第109話 マジギレ寸前
「そういえば雨宮さんの髪って、美容院でカットしてもらったんだよね?」
もー、鳩山君ってば私に興味ありすぎじゃん。っていうかこれ、褒めるための前フリでしょ?
「うん、そうだけど?」
「なんていうか勇気いらない? 敷居が高いっていうの? 俺はせいぜい千円カットが限界だなあ」
へー、鳩山君ってああいう場所慣れてそうなもんなのに、意外だねぇ。私と違って美容師さんと会話弾みそうだし(私は地蔵すぎて思い出すだけで死にたくなるよ)。
「アハハ、鳩山君も緊張するんだ。意外だね」
「雨宮ちゃん、どこの美容院行ってんのー?」
……何この女? 日本人じゃないでしょ、この女。日本人は横入りしない人種なんだよ? 不法残留……いや、不法入国でしょ。早く国に帰るんだね、貴女にも家族がいるでしょ、知らんけど。
「えっと、駅前のところなんだけど……わかるかな?」
「あー、あそこねー」
分かるんだ、私は実際に利用するまで存在を知らなかったんだけど。
「雨宮さんって本当にコイツのために髪切ったん?」
「え、何それ? マジ話?」
……なんか増えたんだけど? コギャルなんてどれも似たような生き物だから、分裂したようにしか思えないよ。単細胞生物が知的生命体に関わってこないでよ。
まあいっか、とりあえず利用しておこう。イイ女ってのは、こういう人種も上手く扱ってこそだと思うし。
「うん……。毎日顔を見たいって……」
は、恥ずかしー! 思い出すだけで沸騰しそう。っていうか鳩山君って本当に凄くない? 普通の男子高校生が、サラッとあんなこと言えるもんなの? 絶対に無理だよ、男子なんて『俺が守ってやるよ』とか『幸せにする』とか適当なことしか言わないじゃん? そうやって自分を大きく見せようとする男しかいない中、『毎日でもキミに会いたい、キミと人生を歩んでいきたい』っていうふうに、自分が相手を求めていることをストレートに伝えてくるんだよ?
「きゃー! それってプロポーズじゃん!」
「ひゅー!」
おやっ? 言語感覚が死んでるコギャルでも、さすがに分かるみたいだね。ってことは尚更、鳩山君を他の女に近づけられないね。
「あと……目を見たいって……」
これマジでヤバくない? 私にゾッコンじゃん。初対面で求愛してくるって、どれだけ本気なの? 一目惚れって本当にあるんだねぇ。
「ガチなヤツじゃん!」
「雨ちゃんのこと好きすぎかー?」
やっぱそう? これやっぱガチで私のこと愛してるよね? コギャルにも分かるって相当じゃん。っていうか周りへのアピール要因として便利だね、コギャルって。これからも適度な付き合いしてあげてもいいかも。
「キレイな顔だから隠すの勿体ないって……」
「ヤバくない? アタシの彼氏、そんなん絶対言わんし」
んふふ、だよねー。既に彼氏がいるって情報もありがたいけど、一般的な男がこういうことを言わないって情報はもっとありがたい。いやぁ、彼氏ガチャ大当たり引いてすみませんねぇ。
「それは彼氏がおかしいだけだよ。鈴木さん、可愛いのに」
……鳩山君?
「おいおいおいー、彼氏にしてほしいのかー?」
……おい? コギャル? おいっ? なんで抱きついてるの? なんで鳩山君の頭に、そのだらしない脂肪を押し付けてんの? 人の男に胸を押し付けるって、頭湧いてるの? ねぇ、人の米びつに手ぇ突っ込んでタダで済むと思ってんの? エンコ詰められても文句言えないよ?
「ハハ、鈴木さんがフリーじゃないのが残念でならないよ」
………………鳩山君、これはどういうこと? ねぇ? お世辞なのは分かるけど、一線越えてない? まさかとは思うけど、胸にやられたの? 私だってこれから大きくなるんだけど? っていうか貴方がこれから大きくするんだけど?
「嬉しいこと言ってくれんねぇ。キープ君にしてあげよっか?」
キレそう! 絶対ワンチャン狙ってる! 冗談っぽく言ってるけど、隙あらば乗り換えようとしてるでしょ! ほらっ! さっきよりも強く押し付けてるもん! いい加減にしてよ!
……この女へのカエシはいずれ行うとして、鳩山君にもお仕置きが必要だね。




