
「……挟んでもらったら? 鳩山君はスケベだもんね」
よし、これでOKだね。気持ちってのはちゃんと伝えないと、すれ違いが生じる恐れがあるからね。
……ないとは思うけど、鳩山君が『チャンス逃したなぁ、雨宮さんがいなければエロいことできたのになぁ』って考えてたらどうしよう。男の子だから性欲持て余してるのは仕方ないけど、お仕置き案件だよね。まあ、鳩山くんに限ってはありえない話なんだけどね。私を口説くような人だし、コギャルなんて興味ないでしょ。




