8話 燃料補給
グウゥゥゥゥ……
「……おなか」
「すいた」
先程迄のクールドヤ顔は見る影もなく、しょんぼりしたカティアがそこに居た。
先程まで軽々と持っていた筈の巨大ハンマーを杖代わりにして、倒れる体を精一杯支えている。
「だ、大丈夫?カティア」
急いで駆け寄ると巨大ハンマーは光の粒子となって霧散し、カティアは僕に向かって倒れ込む。
間一髪倒れそうなカティアを支え、その場に座る。
グウゥゥゥゥ……
再びカティアのお腹の音が響き渡る。
「……なるほど」
最初にカティアに会った時、ミノタウロス部屋の手前だったか。
カティアはそこに倒れ込んでいた。
つまりここまで来て、燃料切れで倒れていた……という訳だったのだ。
あの時と同じ状況になっている、そういう訳だと僕は瞬時に理解した。
「そうだな……ひとまず」
ハンマーの無いカティアは思いのほか軽く、僕はそのカティアをお姫様抱っこの様に抱きかかえたまま、一つ前の部屋へと戻った。
そこでカティアを横に寝かした後、背負っていたリュックを下ろし、準備を始める僕。
レジャーシートを敷き、リュックから取り出した箱を並べる。
水筒を取り出し、中の液体を容器に注ぐ。
程よい温かさの液体は、湯気と共に食欲を唆る香りを漂わせていた。
クン……クン
その香りが鼻腔をくすぐる。
「はっ!」
先程迄、空腹でグロッキーだったカティアが目を見開く。
「こ、この香りは!?」
見開くと同時に僕の側に一瞬で近づき、すぐさま問いかける。
「ぁあ、コンソメスープだよ」
インスタントだが、その香りと味は一級品である。
いやむしろインスタントと侮ってはならない、間違いなく美味しい。
「はい、どうぞ」
僕はそう言って、カティアにスープを手渡す。
「ぁ、ありがとう」
ガッついていた自分がちょっと恥ずかしかったのか、照れくさそうに受け取るカティア。
スス……
カティアは、程よい温かさのコンソメスープを啜る。
「ぅぅう……」
「うまぁぁぁぁ……」
頬に手を当てながら恍惚な表情をして身体をくねらせている。
うん、思った通りの反応で僕も嬉しい。
「これもあるよ」
「さ、どうぞ」
僕はそう言って、タッパーの蓋を開ける。
そこには、出かける前に手早く作ったサンドイッチが入っていた。
「ぉお……っ」
「コホン」
「……いただきます」
再びガッつきそうだった自分を制止し、クールな反応を心がけるカティア。
「ふふっ」
そんなカティアが微笑ましくて、自然と笑みが溢れる僕。
パクリ
カティアがサンドイッチを手に取り、それを口に入れる。
僕の予想が正しければ、再びアレが来るだろう。
「ぅぅう……」
「うまぁぁぁぁ……」
頬に手を当てながら恍惚な表情をして身体をくねらせている。
予想していたとは言え、やっぱり美味しく食べて貰えるのは嬉しいものだ。
そのまま食事休憩となり、燃料補給をする僕とカティア。
「この間、この辺りで倒れていたのはこう言う事だったんだね」
僕もサンドイッチを食べながら、カティアに話を振る。
「……あれは」
「一休みしていた、だけ」
なんか目を背けながら言い訳を始めるカティア。
バレバレなのだが、そこはあえて追求せずにもう一つサンドイッチを勧める僕。
「ぁ、ありがとう」
素直にそれを受け取り、モグモグと小動物みたいに食べ勧めるカティア。
冷蔵庫にあったハムとチーズを挟んで、マヨネーズと塩胡椒で味を整えただけの簡素なサンドイッチだが、こんなに喜んでくれるとは。
「ふぅ……」
「ミョルニルは便利で強いけど、燃費が悪いのよね」
ひとしきり食べ終え、残りのスープを飲んでいる辺りでカティアが口を開く。
「ミョルニル?」
その単語に反応し、僕はカティアに問いかける。
「戦鎚……ハンマーの事よ」
僕の問いに対して、カティアが説明してくれる。
ミョルニル……聞いたことはある。
ファンタジーで稀によく出る武器で、鈍器最強と言われるハンマーである。
柄が短くて凄く重い、だったかな。
昔読んだ異世界とか、ファンタジー知識を総動員する。
確かに全体のバランスを見た限りハンマー部分が大きく、柄が短い気がする。
通常のハンマーの大きさだった場合、片手持ちの鈍器になりそうだ。
ただ、カティアの身長が140センチ無いぐらいなのに、ハンマーはそれを超える大きさだった。
「あの大きさだと……凄く重そう、だね」
その為、小さな女の子に巨大ハンマーというアンバランスなのに、バランスが良いという状態になっている。
「普通の人間では神器が無いと、とても扱えない代物よ」
「だから一族の中でも素で扱えるのは、一部の者だけ」
顔には出さない様にしているものの、ちょっと自慢げに話している。
「それを扱えるなんて、カティアは凄いね」
僕は素直に感心しながらサンドイッチを口に頬張る。
「ぇと、その……」
「……ありがとう」
真っ直ぐに褒められて、カティアは照れくさそうに返答する。
そんな話をしながら食事休憩と燃料補給をした僕とカティア。
「「ごちそうさまでした」」
カティアも小腹が膨れて満足したようで、元気が戻った様だ。
まぁ、半目でクールだから分かりにくいけどね。
「さぁ、行くわよ」
僕が手早く片付け終えるとカティアはそう言って、銀色の長髪をなびかせ、立ち上がる。
小柄な背格好で、黒色系でミントグリーンの差し色のゴスロリな服が映える。
再び通路を歩くカティアの後ろをついて行く。
燃料補給出来て満足したのか、尻尾がピョコピョコ動く。
ご機嫌なのが伺えて微笑ましい。
そんなカティアを見ていたら、大きい広間が見えて来る。
「ここが、ミノタウロスの居る部屋ね」
外の通路から部屋の中を伺うと、見覚えのあるミノタウロスが見える。
「……」
トラウマ……とかでは無いが、なんとなく胸に手を当てる僕。
なんせあのミノタウロスに胸を貫かれたのだ、感触は今でも覚えてる。
「……大丈夫?」
「ここで待ってた方が……」
そんな僕を見て心配したのか、カティアが声をかける。
「……」
「いや、大丈夫」
僕はカティアの話を遮る様に、そう返す。
いや、こんなちっぽけな人間がカティアの力になるとは思って無いが、それでもただ待っているだけなのは嫌だった。
なによりこんな可愛らしくて小さな女の子一人に任せて、隠れていたらカッコ悪い。
「……わかったわ」
「でも、無茶は禁止よ」
「特に肉壁、はね」
最初のミノタウロス戦でカティアを守った秘密兵器、肉壁は早速使用禁止になってしまった。
いや、使うつもりも無いけれどね。
「うん」
僕はカティアにそう返事し、カティアと共に部屋へと足を踏み入れる。
部屋に入ると、今まで居た通路がスッ……と一瞬にして塞がれる。
いわゆるボス部屋、逃げ出すことは出来ない……そう言う事なのだろう。
「ヴォォォォォォォォオォォォォ!」
僕達に気付いたミノタウロスがこちらを向き、雄叫びを上げる。
その後、手に持ったハルバードを持ち直して臨戦態勢に入る。
「……いくわ」
「離れてて」
カティアはそう言って右手を突き出し、手を広げる。
その右手が輝いたかと思うと、手の先にある光が武器を形成していく。
シュゴォォォォ……
光が収束していき、形成されたモノをカティアは掴む。
それは……ミョルニル。
昔の言葉で『粉砕するモノ』を意味する戦鎚だ。
カティアはそれを掴み、ミノタウロスと同様に臨戦態勢に入った。




