第107話 仕掛け(畳み掛け)
「でも鳩山君は紳士だよね。家に上がったのに、ペディキュアだけ見て帰ったんだからさ。親がいなかったのに」
鳩山君が私の家に上がったこと、そして私が情事を覚悟していたこと、鳩山君は性交できる環境をお膳立てされても簡単には手を出してこないということ、一瞬で様々なアピールができたね。
……いや、ちょっと軽率だったかも。我ながら上手いムーブだと思ったけど、こういうのは周りがどこまで汲み取れるのかが重要なんだよね。発言者の私は言葉の意味を理解できて当然だけど、第三者が正しく私の意図を読み取ってくれるとは限らないよね。ましてや鳩山君を狙うのはアホなビッチなわけだし、鳩山君が私に手を出さなかったことに安堵して『今ならまだ間に合う! 誘惑してやる!』ってなったらどうしよう。謀殺するわけにもいかないし、厄介だね。
「正直ね、疑ってたんだ」
とりあえず畳み掛けよう。私的にはさり気なく匂わせるのが正解なんだけど、アホは直接的な表現じゃないと理解できないからね。その証拠としてアホな人って、暗黙の了解とか不文律ってものが分かってないから、聞いちゃいけないことを聞いちゃうじゃん。グレーゾーンだけど黙認するってスタンスの人に『これってやってもいいんですか?』って聞いたら、向こうは『ダメです』って言わざるを得なくなるし、他の人達にも注意せざるを得なくなるんだよ。そういう兼ね合いであえて基準を曖昧にしているのに『明確にしろ! 明文化しろ! 基準を定めろ!』ってわめくんだよね、本当にアホって迷惑。
「何をだい? 俺の何が疑わしいんだい? 詳しく聞こうか」
「だってね? 足なんて学校でも見れるよね? なのに、私の家で見たいって言い出したから……ちょっと怖かったかなぁ」
鳩山君の方から押しかけたってことにしよう。実際は違うんだけど、鳩山君の優しさにつけこませてもらおう。鳩山君は聡いから、水掛け論を避けるはず。
「でもゴメンね? 地味な下着だったから、がっかりしたよね?」
本当にゴメン、いや、下着が地味だったことじゃなくて、教室でこんな仕掛け方をしたことに謝ってる。でもしょうがないんだ、これはあくまでも鳩山君を守るためだからね。例えるなら、車に轢かれそうな子供を突き飛ばす感じ。致命傷を避けるために怪我をさせちゃう的な。
「いや、こっちこそすまない。見る気はなかったんだが、キミが階段に座りながらマニキュアを見せてきたから……」
よしよしよし、見たという事実は認めてくれたね。もう少し攻めようか。
「ううん、気にしないで。鳩山君が女の子に興味ないのは知ってるから」
「雨宮さん、何か誤解していないか? 俺は異性愛者だぞ」
知ってるよ、そんなこと。私に対する恋心を隠しきれてないもん。人から好意を向けられても疑うであろう性格の私でさえ、すんなりと確信を持てるぐらい好意が激しいもん。私以外の女の子に全く興味持てなくなるなんて、正直異常すぎる。どんだけピンポイントで好みにヒットしたんだって話だよ。
「あっ、ゴメン……。この言い方は語弊があったね」
さすがにアホなコギャルでも『鳩山君は私以外の異性に一切興味がありません』と読み取ってくれるよね? さすがにね、うん。
「あっ、そういえば次の土曜日も両親いないよ」
予約を取りつつ、周りに牽制する。私って結構強かかもね。
「鳩山君の要望通り、着飾らない地味なのにするね」
ちょっと攻め過ぎかも、これは。でも許して、派手さイコール魅力っていう孔雀みたいな思考のコギャルには効くはずだから。
「雨宮さん、もう何も言わないでくれないか?」
……なんでそんなこと言うの? 無口な私を饒舌キャラに調教しようとしてきたくせに、自分に都合が悪くなった途端に手の平返すの? 悪気はないんだろうけど、そういう態度なら私も意地悪したくなっちゃうなぁ。
「え……? あんなにお口のトレーニングをさせてきたのに……」
……さすがにやりすぎかな、あはは。でも鳩山君が悪いんだよ、だって言い方が優しくなかったもん。『その話はまた今度にしようか』とか、そういう私のことを慮った言葉を投げかけてほしかったね。うん、私は悪くない。




