恐怖と支配の境界線
「ふむ、埃被った書物が散乱していますね。」
神代は先程、日記を手にした階の落ちていた書物を漁っていた。
僕の推測でしかないけど、今いるここは雲より高い塔の半分にも行ってない。
最上階に結界を張る本体があると考えても、まだ遠いのでこの塔にボスがいるのであればまだ先だろう。
気を抜くことは出来ないがまだ落ち着いて上がっても問題なさそうだ。
「この階の書物には先程の日記以上に私たちが欲する物は無いようですね。」
神代は僕と瀬の背中を叩いて、上の階へと上がる。
「うーん、階段登りはいつ終わるんだろうなぁ……流石に足が痛くなるぜ。」
「そうだな、多分、半分も行ってないだろうからまだ先だな。最上階まで一気に進むなら半分ぐらいで一旦休んだ方がいいだろうな。」
「そうですね、私も足がきつくなってきました。」
ここから先は未知の階層だ。
気を引き締めて行かないとな。
「IKSOのボスの面を早くこの目で見てぶん殴ってやりてぇな。」
瀬がボソッと呟く。
まぁこの事件の元凶は奴らで、この島の元凶も奴らの中に数人いるだろうからな。
「この島を抜けたらぶん殴って伏して謝罪させてやろう。」
「はっはっは!髭生やしたじじいみたいなお偉いさんが頭を床につけて謝ってる姿は想像するだけで面白いなっ!」
瀬と僕はまだ見た事もない組織の上層部が泣いて謝る姿を勝手に想像して笑っていた。
談笑しながらじゃないとこの長い階段はとてもじゃないが耐えられないからな。
「二人ともッ!何か来ます、下の階に降りて構えましょう。」
神代が刀を抜いて僕らと共に一個下の階に下がった。
そこは無数の西洋人形が並ぶ、真っ赤な部屋で床に所々、西洋人形の部位パーツが転がっていた。
はっきり言って死ぬほど、不気味だ。
「なんだこりゃあ?!海外のホラー映画でありそうだな。急にこの人形たちが笑ったり動いたりして襲ってくるのが定番だ。」
「おいおい、フラグ立ててんじゃねぇよ。間違いなく襲ってくるに決まってんだろ。」
「皆、たとえ人形でもここは未知の塔、人形を注意しながら降りてくる敵を倒そう。」
「「了解ッ!」」
全員が意気込んだ途端、降りてきたアシガは人の形をした四足歩行で皮膚は爛れており、目や鼻といったパーツもおかしな位置にある。
不気味極まりない化け物だった。
極めつけは、
「きぇ……あそぼッ、あそぼッ。ワタシとあそぼッ」
拙い日本語を幼女に似た声で喋っている所が最高に気持ち悪い。
「すぅ……神代、瀬、後ろに下がってくれるか?」
気持ち悪くてまともに応戦する気も失せた。
というか、元々こうするつもりだったし。
瀬と神代は後ろに下がって僕は四足歩行のアシガに手を伸ばした。
「消えろ、アンチライトニング」
四足歩行のアシガの後ろにタンスサイズの球体が出現し、容赦なくアシガを吸い込もうとする。
「あそぼっ!!あそぼっ!!いやぁ、いやぁあ!!いたいよぉ、いたいッ!!いだぃッ!!!」
拙いが確かな日本語で幼い女の子の声で、痛みを訴えてくる。
精神攻撃の一種か、聞いててまるで俺が悪いみたいな言い方は止してくれ。
「とっとと吸い込まれろッ!!」
「いだぁいッ!!いだぁいよぉ!ままぁ……!ま、まぁ……」
四足歩行のアシガは床に爪を刺して踏ん張っていたが、爪が剥がれて容赦ない吸引力に吸い込まれ、やがて閉じた球体がアシガだけを攫って何事も無かったかのように空間が元に戻った。
よく思えばアシガは俺ら、クロス持ちが研究され改造された成れの果てだ。
彼らは言ってしまえば、俺らと変わらない人間で俺らと変わらない感情も持っている。
さっきの訴えは人であった生前の辛さを思い返させてしまったのだろうか。
ならば、申し訳ないことをしたかもしれない。
まぁ、もう謝っても内空間に入った彼女を引き戻してやることなんて出来ないけどな。
「ははっ……蒼夜のクロスは相変わらずやべぇな。」
「そうですね、私のクロスは戦闘向きですが彼のクロスがあれば私は不要に思えてきました。」
「ははっ、そんな事ないよ。もしかしたらこのクロスを無効化してくる奴もいるかもしれないから……ッ!」
僕が微笑んだ直後、僕の頬を一本のナイフが掠めた。
「っあ……誰だ?」
ナイフを飛ばしたのは西洋人形ではなく、吸い込まれたアシガの奥に立っていたロングコートを羽織った男だった。
「ッ!!…伏せてッ!!」
神代が言った刹那、前にも見た光景。
──空間を断絶する未来が神代には見えた。──
「うぉッ?!……っぶねぇ!!」
その未来は現実となり、蒼夜たちが元々立っていた場所の腰あたりから空間に亀裂が走った。
目に見えるほどの大きな、そして確かな亀裂が。
「くそっ……おまえ、ほんとうにやっかい。」
「ふっ、私のクロスがある限りはあなたに勝ち目はありませんよ。」
神代が蒼夜たちの前に立ち、刀を構える。
その後方で、蒼夜はひっそりと指を鳴らした。
「あばよ、アンチライトニング」
先程と同じくロングコートを羽織った男の後ろに球体が現れた。
「むだ、きりさけ。」
男が一言発すると同時に空間は揺れ、黒い球体はまるでピンポン玉のように軽く柔らかく切り裂かれてしまった。
「ふぅ……やるぅ、狭いし球体は斬るし……鬱陶しいな。」
俺はひっそりと呟いた。
「二人とも、バックアップお願いしますッ!!」
神代がそう言うと同時に床を蹴った。
一瞬で間合いを詰めた彼女はロングコート男の懐に刀を振り上げた。
「きりさ、ッ?!」
男が指を鳴らそうとした直後、神代の一撃とは反対から黒い球体がロングコート男の腕を引っ張って懐に隙を作った。
「くッ!!あたらない!!」
男は引っ張られた方向に吸い込まれながら、姿を消した。
「吸い込んだかッ?!」
「いいや、違う。」
「俺らの後ろに転移した。」
俺は転移先に黒い球体を作り出し、球体が腕に埋まる形で内側から破壊した。
「ぐッ?!ぐぁああああ?!!!」
たとえ小さなブラックホールでも吸い込む力は変わらない。
肉や骨、血液を容赦なく剥ぎ吸い取っていくその球体は奴にとっては地獄そのもの。
たった数秒の間で奴の両腕はもげ、血を溢れ出しながら俺らを睨んだ。
「なんなんだ、おまえら。おれらをじゃまするなっ!」
「お前らこそ、俺らを食おうとするなよ。」
「じゃくにくきょうしょく、よわいやつはつよいやつにくわれるんだよ。」
「なら、お前は俺らに喰われて死ぬしかないよなぁ?」
「ふっ……おれをくえるものならくってみろ。」
「じゃあな。」
奴の下卑た笑いに嫌気が差した俺はたった一瞬だけ、この部屋の天井まで届く大きさの球体を作った。
その球体は奴を容赦なく吸い込んで閉じた。
──吸い込む度に思う、奴らも元は人間で容姿や行動は化け物じみてても闇堕ちした俺らと同じくクロス持ちであったと考えるとまるで人を殺している感覚になる。人を殺すことに躊躇いがなくなってしまう自分が怖い。──
その思いがふつふつと俺の中で湧き出る。
はっきり言って邪魔なのに。
▷▶︎▷
「はぁ……はぁ………あ、あの、今の状況はどんな感じなんですか?」
私は震えた足を支えながら必死に言った。
この答えを聞いたらすぐに帰ろう。
すぐに帰って水を飲んで落ち着こう。
「だ、大丈夫ですか?!え、ええっと既に捜索隊は出して島の付近までは近付けてはいますが結界のせいで入れない状況です。」
「っ!!もうすぐそばまで行けてるんですねっ?!」
「は、はい。その通りです。」
「じゃ、じゃあ結界さえ解ければ助かるんですよねッ?!」
「そ、そうですよ。安心してください。」
「はぁ……はぁぁぁ。」
私は震えた足で床に倒れて震えながら息を吐く。
「だ、大丈夫ですか?!落ち着いてください、震えてますよ?!」
「あ、いえ。大丈夫です。」
私は鞄を担いで立ち上がろうとした直後、足を躓いて落とした鞄から血に塗れた拳銃が転がり出てきた。
私は支配された恐怖の思うがままに振り回された。
今回は少し短めな理由は、はい……僕が土曜日という存在を忘れて日曜日ついさっきに書いて急いだからです。
本当に申し訳ありません。
次回からしっかりと長文で書くのでお許しください。本当に申し訳ありません




