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隣のギャルが俺の黒歴史ラノベ(純愛)のセリフを耳元で甘くささやいてくる  作者: 斎藤ゆうすけ


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第4話 親友ギャルに俺たちの秘密がバレそうになる

図書室から教室へ戻る途中。俺は少しだけ後悔していた。いや、少しじゃない。かなり後悔していた。


なぜなら。


「依澄くん、顔赤い」


「赤くない」


「赤いよ?」


「気のせいだ」


「ふふっ」


 隣を歩くリリカが楽しそうだからだ。


 こっちは図書室でメンタルを削られたばかりだというのに。耳元で黒歴史ラノベのヒロインの台詞を囁かれた人間の気持ちを少しは考えてほしい。いや、考えてやっているのか。だから楽しそうなのかもしれない。


 そんなことを考えているうちに教室へ戻る。そして自分の席へ座った。

 

 リリカも当然のように隣へ腰を下ろす。椅子の脚が床を小さく鳴らした。昼休み終了までは、まだ少し時間がある。


 ようやく一息つけそうだった。俺は深く息を吐く。図書室からの帰還。ただそれだけなのに妙に疲れた。精神的な意味で。


そんな時だった。


「あー! やっと見つけた!」


 教室の入り口から元気な声が飛んできた。

 

 俺は反射的に顔を上げる。そして嫌な予感がした。

 

 橘木姫乃。リリカの親友だ。明るい金髪のツインテール。短めのスカートにルーズソックス。誰がどう見てもギャル。というか、ギャルという概念 がそのまま人間になったような女子だった。

 

 いつも教室の中心にいて、笑い声が絶えない。思ったことを遠慮なく口にする。つまり今の俺にとって、一番遭遇したくない相手だった。


「昼休みどこ行ってたのさー!」


 姫乃はそのまま俺たちの机へやって来る。

 

 その瞬間、机の下で何かが足に触れた。


 こつん。


 小さな衝撃。リリカの靴先だった。

 

 俺は思わず隣を見る。リリカは前を向いたまま、何事もない顔をしている。けれど、ちらりとこちらへ向けられた視線だけで意味は伝わった。


――余計なこと言わないでね。


 たぶん、そういうことだ。安心しろ。俺だって言うつもりはない。というか言ったら俺も終わる。


「なにしてたの、ふたり?」


 姫乃がにやにやしながら聞いてきた。


「別に」


「別に、じゃないじゃん」


 姫乃は俺とリリカを見比べる。


「なんか、急に距離近くない?」


 姫乃が俺とリリカを交互に見た。獲物を見つけた猫みたいな顔だった。


「気のせいだ」


 俺は即答した。


「依澄くん、否定早すぎ」


 姫乃が吹き出す。


「それじゃ怪しいって言ってるようなもんじゃん」


「怪しくない」


「怪しい」


「だから違う」


「ほら。必死じゃん」


「必死じゃない」


「やっぱ怪しい! ふたりが怪しいって先生に言いつけちゃおうっかなー♪」


「小学生か」


 思わずそう返すと、姫乃はけらけらと笑った。完全に面白がっている顔だ。こいつ、絶対に信じてない。


「はいはい。依澄くんはそういうことにしといてあげる」


「なんだその上から目線は」


「だって怪しいし?」


「まだ言うのか」


「そりゃ言うっしょ」


 姫乃は悪びれもせず笑う。ひとしきり笑うと姫乃は、ようやく俺への追及を切り上げ、今度は隣のリリカへ身体を向けた。


「で、リリカ」


「んー?」


 リリカは何事もないように首を傾げる。


「なんで図書室?」


「ちょっと小説の話してただけだよ」


 小説。


 たしかに小説の話ではあった。俺が中学時代に書いた黒歴史ラノベについての話だったというだけで。


「へぇ」

 

 姫乃の目が細くなる。


「リリカってそんなに小説読むっけ?」


 その瞬間だった。リリカの笑顔が、ほんの少しだけ止まる。


 本当に一瞬。たぶん姫乃は気付いていない。けれど俺にはわかった。


 ああ、こいつも隠しているんだ。俺が天玻璃奏月だったことを隠したいように、リリカもまた、自分の好きなものを全部は見せていないのだ。


「読むよ?」


 リリカはすぐに笑顔へ戻った。


「たまにだけど」


「へー?」


「なによ、その反応」


「なんか意外」


「失礼だなぁ」


 姫乃はさらに身を乗り出す。


「どんな小説?」


「秘密」


「うわ出た」


 姫乃が大げさに肩を落とした。


「秘密とか言われると気になるんだけど」


「気にしなくてよし」


「気になる!」


「だーめ」


 リリカは楽しそうに笑う。けれど、その笑顔の奥に、少しだけ照れくささが混じっているように見えた。姫乃にはまだ言いたくない。そんな気持ちがあるのかもしれない。


「でもさー」


 姫乃は諦めていなかった。


「リリカ、昨日からめっちゃ楽しそうなんだよなぁ。絶対、なんかあったっしょ?」


「そう?」


「そう」


 即答だった。


「なんか機嫌いいし」


「気のせい」


「そり、さっきの依澄くんと同じリアクションじゃん」


 リリカは笑う。そして、机の下で、もう一度だけ靴先が俺の足へ触れた。

 今度は軽く。本当に軽く。まるで確認するみたいに。


 秘密。


 その言葉が頭に浮かぶ。俺の秘密。リリカの秘密。たぶん今は、そのどちらも守られている。


「やっぱ、なんかいいことあったんでしょ?」


「秘密」


「ガード固いなぁ~」


「ふふっ」


 姫乃が騒ぐ。リリカが笑う。そして、その隙に。


 リリカが俺の制服の袖をきゅっと引いた。ほんの少しだけ。誰にも見えないように。


「……なんだ」


 小声で聞く。するとリリカは、姫乃に聞こえないように少しだけ顔を寄せてきた。


 耳がくすぐったい。彼女の熱を帯びた吐息が、逃げ場のない距離で首筋に吹きかかる。


 髪がかすかに頬へ触れた。


 耳のすぐそばで息がほどける。


 それだけなのに、思考が妙に落ち着かない。


「ありがと」


 小さな声だった。俺だけに聞こえる声。


「別に」


「秘密にしてくれたから」


「俺も困るだけだ」


「ふふ」


 リリカが嬉しそうに笑う。その声が妙に近くて、俺は反射的に少しだけ身体を離した。しかし、 密着した袖から伝わる彼女の確かな体温と、かすかな香水の匂い が、俺の思考を焦らしてくる。


「依澄くん」


「なんだ」


「これで共犯だね」


 共犯。


 その言葉に胸の奥が妙にざわついた。黒歴史を共有しているだけだ。ただそれだけ。なのに、秘密という言葉のせいか、耳元で囁かれたせいか、妙に特別な響きに聞こえてしまう。


「違う」


「違わないよ?」


「違う」


「ふふっ」


 リリカは楽しそうだった。そして姫乃は。


「ねえ、あたしだけ仲間外れじゃない?」


 と、不満そうな顔をしていた。


 俺は思う。この状況を説明できる言葉があるなら教えてほしい。


 ただ一つだけ確かなのは、秘密を共有する相手ができていたということだった。


♡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♡


ここまでお読みいただきありがとうございます!


リリカと依澄のやり取りを楽しんでいただけましたら、

ブックマークや評価、いいねで応援していただけると嬉しいです。


皆さまからの応援や感想が、作者の大きな励みになっています。


また次回、二人の放課後にお付き合いください。


♡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♡

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