9話 攻防ミノタウロス
「ヴォォォォオ……!」
再び雄叫びを上げたかと同時に、ミノタウロスがカティアに向かって行く。
まるで闘牛の様な突進に、僕は一瞬たじろぐ。
ミノタウロスは手に持ったハルバード、槍の先に斧が付いた様な武器を振り被ると、勢い良くカティアに振り下ろす。
ガィィィィィィン!!
振り下ろされたハルバードはカティアの持つミョルニルによって防がれる。
大きなハンマーであるミョルニルの打撃部を、盾替わりにしてミノタウロスの攻撃を防ぐ。
腰が引けていた僕と違って、カティアはしっかりとした面持ちでミノタウロスの攻撃を受け止める。
そのままハンマーを振り被り、ミノタウロスへと振り下ろすカティア。
ズガァァァアッ!
その大きなハンマーが振り下ろされ、地面に衝撃が響き渡る。
「体が大きい割に、以外と素早いのね」
その振り下ろしたハンマーを、間一髪で躱したミノタウロス。
そのミノタウロスを、目で追いながら呟くカティア。
「ヴルルゥゥゥゥ……」
カティアのハンマーの衝撃を感じ、身構えながら警戒して距離を置くミノタウロス。
ミョルニル、その大きなハンマーは見た感じ近接武器だ。
その破壊力は凄まじい、近づいて真っ向から戦うのは危険だと感じたのだろう。
魔物としての本能なのか、戦略的に考えて動いているのかまでは分からないが、ただの猪突猛進では無さそうだ。
「そっちから来ないなら……」
「こちらから行かせてもらう、わ」
カティアはそう言って、巨大ハンマーであるミョルニルを振り被ったままミノタウロスへと向かって行く。
ズガァァァアン!
ズゴォォオォォォォン!
カティアは勢い良くハンマーを振り下ろし、その度に激しい衝撃が地面を震わせる。
流石に手に持ったハルバードでは、巨大ハンマーの攻撃を受ける事は出来ず、ミノタウロスはカティア攻撃を躱し続けている。
ミノタウロスの方も、カティアの攻撃の合間をぬってハルバードで攻撃を仕掛ける。
ギイィィィィィィィン!
ガイィィィン!
カティアも上手に巨大ハンマーを扱い、ミノタウロスの攻撃を防ぐ。
「……凄い」
その攻防を見守る僕は、凄まじい衝撃と目にも止まらぬ攻防に、そう呟いていた。
見る限りだと、戦況はカティアの方が優勢である。
巨大なハンマーを振り回しながらも、ミノタウロスの攻撃を上手に躱し、隙あらば攻撃へと転じる。
一方のミノタウロスは、攻撃はするものの一撃喰らったら即終了になりそうなカティアの鈍器攻撃を、頑張って躱している。
このまま行けば、カティアが勝つだろう……なんて思っていた矢先。
「……くっ」
急にミノタウロスから距離を置き、膝をつくカティア。
「ヴオォォォォォォォォ!!」
その一瞬の隙を見逃さず、雄叫びを上げ大技の構えを取るミノタウロス。
「グオォォォォォォォォ!!」
ミノタウロスの全身から炎が噴き出したかと思うと、手に持ったハルバードへと炎が収束する。
そのまま燃え盛るハルバードを振り被り、カティアに向かって突進する。
「……っ!!」
膝をつき体勢を崩していたカティアは、急いで防御体勢を取る。
ズガァァァァァァアン!!
ミノタウロスの大技がカティアに向かって振り下ろされると同時に、凄まじい衝撃と爆風が辺りを包む。
「カティア!!」
そう叫ぶと同時に、吹き飛ばされたカティアが僕の横を通り、壁にぶつかる。
「……ぐふっ」
ミノタウロスの激しい攻撃を受け、なんとか防御したようだが壁に吹き飛ばされたカティア。
詳しい表情までは分からないが、苦悶の声が聞こえてくる。
「大丈夫!?」
すぐさま僕はカティアに駆け寄り、そう声をかける。
カティアは巨大ハンマーであるミョルニルを杖代わりに、なんとか立っている感じだ。
「……どうしたの?急に」
優勢に戦いを進めていた筈のカティアが、急に劣勢になったことに僕はそう問いかけた。
するとカティアは返事する。
「グゥゥゥゥ……」
「!?」
返事!?というか、言葉ではなくお腹が返事したようだ。
「……大丈夫」
「ちょっと小腹が、空いただけ」
そう言いながら、再び背筋を伸ばして立ち上がるカティア。
まぁ、あれだけの動きをしているのだ、燃料(お腹)の減りも尋常では無いのだろう。
ちょっぴり微笑ましくて、僕は頬が緩む。
「……なによ」
カティアはちょっと照れくさいのか、僕に向かってそう言う。
とは言え戦闘中だ、緩んだ頬を再び引き締めてカティアの様子を確認する。
何だか大きな怪我も無い様なので、僕は一安心する。
するとカティアが僕に向かってこう言う。
「……原因がわかったわ」
何かに気付いた様な口調で、僕を見つめながらカティアはそう言う。
「原因?」
僕は状況がよくわからず、気の抜けた返答をする。
「あんな牛に苦戦している理由、よ」
そんな僕にカティアは説明を始める。
「……ほぅ」
あれだけ善戦しておきながら、苦戦なんだ……と思いつつもカティアの話を聞くことにする。
「……」
「……デザートよ」
カティアは真剣な眼差しで、僕に向かってそう呟く。
「……ん?」
ちょっと理解が追いついていないので、カティアに向かって首を傾げる僕。
するとカティアは……
「アレを食べて無かったからよ」
ちょっと照れていたカティアが、そう言って何かを要求して来る。
何だろう?と考えながらカティアを見ていると、ジェスチャーの様な動きをし始める。
なになに?手のひらに乗るぐらいの大きさで?
形状は……スーパーボールの様な?
柔らかいのにジューシーで?
と、ほぼほぼ答えを言っている気はするが、あえて答えを聞く僕。
「それは?」
「……」
「ぐみ!」
ちょっと恥ずかしそうに叫ぶカティア。
うん、可愛らしい。
「デザートにアレを食べて無かったのが、原因なのよ!!」
なにやら自信満々に解説していたが、グミを食べたかった。
要するに、そう言う事らしい。
「よっぽど好きなんだね」
そう言ってカティアに微笑みかける僕。
「……っ」
僕の笑顔にドキッとしたのか、鼓動が速くなるカティア。
ぁ、僕の鼓動も?
「……はい」
「どうぞ」
僕はグミを数個取り出し、カティアに差し出す。
「ぁ……ありがとう」
照れくさそうにグミを受け取るカティア。
なんだか昔もこうやって、女の子にグミを渡して喜んで一緒に食べていた記憶が蘇ってくる。
モグモグ
モグモグ
ゴクリ
「……ぅまっ」
「……」
「さぁ、ここからが本番よ!!」
手に持ったグミを口に放り込み、堪能したカティア。
先程迄とは違い、生気が満ち溢れているようだ。
いや、魔力なのか竜気なのか……とにかく嬉しそうで良かった。




