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テックフォードの遺産  作者: 之 貫紀
第2章 FOURTEEN FRANTIC DAYS

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絶対税のためね。間違いないわ

 ワイルドパンチの〈集積所〉の床には、運ばれてきた男たちが縛られてエビのような姿をさらしながら転がされていた。

 筏に乗せられる人数は無理をしても二十人。さすがに五十人は無理だし、〈集積所〉には数多くの物資が存在していた。そう、彼女たちは賭けに勝ったのだ。

 

 唯一意識のあったサンダンスは、固定された椅子に座らされ、手足を縛られていたが、あれから一言も喋らなかった。

 

「コロネン少尉、いつ頃こちらまで来られますかね?」

「なるべく早く来てほしいわね」


 盗賊だけでも到底運びきれない上に、数多くの物資を含めれば絶対に運び出せないだろう。

 他に方法がなかった彼女たちは、セイランとジェームズにコロネン少尉への伝言を頼んだのだ。なお、馬車は置いていってもらった。


 鹵獲品を整理しながら、アリシアは、サンダンスが持っていた銃を不思議そうに見つめていた。


「だけど、どうして盗賊が帝国の秘密兵器を持ってるわけ?」


 帝国の秘密兵器だというのならお金になるに違いない。それはいいが不思議だった。


「可能性は二つです。帝国の兵士を襲って奪ったか、そうでなければ彼自身が帝国と繋がっていたかでしょう」


 フォーディーは、それが、初期の段階と言うにはかなり進んだライフルだと知って驚いていた。

 

 煙の発生具合から、まだ無煙火薬には到達していないようだったが、金属薬莢まで使っている。

 つまり、帝国には、すでにプレス技術があり、冶金学も発達しているということだ。サヴールを見る限り驚くべき技術だと言える。


「奪ったって、どこで?」


 銃を持った帝国の部隊が、サヴールに侵入した例はアリシアの知る限りない。もちろん秘匿されているだけなのかもしれないが。

 

 竜が住まうと言われる天涯山脈を越えることは不可能だろうし、西の街道は厳しく監視されている。

 

 それに、この武器は、よく手入れされているようだ。

 単に奪っただけの人間が、これほどそれの扱い方に詳しいというのもおかしな話だ。


「コロネン少尉たちが見つけた、戦闘跡の生き残りって可能性は?」


 そういえば、ワイルドパンチが活動を開始したのは数年前だと言っていた。時期もちょうど合うのではないだろうか。


「その可能性は高いでしょう」

「もしそうだとしたらサヴールの盗賊団が帝国と繋がってるってことだよ?……それって大丈夫なのかな」

「敵性国家に対する破壊工作は、歴史的にもよく見られる行動です」


 当たり前のようにそう言うフォーディーに、アリシアは小さくため息をついた。

 あまり関わり合いになりたくない世界だったが、魔法学院に在籍している以上、そういうわけにもいかないだろう。コロネン少尉との約束もあるし。


「よし! そういう難しい話は、軍の人にお任せしよう!」


 面倒に巻き込まれるのはごめんだとばかりに、アリシアはそう言って、鹵獲品の整理に戻っていった。

 お金だけでも結構な額になっていて、それはとても楽しい作業だった。


  ❖ ◆ ❖


「あんな怪しげな男に先導されて来てみれば……いったいこいつはなんなんだ?」

「何って……ほら、コロネン少尉が言ってたじゃないですか。大陸の中央に置かれた金貨ってやつ」


 確かに、こいつらにかかれば、並の盗賊など相手にもならないだろうとは言った。

 それに、あの時見せた力が本物なら、サヴール王国最大の盗賊団でも相手にならないだろうと考えたことも事実だ。

 だが――


「本当にやるか?」

「だって、向こうから襲いかかってきたんだもん。降りかかる火の粉は払うでしょ?」


 払えるかどうかの方が問題なんだよと、コロネンは内心頭を抱えた。


「コロネン少尉こそ、あんな手紙一つですぐ来てくれるなんて思いませんでした」

「あんな馬がゴロゴロいてたまるか」


 そういえば、コロネン少尉はセイランを見ていたっけと、アリシアは思い出した。

 それで本物の私からの連絡だって信じたのか。


「で、あれが?」

「サンダンスだって」


 ひときわ偉そうな椅子に座らされ、見たことものない質感の紐のようなもので、足首と後ろ手にされた親指を結束された男が、猿ぐつわをされて椅子に固定され、こちらを殺すような目つきで睨んでいた。

 それは、コロネンですらびびりそうな視線だった。


「お前ら肝が据わってんなぁ……」

「ううん、怖かったから近づかなかったの」

「ああ?」


 手紙が来てから急いで動いたとはいえ、報告を受けてから丸一日は経っている。

 その間縛り付けたまま放置?

 

 よく見ると、縛って転がされている連中は、軒並み股間が大変よろしくない状態になっているようだった。

 どうしてこんなに距離を置いているのかと思ったら、臭いか……


「いや、牢の中にだってトイレくらいあるぞ」

「大の男たちがトイレに行くたびに自由にさせるなんて、非力な私たちにできるわけないじゃない」

「非力ねぇ……」


 五十人以上の男たちを全員縛り上げ、狭い部屋に閉じ込めて放置。這い出てこようとするやつを、どうやってだかその場で気絶させたのだろう。

 入り口付近では人が層になっていた。

 

 ボスだけは椅子に座らせて遠くから監視。

 たった二人で、それをやったってわけか……それって非力なのか?


「それで、お金のことなんですけど――」


 アリシアが指差した先には、連中を逆さに振って集めたお金が山と積まれていた。

 また、高価そうなアイテムも多数並べられていた。


「ああ。基本的には討伐者のものだ」

「だよね! やったー! シャーリー! なんとかなったわよ!!」

「おめでとうございます、お嬢様! これで私のお給料も!」

「バッチリよ!」


 踊り出しそうどころか踊り出しているアリシアに向かって、コロネンが訊いた。


「それよりお前ら、さすがに今回は自分たちがやったことにするんだな」

「え?」


 そう言われて初めて事の大きさに気が付いたかのようにアリシアがコロネンを見た。

 

「おいおい、言っておくが、俺の手柄にするのは無理だぞ」

「えー、どうしてですか? 私はお金さえいただければ……」

「バカ言え、俺が討伐したことにしたら、鹵獲物は全部軍の所有になるんだよ」


 当然無関係なアリシアに報償が出るはずはない。


「ええー?」

「金が欲しいなら諦めろ」


 そもそもあれだけ毎日盗賊を引きずって来ていたくせに、今更何を言ってるんだとコロネンは呆れていた。


「後な、確かに鹵獲物は討伐者のものだが、基本的には、だ。基本的には」

「――え?」


 確かに、盗賊が持っていた財産は討伐者のものになる。

 だがそこには厳格な手続きがあるのだ。


「手続き?」

「そうだ」

「今までありませんでしたよ?」

「そりゃ、しょぼい盗賊団で、大した財産もなかったからだろ」

「まあ、そうだけど……」


 財産を持っている盗賊の場合、まずはその目録が討伐者と軍や衛兵の間で作られるのだそうだ。

 そして、鹵獲品のリストができたら、次は重要なアイテムの買い戻しというフェーズが挟まる。

 

 商家にしろ貴族にしろ、例えば家宝と呼べるような品物が出てくれば、元の持ち主がそれを買い取るチャンスを与えるわけだ。

 それを無視して売りさばいたりしたら、後で恨まれる羽目になるし、盗品の売買ってことで、逆にお縄になりかねない。

 

 そうしてそれらの取引が終わった後、税が引かれて討伐者に支払われるということだった。


「えー?」

「えー、じゃないだろ。そういう手続きを行わないと、Aの家宝を、Bが盗賊に襲わせて取り上げ、Bがその盗賊を討伐したということにして合法的に取得できてしまうだろうが」


 実際、大昔にそういう盗賊ロンダリングでやりたい放題した貴族がいたらしい。それが発覚して以降、今のシステムに改められたそうだ。


「確かにそうだけど……それって現金は関係なくない?」

「そこは一括して財産権を保護するってことになってる」


 こちらも、国家が不当にそれ奪うことを禁じると共に、正しい税を計算するために必要なことらしい。


「絶対税のためね。間違いないわ」


 憤慨した様子のアリシアに、コロネンは苦笑を禁じ得なかったが、現金だけを別にすると、それを懐に入れて知らんぷりする冒険者が多いのだ。

 報告しなければ税も発生しない。なんとも堂々とした脱税だが、最初に差し押さえでもしなければ摘発も難しい。

 

 そもそも、そういうカネは、俺たちを呼び出す前に懐に入れて隠しておくんだよ、とコロネンは思ったが、さすがにアドバイスはしなかった。

 脱税の教唆になるのはごめんだからだ。


「じゃあお金って、いつになったら手に入るんですか?」

「これだけの規模だからなぁ……半月ははかかるんじゃないか?」


 下手をすれば一か月コースだ。


「ええ!? あと六日しかないのよ! 間に合わないじゃない!」

「いや、こんな大規模な盗賊団のアジトだぞ? 鹵獲品の目録を作るだけでも結構かかるだろ」


 すべての手続きが一か月で終わるなら御の字だろうと、コロネンは積み上げられたアイテムを見ながら思った。


 取り急ぎひとつひとつにタグを付けてリスト化するのだが、小さなものなら作業者がちょろまかす可能性だってあるのだ。

 その監督がまた面倒なことこの上なかった。

 

「今度こそ、やったと思ったのに……」


 あまりの落胆ぶりに、コロネンは彼女に金を貸してやろうかと考えた。

 何があろうとこの清算が終わったら、相当な金を得られることに間違いはないのだ。取りはぐれはないし、彼女に恩も売れる。


 だが、たった十日弱放っておいただけで、誰にも取り締まれなかったサヴール最大の盗賊団が一夜にして滅んだ。

 たった二人の少女とも言える主従のせいで。

 

 あと六日もあるなら、この上何をやらかすのだろうか。

 彼はそれが少し楽しみだった。ただし、彼女にグレナフィオーラに帰ってもらっては困る。

 

 コロネンは、期日までに支払えなかった時のために、学院に学費を預けておこうと決めた。

 もしも彼女が支払えたなら、何もなかったことにすればいいし、もしも支払えなかった場合は、多少の恩を売っておくのも悪くないだろう。


  ❖ ◆ ❖


「大型の盗賊団はだめよ」


 アリシアは力強くそう言った。大型の方がお金を持っていることは明らかだが、そのせいで報奨金の支払いが遅れるなら意味はない。

 猶予はあと六日しかないのだ。


「お金を持っていない小規模盗賊団もだめ」


 物理的に逆さに振っても銀貨数枚しか出てこないんじゃ、割に合わないどころか時間の無駄だ。


「狙いはそこそこお金を持っていそうな盗賊団ね。仮にアジトに財産があっても、見なかったことにして知らんぷりできる程度の規模。どっかにいない?」

「アリシア、規模で選別できたとしても、懐具合は想定できません」


 記録にある、襲った獲物から類推することはできるが、本当にその価値が奪われたのかどうかは襲われた側の自己申告だし、そもそもそれが残っているかどうかは別の問題なのだ。


「ならさー、大型盗賊団のメンバーを特定して、片っ端から所持金を巻き上げるとか」

「それはカツアゲと言って、犯罪です」

「ええー……」


 仮に悪の組織に属していても、それだけで罪に問うわけにはいかないのだ。

 それが法治というものだ。

 

 アリシアたちは、新しい獲物を求めて再び動き出した。

 ビンボーに暇はないのである。


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