誘引と信頼の境界線
まじで1年ぶりの更新です。今回は短いですが、ここからまた少しずつそして長ーく更新していきます。
本当に大変しばらくお待たせ致しました。
「……ッ!!」
私は咄嗟に血塗れた拳銃を拾い、鞄の中に隠した。
勿論、その拳銃自体は目の前の警察官に見られた。
だからといって、ここで撃ち殺したら罪を重ねて縄に掛かるだけだ。
なら、ここは大人しく───
───逃げて逃げて、瀬に会えるその日まで逃げ切るしかない。
「何故、あなたは血の付着した拳銃を所持しているのですか?」
目の前の警察官は当然、私を警戒してポケットのガンホルダーに手を添えながら近寄ってくる。
あの拳銃を引き抜くのと、私が走って逃げるの、果たしてどちらが速いのか。
そんなの考えなくとも分かる。
「人を殺めたんですね。そこを動かないで、あなたを拘束します。」
「それは出来ない相談ですね……。私はまだ息子に会えていない、いつ死ぬかも分からない地で必死に戦っている瀬に会えもしないで、帰ってきた時に母親がいないなんて、自分の帰り場がないなんて……親として、してはいけない。あの地から生還して、おかえりと抱きしめてあげる為にも……。」
「ここでお縄につくことは出来ません。」
「逃げるつもりですか?」
「えぇ。あなたの拳銃と私の足、どちらが速いか勝負しませんか?」
「勝負するまでもなく、あなたは動けなくなりますよ?」
「普通ならそうでしょう。ですが、ひとつ問います。」
私は鞄を肩に掛けて立ち上がり、ヒールを脱いでスカートを破る。
逃げるのにスカートなんて邪魔でしかない。
「IKSOの元構成員は異能を持たないと思っているのですか? 私たちは、異能持ちの彼らが反逆の意を示した時、鎮圧できるように各々で力を付けています。」
「私も、もちろん異能を持っています。あの時はなぜか使えなかった。」
私が異能持ちであることを明かした途端、警察官は拳銃に添えていた手から握りしめて流れるように構えの動作へと移った。
警察官が拳銃を構えたと同時に後方で自動ドアが開く音がし、それと同時に私は後方へ直線上に半透明の白い線を可能な限り遠くまで放った。
「異能持ち、銃器所持の殺人容疑の者発見! 全員、構えッ!!」
目の前の警察官が大きな声でそう伝えると周りにいた警察官全員がもれなく引き抜いた拳銃を私の方へと向けた。
「それじゃあね、次会う時はあなた達もIKSOが悪であり、私たちが何をしたいのか理解してくれてることを願ってるわ。」
「──ノルエイティス。──」
彼女がそう口に発したと同時に彼女の身がホログラフィックのように段々と薄れていき、やがて光の粒子となった彼女は一瞬で直線上の遥か遠くへと去って行った。
「総員、逃走した容疑者一名を確保に向かえ!!」
『了解ッ!!』
逃げ出した彼女を追うように警官達は署から出ていった。
▶▷▶
「この階段、本当にしんどいな。」
「えぇ、流石に戦っては登って戦っては登ってを続けていると足もパンパンになってきます。」
「そうだね、この辺りで一旦休憩しようか。」
僕たちが着いた階層は広く草と土の匂い、それと色とりどりの花が咲いた、心を落ち着かせるにはもってこいの場所だった。
僕たちはその部屋のど真ん中で寂しく伸びている樹木に背中を預けて座り込む、まさか人を食う怪物が蔓延る恐ろしい島の塔の中にこんな空間があったとは。
だが、ここがどれだけ落ち着く空間であってもベルリアの内側であることには変わりない、決して警戒心は解かずに、でも少しだけ体を休ませておこう。
ここは花が咲き、涼しい風が吹き、太陽のような明るい光が全体を照らしている。
それだけに留まらず、見えはしないが鳥の鳴き声や蜂などの虫の羽音まで聴こえる。
目には見えない……でも音が聴こえるだけでいい。
今まで緊張感のある常に張り詰めた空気の中で活動していたから、このような緩い空気が広がる空間に入ってしまうと見えなくても自分の心が癒されていく。
心だけじゃない、意識までもがこの空間に支配されていくような感じがする。
現にここに来てから、瀬も神代も周囲への警戒心など全くなく完全に疲れきった体を休ませている。
隙だらけという事だ………待てよ?
僕はいつの間に警戒心を解いた?
おかしい、自分の意思とは反対に休むだけでなく警戒心まで解いている。
ここで今襲われても対処できない、それ程までに油断している。
ここはベルリアだぞ?
何があってもおかしくない場所、それなのにこんなにも堂々と背中を見せる程に馬鹿な奴らを選んだつもりはないし、自分自身もそうなったつもりはない。
「二人とも、精神干渉の類だ。戦闘態勢に入れ。」
僕は立ち上がり、花々が咲いている周囲を見渡す、よく考えてみればこの空間は敵と戦うには少々やりにくい場所だ。
花々が咲いているが、それも人と並ぶほどの高さまで成長した花々ばかりだ。
その中に隠れながら移動する賢い敵がいたとしたら、そこから飛び道具を使って攻撃してくる敵がいたとしたら……やられたな。
まんまと嵌められた、だが全てを吸い込めば終わりではある。
「僕が周囲の花を抉って吸い込む、精神干渉してきた奴に注意しながら階段を目指そう。」
「えぇ……?」「何を仰っているのですか?」
「なッ……戦闘だ! 早く立て、二人とも!!」
「戦闘? 何言ってんだよ、こんな所にアシガが出るわけねぇだろ。」
「そうですよ、ここは体を休めて上の階に登るために備えましょう。」
「俺らはもうそのアシガの手の中にいるんだよ! お前ら、精神操作されてるぞ!! 起きろ、このままじゃ奴らに喰われるか嬲られるだけだ!!」
「焦んなよ〜……まだアシガなんて見えてもねぇだろ? いねぇ奴がどうやって精神操作するんだよ。」
もう完全に精神を掴まれている、こういう奴らにはどれだけ正論を叩きつけても起きやしない。
こういう時は人間の本能を叩き出して起こさせるのがベストだ。
「お前ら、言うこと聞けよ。死にたいのか?」
俺は右手にゴルフボールサイズのブラックホールを生み出し、それを二人に見せつける。
俺の戦闘法をよく知っている二人からすれば、それは抗いようのない理不尽な攻撃で、そして最も残酷な攻撃でもある。
何も無い空間をただ彷徨い続けることになる恐怖の権化ともいえる能力。
それを見た二人は、先程までもボケた雰囲気とは一変して冷や汗を流しながら言った。
「お、おい? なんか変だぞ?」
「大丈夫ですか? やはり、透空くんも休んだ方が……。」
「休めたら休んでるよッ!! 立て、死ぬぞッ!!」
俺は怒号を飛ばして、二人の真上、遥か高い日が空間を照らすど真ん中に大きめのブラックホールを作り出す。
「早く構えろッ!! ここから出るには俺たちが生き残ってこの島を囲う結界をぶち壊さなきゃなんねぇだよ!!」
「生き残って島を囲う結界を……ッ!!」
「何を惚けていたのでしょうか、誰かにもう休んでいいんだよと囁かれていたようです。」
二人は俺の怒りに応えてくれたのか、表情が変わって真剣になる。
「ここのどこかに俺たちの精神に干渉してくる厄介なアシガがいる、恐らくそいつが俺たちを誘って他のアシガが俺たちを捕食するつもりだったんだろう。」
「なるほど……つまり、ここには少なくとも二体のアシガがいるということですね。」
神代は腰の刀に手を添えて居合切りの構えをとる。
いつ何処から攻撃されてもいいように反撃の構えだろう。
「あぁ、そして俺が思うにその捕食者となるアシガはここに来た人間が一番油断して背中を預ける場所にいると思うんだ。」
「つまり、それって……」
全員が自分たちの背後を振り返る。
「あぁ、とんでもないサイズのアシガのお出ましだ。」
そこにはニタァと笑い、涎を垂らした樹木の形をしたアシガが大きく血がこびりついた汚い口を開けて、俺たちの方へと倒れてきた。
「全員、後ろに下がれ! そして背後の花にも潜んでいる可能性のあるアシガに警戒しろ!!」
樹木が倒れてくるより先に俺たちは後ろへとステップで距離を取った。
「さて……これは少しとんでもないサイズのブラックホールが必要だな?」
「いえ、このような狭い空間では巨大なブラックホールは我が身を滅ぼしかねないでしょう……ここは私が行きます。背中を任せてもよろしいですか、透空くん、紗燈くん。」
俺たちはニッと笑って三人で拳を合わせた。
「任せとけ。」「背中は安心して戦いな。」
「感謝します、では……お待たせしてしまいしまたね。」
「よけるな、おれのえさ! おれのにく! おんなもいる! くわれろ、おれははらがへっている!!」
「キェエエエエエ!!!」
数多のアシガが神代の背後から現れ、それと同時に樹木も醜い顔で神代たちを見る。
その顔は人の恐怖心を煽ってもおかしくない、トラウマを植え付けてもおかしくない、そこから逃げたくなるようなそんな恐ろしい顔をしているのだが、目の前に佇む彼女は決して背中を見せて逃げることはなく、腰に携える一本の刀に手をかけて告げた。
「残念ですが、私の眼がある限りは貴方が私たちを喰らうことは叶いません。ましてや、貴方の企みも攻撃も全て知れたこと。貴方は潔く、この地でここの樹木として人々に癒しを与えておくだけの存在に留めておくべきでしたね。
─神代流抜刀術。免許皆伝。神代 梨恵──
──参ります。」
刹那、樹木と彼女の間合いに一筋の煌めく銀色の光が走った。
「代鉄、初の太刀。」




