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追撃と追走

 風を切るようにしてキアラは駆け抜ける。森を抜けて今はなだらかな平地を進む。左には戦場、右には森を見ながら、ひたすらアングリアの陣営を目指して馬を駆る。

 そしてまだ距離はあるが正面にはアングリアの五つの陣地が見えてきた。更にその向こうがわの小高い丘にはアングリアの本陣が見える。あそこまで行くことが、キアラの条件だった。

 だが油断は出来ない。すぐ後ろには追手が迫っている。

「小娘! その旗をよこしやがれ」

 キアラも巧みに馬を操るがもう届くところまで来ていた。相手は十人に満たないけれど、身軽な軽騎兵は走ることに掛けては右に出るものはいないのだ。

 敵の先頭を走る騎兵ががピストルを撃つ音が聞こえた。目の前のキアラに当たらないとわかっていても苛立ちからつい引き金を引いてしまったのだろう。

「悪魔が付いてやがる!」悪態をつく声がキアラの後ろから聞こえた。

 キアラはそれが可笑しくて、つい後ろを振り向いてしまった。

 相手は真っ赤な顔になって右手を振りかぶっていた。

 ビュンという音と共に、今度は銃弾でなくピストルそのものが飛んできた。

 すんでの所でキアラは避けた。顔の横をピストルが掠めて地面に落ちた。

「なんでも避けるんじゃないの!」

 キアラは冷や汗をかいて誰も居ない空に叫んだ。

 このやぶれかぶれの一撃がキアラを窮地に追い込んだ。キアラは飛んできたピストルを避ける為に、大きく左右に馬体動かしたが、その結果、馬は一時的だが、速度を落としてしまった。

 敵も隙を見逃さない。表情が分かるくらいの距離まで縮めてきた。

「もう、しつこいわよ!」

「軽騎兵は簡単に女を諦めないんだよ!」飄々とした顔はまるで街角で女性を誘っているかのようだ。

「減らず口ね」

 キアラも強がりと認めていた。敵はもうすぐ追いつく。軽騎兵は白刃を抜くとキアラの右横に出ようと拍車をかけた。

 キアラは気が動転した。手荒なのを承知で馬首を巡らせた。

 そして急な方向転換は彼女の乗る馬を驚かせた。

 一時的に馬の足は止まり、キアラの背後を寒気が伝った。馬は大きくバランスを崩し首を激しくふる。

 しまった!

 その一瞬、追手と彼女の距離はゼロになった。

 敵はその隙を見逃さない。追い抜き様、殺気を帯びた刃がキアラをめがけて飛び込んでくる。

「きゃあああ!」

 サーベルが服をかすめる。キアラは悲鳴を上げた。実際に傷は負っていなかったが、切りつけられた事実にショックを受けた。

 追手はキアラに更に迫った。

 全ては一瞬の出来事だった。

 返す刀で更に切りつけてきた刃が、キアラの身体を逸れて馬の引き締まった後ろ足を撫でた。大きな傷口がぱっくりと開き、彼女の馬に致命傷を与えた。

 キアラの馬は前足で宙をけるように立ち上がり、これでもか叫ぶとキアラを巻き込んで倒れた。

 キアラは天地がひっくり返ったような感覚に襲われた。右足に激しい痛みを感じる。そして動かない。

 馬の下敷きになっていると気がついた時には手遅れだ。先ほどの騎兵は倒れこんだ馬を確認し、引き返すと同時にキアラに斬りつけてくる。

 だがその騎兵は一発の銃声と共に倒れた。キアラは信じられない様子で柔性のする方向を見た。

 赤い槍騎兵。その背にくっついている小男が銃を構えていた。その銃口からは白煙が出ていた。

「無事なようだな!」

 懐かしい声がキアラの耳に届いた。

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