表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/27

電気女6

「でっかいなあ~。大学ってめちゃくちゃ広いですね。使ってない教室とか大量にありそう」

 T工大内の一般駐車場に慣れた手つきで車を停めながら壮太が言った。ゴールデンウィーク明けの平日だというのに構内はやけに静かだった。学生時代勉強など一切してこなかった壮太には大学での生活が想像もできないのだろう。

「T工大は小さい方だと思うわよ。国立だもの。金持ってる私立はもっと広いわよ。ここはそれでも理系の学部なら日本トップクラスだからお金はあるみたいね。あそこ見てみなさいよ」

 聖子が指さした先には周りの建物よりも一際高い校舎があった。

「展望レストランがあるんですって。10階建て。ちょっと早いけど晩はあそこにしましょうか」

「はえ~っ!すごいですね。俺も大学行けば良かったなあ」

「あら。今からでも行けばいいじゃない。勉強教えてあげましょうか?」

 聖子の言葉に壮太は若干目を細める。

「無理なの分かってて言ってるでしょ?意地悪ですよ。そういうの」

 確かに壮太の学力はすこぶる悪い。理科だけは得意だったらしいが、他は壊滅的だった。勉強面では警察学校でも赤点常連で苦労したらしい。

「芝崎さんは何で大学に行かなかったんですか?普通に行けたでしょ?」

「どうだかね。大学なんて行きたいとも思わなかったわ。やりたいこともあったし」

 初めて来たはずの大学内を迷うことなく歩きながら聖子は答えた。

「やりたいことって?」

 会話の中で出た当然の疑問を壮太はぶつけてくる。直属の部下といえど、出会ってからまだ半年もたっていない壮太に言うのは聖子にとって憚られた。

「そんなことはどうでもいいのよ。それよりもここからはもう臨戦態勢だからね。敵の腹の中よ」

「了解。俺はいつでも行けますよ。千田すみれはどこにいるんですかね?とりあえず講義室に片っ端からぶち当たりますか?」

「在校生1000人はいるのよ。見つけられるわけないでしょ。とりあえず学生課に行って聞いてみましょう」

 2人は学生課のある建物に足を進めた。

「壮太はどう思う?千田すみれについて」

「さあ?天才ではあるんでしょうね。でも学生だから金とか欲しかったんですかね。それで自分の才能を悪用してエスパードラッグなんてものを作って金儲けに走った」

「なるほどね。天才だってところはおおむね同意ね。多分できない人の気持ちなんて分からないと思うわ。逆にお金には興味なさそう。結果稼いでるけど。千田すみれにパスカルのようなテロリズムはなくきわめて一般的な思考をしている」

「一般的かはさておいてなんか芝崎さんと似てますね」

 他愛もない話をしながらも聖子たちは足を止めることなく静かな構内を歩く。

「どういう意みっ……」

 ドオッン!ドオッン!ドドドドドドドドドドド!!!

 銃声が鳴り響く。初めにライフルかと思われる狙撃音。2発とも聖子の頭と胸に命中した。続いてMG射撃が間髪入れずに聖子と壮太を襲う。

 相手が聖子たちでなければ確実に即死だったであろう。

 銃弾は全て聖子の体ぎりぎりで電磁バリアにより防がれていた。壮太の方はというと、当たりはしたがダメージはほぼない。かすり傷程度の出血をしたぐらいである。大学に入った時からすでに壮太は体の内部を金属化していた。

「そっちよろしく」

 そう言い残すと、聖子はすぐに狙撃犯を追った。

 聖子の向かった先はこの大学で1番高い建物、展望レストランのある32号館である。雷と同じ速度で進んでいた。逃げる暇を与えない。

 幸運なことに犯人はすぐに見つかった。どうやら聖子のカンは当たったらしい。敵は2人いた。32号館の屋上に狙撃手と観測手を確認、両方とも若い男である。建物の屋上で仕留めそこなった獲物を必死に探すマヌケの姿が容易に発見できた。聖子の速さを捉えるのは熟練のギガント使いでも難しい。残り50メートルに近づいても聖子には気づかなかった。

 相手が死なない程度に移動速度を下げ、犯人2人をラリアットで一気に抑えた。

 敵は何が起こったのか理解できていなかったが、聖子の顔を見て唖然とする。自分の目で見たものを信じることができていなかった。

 当然である。さっきまで500メートル先で狙っていた人間が数秒で目の前にいるのだ。信じられるはずがない。

「あなたたち学生よね?見たところプロには見えないけど。なんで私たちを狙ったの?」

「………………………」

 男たちは答えない。最初こそ表情に戸惑いの色が見えたものの今は生気のない顔色である。

(何かおかしい)

 男たちの格好も変だった。パーカーにジーンズといった一般的な大学生御用達のアイテムで固められている。

 とても今から狙撃をする服装とは思えなかった。

「答えなさい!あなたたち学生でしょ?どうして私たちを狙ったの?誰に雇われた?千田すみれ?」

 なおも答えない。会話にならない。石像にしゃべりかけている気分だった。おそらく千田すみれの仕業だろう。聖子は彼らの頭に接続しようとした。

 その時バタンと屋上の扉が開く。視線を向けるとわらわらと大学生が数十人入ってきた。

「大方相手が学生なら警察官の私が手を出せないと踏んだんでしょうけど、お生憎様ね。多分1分もかからないわ。千田すみれ!エスパードラッグの件で話があるから準備しておきなさい」

 こちらがバスティーユで千田すみれを認識してから2時間は経っている。それだけ時間があってこの程度の対策ならいささか拍子抜けだなと聖子は物足りなさを感じた。

 学生が飛びかかってきた。電流を浴びせるわけにはいかない。今の状態ならうっかり殺してしまう危険性があった。ギガントだけで対応する。痛みを感じないのか、倒したそばから何度も聖子に向かってくる。その間にもドアからは次々と滝のように生気を失った人間が沸いて出てきた。

 何人規模で操っているのだろうか。せいぜい数十人程度だと思っていた聖子にはこの人数は予想外だった。100人規模なら栗山でも不可能な技術である。そもそもダイナで人を操るのが珍しいし難しい。これがすみれ本人のダイナかはさておきエスパードラッグとは別に厄介な案件だった。

 数がどんどん増えてくる。力加減が難しい。続けていればいずれ聖子の体力も限界が来るだろう。数の暴力には敵わないのか。聖子にとっても絶体絶命だった。




「行け!行け!囲め!よし捕まえたあ」

 ここはT工大の一角、使われていない空きホールである。取り壊し予定の立ち入り禁止エリアだがご丁寧に電子ロックがかかっている。それをいとも簡単に解除しこのホールを使っている女が1人いた。彼女が千田すみれである。自分のノートパソコンで大学のシステムをハッキングし、大学内の監視カメラの映像を見ながらワールドカップの日本代表を応援するかのようにはしゃいでいた。

 自分を追っていた女刑事が無様に蹂躙される様がそこには映っていた。

 肩まで伸びた髪をポニーテールで束ね、鮮やかなピンク色のメッシュをあしらう。黒のダボっとしたパーカーに太いパンツ、女性にしては骨太なスニーカーを履きこなし首には高音質のヘッドフォンを掛けた今どきのパンクな若者といった姿だった。

 すみれは退屈していた。生まれた時から彼女は天才だった。特に勉学において困ったことはなく何故周りができないのか本気で分からなかった。見下していたわけではない。むしろ自分の方がおかしいのではとすみれは考えていた。

 中学生の頃、他人の頭を覗いてみたいと思ったとき、ダイナが発現したのである。

 しかし発現したダイナは人の頭を見るものではなく、人を操るものだった。この時すみれはエスパーにダイナに強烈な関心を抱いたのである。

 なぜ自分の望んだダイナは与えられないのか、努力ではどうにもならないのだろうか?すみれは自分のダイナを研究しつくした。実験を重ねる日々、そんな中で自分のダイナにいくつかの条件があることを知った。休日のショッピングモールのほぼ全ての人間を操ったこともある。

 だが人の頭を見ることは叶わなかった。それでもすみれはダイナが覚醒してからの人生が楽しくてしょうがなかった。

 犯罪に悪用しようなどと思ったわけではない。ただ共有したかっただけなのかもしれない。そんな気持ちでできたのがエスパードラッグである。3分ほどの映像を見るだけでダイナが発現する。効力はピンキリだし発現しても使いこなせるかはその人次第である。

 もともとダイナが覚醒していない人を無理矢理目覚めさせるのだ。脳への負荷は計り知れない。

 まだまだ完成といえる代物ではないが、サンプルが欲しかった。それを闇ルートで流すと怖いぐらいに売れる。

 それがテロに使われ、警察に目を付けられこうして対処する羽目になってしまった。捕まるのは嫌だ。実験ができなくなるのはすみれにとってどんな拷問よりも辛いことだった。

「これであたしも立派なテロリストだな」

 ぼそりとつぶやく。もう後戻りはできない。

「殺さなくてもよかったかな」

「安心しなさい。死んでないから」

 心臓がのどに通った感触がした。声のする方を見ると、映像で見たはずの女がホールの教壇に立っていた。

 すみれは思わず逃げようとする。

 そんなすみれの無意味な行動も聖子の顔面パンチ1発で戦意喪失となった。小学校以来の鼻血を吹き出す。

「途中までは惜しかったわよ。私もあんな人数操れると思ってなかったから」

「どうして無傷なんですか!あたしが操った人たちは?」

「さあ?最初の乱闘以外は特に何もしてないわ。私はただ逃げただけ。あなたのダイナってエスパーは操れないんじゃないかしら?私が屋上から飛び降りるだけで簡単に逃げれたわよ」

 すみれの顔が悲痛にゆがむ。

「逃げる?そんな映像無かったじゃない。逃げながらハッキングでもしたって言うの?」

「その通りよ。偽の映像をかましたわ。後は発信元をたどればここにたどり着くのは簡単。灯台下暗しだったわ」

「ありえない!あたしがハッキングを許してなおかつそれに気づかないなんて」

「上には上がいるってことよ。まああなたもいい腕してたけど。分かったらおとなしくしてもらえるかしら。これ以上きれいな顔を汚したくないでしょ」

 丁寧な口調に対して人の顔面を涼しい顔でグーで殴れる気質。できる女を演じているような聖子の話し方がすみれには不気味に思えた。

 すみれは思考を切り替える。舐めていたわけではないが、相手は明確に自分よりも格上である。

「あたし肉弾戦は苦手なんだよ。壊滅的。でもまだ捕まりたくないなあ。研究したいことがいっぱいある」

「あら、だったら私の知り合いと話が合うと思うわ。私の下につくのも悪くないんじゃない?24時間いつでも研究し放題。ただし私の命令は絶対だけど」

「いや~どうだろ?あなたの下なら楽しそうだけど1人が向いてるんでお断りします」

「さっきから時間を稼いでいるの?あなたに選択肢なんてないわ。抵抗するっていう認識でいいかしら?」

 すみれにはまだ勝算があった。勝てる勝算ではないが、逃げる勝算だ。

「あなたの相棒の若い刑事いたよねえ?うぶそうな子。彼とは別行動をとってたけど大丈夫なのかな?」

 聖子の表情は変わらなかった。表情からは何も読み取れない。ただし立ち姿から怒気をはらんでいる気がした。こうして相対するだけですみれは失禁しそうになるのを必死でこらえていた。

「怒らないでよ。別にあたしだって知らないから。ただそろそろこっちに来るってだけの話」

 すみれがそう言うと同時にホールの壁が破壊された。聖子にも避けることができず反対の壁まで吹っ飛んでいった。

 聖子を殴ったのは目が虚ろになった壮太だった。さらに全身を合金で覆っている。この体の壮太に傷を入れるのは戦車でも難しい。

「お仕事ご苦労様!狭山壮太刑事!今からあなたの仕事はあの怪物ビリビリイカれ女から私を守ることです。それでは後は2人でごゆっくり」

 聖子の考えは外れていた。すみれはエスパーでも操れないわけではない。1人が限界である。正確に言えば1人を操れるかどうかだった。波長なのだろうか?操れないエスパーもいた。

 だが壮太は過去のエスパーの中でもダントツで容易に支配下に置くことができた。なぜかは分からない。直属の上司に不満でもあるのだろうか。

「ちょっと待てエエエエエ!!!」

 突然の咆哮にすみれは思わずびくつく。

「千田すみれ。あなたの奥の手見事だわ。でもね残念ながら壮太じゃ時間稼ぎにならないのよ」

 すみれは無視して逃げた。どうでもいい。狭山刑事は相当な実力者だ。それは監視カメラの映像を見たすみれが理解していた。芝崎聖子がどれほどの実力者でも時間稼ぎにはなってくれる。

 勝てるとは思っていないが敵の話をダラダラ聞くよりかはさっさと逃げるべきである。

 そんなすみれの考えがいかに浅はかだったかとわずか10秒後に思い知らされる。

 ホールを抜け、わずかに伸びる廊下を走り角を曲がってエントランスに出ようとしたところですでに聖子はいたのだ。壮太の首根っこをつかんで静かに座していた。

 聖子はすみれにを見るとやっと来たかと言わんばかりに電流を飛ばした。

 手足の1本も動かせない。舌の先まで麻痺したようだった。

「話は最後まで聞きなさいよ。私が壮太を四課に呼んだ理由は2つ。1つはもちろん強いこと。あんたらみたいなの相手するには強さは第1条件ね。もう1つは私の能力との相性ね」

(相性?)

 それを考える余裕は今のすみれにはなかった。電流の痺れがすみれの脳にも多大な影響を与えている。

「壮太の操る金属はね、全て伝導性がすこぶるいいのよ。だから私がちょっと電流を流すだけで再起不能になる。いい?つまり私に逆立ちしたって勝てないから。これが第2条件」

 要は奴隷が欲しいだけでは?とすみれは要約した。

「あなたもいい腕してるわ。帰ったらいろんな話を聞かせてちょうだい」

 対抗などせずこいつに気づかれた時点でさっさと逃げればよかったと、回転しない頭ですみれは結論付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ