記憶の便り
私と彼だけになった。彼の世界。
少しでも他の人や事を覚えて居ないかと、彼が話してくれた事を思い出し伝えてみる。
色んな思い出も覚えて居てくれてる様でとても嬉しかった。
彼の仕事場には島猫が居て彼がとても可愛がっていた事を話してみた。
彼は目の色が変わり、名前まで思い出した。
そう。
私の次に思い出したもの。
彼はみるみる内に自分の言葉でその猫の話を夢中でしてくれた。
その猫は、私と別れてから彼の前に現れ仕事で、悩み辛いときはいつも側に居てくれたそうだ。
私も彼から聞く話や送られて来ていた写真や動画で、その猫をよく知っている。
その猫は生きる為に彼になついたのかもしれないが彼の中には沢山の気持ちを与えてくれていたのだ。
縄張り争いに負けて怪我をしても強く生き、子供を2度も産んだ立派な母猫である。
彼はその猫の両親も兄弟もきちんと覚えていた。
小さな頃から可愛がりいつも気にかけていたのである。
大人になり、一度目の出産で産まれた一匹の子猫は大人にはなれなかった。
二度目の出産では、三匹の子猫に恵まれ、父親の姿はいつも無かったが兄弟は大切だと毎日教えていたのだろうと思う。
三匹はやがて大人になり、彼の前から可愛がっていた母猫は姿を消した。
三匹の性別は不明だが、その内の二匹は自分によく似た子供に恵まれ大切に育てていた。
そこには必ず兄弟が居て兄弟の子供も慈しむ姿があった。
一緒に餌を取ったり、雨宿りをしたり、母猫が教えた場所で静かに寛ぎ野良猫にしては愛情深い関係性を築いていた。
彼も私も驚いたのが、出産した二匹の内の子供の一匹がみるみる内に、母猫に似た事だった。
毛並みや顔つき、体つきも、まるで生まれ変わりの様に似ていたのだ。
彼は仕事の休憩時間には何処に居るのかを探しては沢山、写真を取って送ってくれていた。
採石場のある島は岩肌がとてつもなく高く聳え立ち、半面、野良猫を育む緑豊かな自然も溢れていた。
彼は久しぶりに会いに行きたいとキラキラした瞳で話してくれた。
私は怪我が治ったら仕事じゃなくて、男鹿島に行ってみようねと伝えた。
怪我事態は手術する事も骨折する事もなく、軽い縫合や消毒、湿布等で回復を見せていた。
記憶以外の機能的な障害も見当たらず、何よりであったのだ。




