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テックフォードの遺産  作者: 之 貫紀


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13/15

清算

 ビリーは戦場の経験も豊富な前線指揮官だ。スペル公国の大規模魔法も見たことがあったが、こんな規模の集落を二人で全滅させることなど絶対に不可能だ。

 彼女が使っていた魔法めいたものは、光の雨が降り注ぐ、対集団戦用のホーリーレインに似ていたが、あれは、敵に当たらない光も多いし、規模だってせいぜいが数十メテル四方と言ったところだろう。

 

 だが今目の前で展開されていた魔法は別だ。

 彼が見る限り、無駄なくすべての光が魔物を貫いていたし、大も小もすべてがそれで息の根を止められていた以上、威力も大したものなのだろう。

 

 しかも常に本人を中心に、脅威度が高そうなものから仕留める?

 薙いだだけで上位の変異種がなすすべもなく首を切り落とされた大杖の光魔法もそうだったが、スペル公国の宮廷魔術師が何人集まったところで、あんなまねができるとは思えなかった。


 それをなした本人は、自分の侍女らしき女と右手を高く掲げて打ち合わせながら、「この魔石を売れば、学費だって楽勝ね!」と、楽しそうに笑っていた。


 魔物はその体の中に魔石という物質を持っていて、それが様々な場所で利用されている。

 ゴブリンのものはほとんど価値がないようなものだが、上位種もかなりの数がいたようだし、オークの姿も確認されていた。トータルではそれなりの価値になるだろう。

 だが――


「あー、悪いんだが……」

「はい?」


 ビリーは喜んでいる二人に冷や水を掛けるのもどうかと思ったが、決まりは決まりだ、仕方なくそれを口にした。


「実習中に倒した魔物の所有権は、軍にあるんだ」

「え? ……ええ!?」

「出発前のガイダンスで聞いてただろ?」

「そ、そういえば……」


 今回は魔法学院の実習扱いだ。

 その場合、学院生が倒した魔物の魔石は、実習を補助した軍のものになるというルールがあった。それを費用の足しにするわけだ。

 

 がっくりと肩を落としたアリシアだったが、ビリーはそれどころではなかった。

 伯爵領へ出した早馬を止めないと、何もない場所へ軍隊が向けられることになるからだ。

 

 スナッチ野郎がどうなろうと知ったことではないが、もしも伯爵軍がやってきたりしたら派遣コストだけで大変なことになりかねない。

 しかも討伐する対象はすでにいないのだ。狂言扱いされて巻き添えで降格させられるのはごめんだ。


「テックフォード候補生。私はこれから後始末がある。君は安全なんだな?」


 今し方、信じがたい魔法で魔物をなぎ倒した人物に向かって、それを問うことに苦笑を禁じ得なかったが、それでも分隊を預かる身としてはそう言うしかない。


「はい、大丈夫です」

「よし、詳しい報告は後でキャンプで聞こう。戻ってきたら私のテントに顔を出すように」

「分かりました」


 ビリーが気絶している女生徒を抱き上げ、隘路に向かうのを見届けると、アリシアは、はぁ……とため息をついて腰が抜けたように座り込んだ。


「これで学費も大丈夫だと思ったんだけどなぁ……」


 彼女は魔法学院の三回生だ。実習が終われば、学期末の休暇を挟んで最上級生になるのだが、今となっては、本当に卒業する意味があるのかどうかも怪しかった。

 何しろ、銀星の大杖など子供だましに思えるような力を手に入れたことは確実なのだ。

 でも途中で辞めたら、おばあさまが悲しむだろうしなぁと、彼女はそれを決めかねていた。


「お嬢さま?」


 難しい顔をしているアリシアに、周囲の警戒をしていたシャーリーが心配そうに声を掛けた。


「ううん。なんでもない。いろいろ起こりすぎて、ちょっと疲れちゃった」

「そうでございますね」


 アリシアはなんとか身を起して立ち上がると、体を伸ばして言った。


「フォーディー。私たちは一度キャンプに帰るわ」

「社会的な立場もありますからそれがよろしいでしょう。いつごろ戻って来られます?」

「学院のある街まで戻るだけで二週間くらいかかるし、向こうでの生活もあるから、はっきりとは分からないわね」

「承知しました。護衛にいくつかドローンを付けましょう。それからこれを」


 数機のドローンが奇妙な道具を運んできた。

 格好良くデザインされたバイザーとゴーグルの中間のようなアイテムと、手のひらに収まるサイズの何か、そうして黒いリングのようなアイテムだ。


「管理用ゴーグルです。眼鏡はご存じですか?」

「サヴールにもあるから大丈夫。眼鏡のようにかければいいの?」


 アリシアがそれを取り上げたが、どうやら顔に固定する部分がない。

 ずっと持っていなければならないのかしらと訝しみながら、それを顔の前に持って行くと、まるで顔に貼りつくように自然に固定された。


「うわっ。なんだかすごい魔道具ね!」


 視界はまるで何も掛けていないかのようにクリアだが、そこにはいろいろな情報が表示されるようだった。

 あの後、ロイのために製作されたゴーグルだったが、結局彼がそれを使うことはなかった。ここで彼の子孫がそれを活用するなどと、フォーディーも思わなかっただろう。


「シャーリーにはチョーカーを」

「チョーカーって……これですか?」


 彼女は黒いリングのようなアイテムを取り上げた。


「首に近づけてください」

「首? こうですか?」


 彼女がそれを首に近づけた途端、ゴーグルと同様、それが勝手に首にはまり固定された。

 

「きゃっ」

「それは、インカムなしでも私やアリシアと話ができるアイテムです」

「通話の魔道具!?」

「他にも、シャーリーが見ているものをアリシアに見せたり、簡単な防御フィールドを作り出したりすることもできます」


 映像まで送れる通信の魔道具は、便利だが非常に高価だ。

 重要な拠点の間には設置されていることがあるらしいが、個人で所有しているものはいないだろう。だが──


「そ、その……それはいいんですが」

「何か不都合が?」

「フォーディー。あなたは知らないだろうけれど、首輪を付けている者は奴隷と間違われるのよ」

「それは失礼。文化についてはそのうち学ぶことにします」

「それがいいわね。で、どうにかなるの?」

「こうしましょう」


 そう言った途端、シャーリーの首についていたチョーカーが透明になって消えた。


「え? なにそれ?」

「光学迷彩技術の応用です」

「もしかして、この眼鏡も?」

「映像出力は網膜投影ですから必要なら可能ですが、取り外した場合透明処理は解除されますのでご注意を」

「なるほど、どこに置いたか分からなくなるもんね」

「処理しますか?」

「お願い。こんなのを付けてたら目立っちゃう」


 そうしてアリシアは、それを透明にしたり不透明にしたりしてしばらく遊んでいた。

 そしてどのような濃度にしても、外部から入ってくる光の量が一定であることに気が付いた。フォーディーの話によると光が強いときは抑制され暗いときは増幅されるらしい。


「それって夜の森でも?」

「昼間と変わらない視界を確保できます」


 フォーディーが説明してくれることを聞けば聞くほど、それらはまるで高度な魔法のように思えた。

 どうやって隠そうかと迷っていたが、バレたところで、これらの奇跡をすべてテックフォード家に伝わる固有魔法だと強弁すればごまかせ──無理かな?


「現在、ある程度以上ここから離れた場合、私とのリンクが途切れますが、しばらくして衛星の運用が始まれば再リンクされますのでご安心ください」

「衛星? ……ああ、七十二時間ってやつ?」

「そうです。私との接続が切れても、ドローンは自立して行動しますので、いままでここで行っていた程度の操作は可能です」

「って、魔物を見つけたり、攻撃したり?」

「可能です。ただし人間の思考分析等の高度な機能は、私とのリンクが確立されていないと使用できません」

「思考分析?」

「その人間が友好的か敵対的かなどといった判定です」

「そんなことも判るの!?」

「大まかにでしたら」


 それは真偽官たちに準ずる能力だ。


「はー、あなたって、なんでもできるのね」

「なんでもはできません」

「はいはい。で、これは?」


 彼女は最後に二つ残っていた、掌に収まるサイズの、小さな杖にグリップが付いたようなものを取り上げた。


「それはビームガン……あなた方の言う銀星の大杖の小さなものです。ご婦人用ですね」


 そう言って、フォーディーはその使い方と装着方法を彼女たちにレクチャーした。


「へぇ……」


 アリシアはそれを取り上げて、掌の上で転がした。

 グリップを握ると丁度人差し指や中指の位置にスイッチのようなものがあり、それを押すことで光の魔法を放つことができるようだった。

 銀星の大杖は目立ち過ぎる。服の中に隠しておける、これくらいのサイズが便利だろう。


「エネルギーパックはフルチャージされていますから、大体500発ほど撃てます」

「練習しなきゃ当たらないんじゃない?」


 練習で使用する回数のことを考えながらアリシアが訊いた。


「オートエイムはリンクが必要ですが、照準は思考連動になっています。命中させたいところを思い浮かべれば、そこに当たります。練習は最低限でいいでしょう」

「ミサイル系の魔法みたいなものね。回数を使い切ったらどうするの?」

「エネルギーパックの交換が必要です。予備は用意しておきます」

「分かった。じゃ、しばらくしたら私たちは帰るから」

「承知しました」


 そうしてアリシアとシャーリーは、何発か小杖の発射練習をした後、一路キャンプを目指して歩きだした。


  ❖ ◆ ❖


 軍に守られて退却した学院生たちは、無事にキャンプへと戻ってきていた。

 詳しい話はまだ聞かされていないが、軍人たちの様子を見る限り、どうやらあの集落からの攻撃はしのぎ切ったようだった。


 天幕の外の様子をうかがっていたお調子者のポートランド伯爵家のフェイマスが、その内容を皆に告げた。


「なんだかうまくいったみたいだぞ。ピリピリしてた軍の連中が普通になってる」

「でも、たった一分隊で、あの規模の集落を退けるなんてありえないよ」

「一分隊どころか、最初にあそこに残ったのって、分隊長一人だけだったように見えたけど」

「思ったよりも規模が小さかったとか?」

「最前列だけで、少なくとも百はいただろ」

「実は分隊長が超人」

「それだ!」

「いや、もしそうなら、そんな人がなんで少尉なんかやってるんだ?」

「きっと現場でしか輝けない、残念な人なんだよ」


 学院生たちが、助かった実感から緊張を緩め、思い思いに勝手なことを言っている天幕の隅で、ラルーは右手の親指の爪を噛みながら一人ぶつぶつと呟いていた。あれほど探したにもかかわらず中尉を見つけられなかったのだ。

 それはとても近づけそうにない雰囲気で、腰巾着だったハリスですら側に近寄ることをためらわれた。


「さすが、アンクの異名を持つ分隊長だな。あの集落を相手にして全員無事だってんだから──」

「全員、無事!?」


 信じがたい情報を聞いて、その場にいた連中の視線を一身に集めながら、ラルーは思わず声を上げた。

 フェイマスは驚きながらも、律義にそれに答えた。


「あ……ああ。いま聞いた話が本当ならな」

「そんなバカな」

「え?」

「ブラントは?」

「あ、ああ。確かに無事とは言えないか。怪我をして気絶したまま運び込まれてきたらしいぜ」

「なんだと!?」


 ラルーの剣幕に、フェイマスは苦笑いを浮かべつつ、両手を前に上げて彼をなだめた。


「おいおい、待てよ。サンドレイクって、ブラントとそんなに親しかったのか?」

「あ、いや……そういう訳じゃない」


 まずい。シャネルが意識を取り戻して自分のことを告発したりすれば、後継ぎレースからドロップアウトさせられることは確実だ。

 声を上げてさえいなければ、事故だと言い張れる可能性もあったが……あのときは、死人に罪を擦り付けられるいいチャンスだと思ったのだ。


「くそっ、くそっ、くそっ、どうして、やることなすこと、こうも裏目に……」


 中尉は見つけられず、シャネルは始末し損ねる。もちろん英雄になどなれるはずもない。何もかもが裏目に出て、最終的に訪れた結果は最悪だ。

 シャネルが意識を取り戻す前に、もう一度どうにかして……だが、どうやって?


 一人部屋の隅で呪詛をふりまいていたラルーは、なんとか自分の失態を他人に押し付けられないかと、猛烈な勢いで頭を回転させていた。


 やってしまったことは仕方がない。シャネルが生きていたとしたら、行為そのものを隠蔽することは難しいだろう。

 彼は散々悩んだ後、とにかくシャネルを見に行くべきだと、彼女が担ぎ込まれたはずの衛生班の天幕へと足を向けた。


  ❖ ◆ ❖


「帰還した!?」

「はい。足も酷い状態で、一応魔法で応急処置はしてありますが、実習を続けるのは無理だと判断して先に帰されました」

「うそだろ……」


 まさか今から追いかけるわけにもいかず、シャネルに関して、もはや彼にできることはなかった。


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― 新着の感想 ―
は、早くザマァを……もっとざまぁを!
全部裏目になって飯がうまい
まぁ「ざまぁ」になるのは確定
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