7話 第一層
パァァァアァァァ……
光が収まるとレンガの様な壁で造られた教室位の大きさの部屋の中央に僕達は立っていた。
見覚えのある部屋だ、奥に続く通路がある所も同じである。
周囲を確認する……ミノタウロスみたいなモンスターは居ないことを確認するして僕は少し安堵する。
「……いくわよ」
カティアはそう言うと歩き出し、僕達は通路へと向かって歩を進めた。
通路に入って暫くすると、曲がり角がある。
曲がりながら、ふと違和感に気付く。
「……何だか」
「違う?」
最初に来た時の記憶と違い、曲がり角の方向が逆な気がする。
そんなに記憶力は良くないが、確か逆方向……だった筈、である。
「そうね」
僕の疑問に返答する様にカティアが口を開く。
「どういう……事?」
なにやら知ってそうな素振りをするカティアに、僕はそう問いかける。
「この宝物庫はね」
「入る度に構造が変わると聞いてるわ」
カティアは曲がり角の壁に手を当てながら、僕に解説をしてくれる。
自動生成ダンジョンみたいなものか、いわゆるローグライクダンジョン、と言うやつであろう。
大きめの部屋を通路で繋ぐ、それらを自動生成することで毎回違ったダンジョンが味わえるという、昔ながらのゲームで聞いたことのあるシステムだ。
「侵入者対策でもあり、挑む者への試練でもある」
「マッピングなどで内部構造を把握しようとしても、挑戦の度にダンジョン形状が変わる」
「それがこの宝物庫ダンジョン」
カティアが丁寧に解説をしてくれて、大変ありがたい。
「と言っても、ここは浅層だから」
「一本道みたいね」
そう言いながら僕を先導して歩いていくカティア。
曲がり角を曲がって進んでいくと、部屋が見えて来る。
僕が最初に入った時は、何も無い部屋が何個か続いていて、最後の部屋でミノタウロスに会った訳だが。
「……何か、居る?」
通路から部屋の内部を覗くと、なにやら蠢くモノが見えて来る。
「スライムね」
カティアがその蠢くモノを見ながら解説してくれる。
スライム、いわゆる異世界やらファンタジーやらで雑魚敵と呼ばれるモンスターである。
とは言ったものの、最近では色々な分野で評価を上げていて、ただの雑魚敵と呼ぶにはおこがましい状態となっている。
実は最強でした……とか能力を吸収とか、トンデモ能力を持っていたりしたら大変面倒なモンスター最有力である。
なんてビビっているのが顔に出ていたのか、カティアが僕に告げる。
「あれぐらい、どうってことないわ」
「さっさと片付けるわよ」
そう言って僕の心配を一蹴するカティア。
「でも、どうやって?」
「武器とか……持ってくるの忘れちゃったよ」
ご飯とか服とかに気を取られて、武器まで気が回らなかった。
流石に素手じゃ戦えないし、どうしよう……と考えていると、
「任せなさい」
カティアはそう言って右手を前に出す。
その右手が輝いたかと思うと、手の先にある光が何かを形成していく。
シュゴォォォォ……
光が収束していき、形成されたモノをカティアは掴む。
それは……ハンマー?
それもかなり大きい。
柄の長さだけでカティアの身長と同じ位あり、ハンマーの打撃部分はドラム缶ほど?いやそれ以上か。
「コレで叩き潰すだけ」
「簡単なモノよ」
柄の底面を地面に突き立て、巨大なハンマーを右手に持ちながら僕に向かって物騒な事を言うカティア。
目の前の少女……小学生高学年か、小さな中学生かと思える程の小柄な少女と、身の丈を超える巨大なハンマーのアンバランスさに、僕は目を奪われる。
「いくわ」
「ユウ、貴方は下がってなさい」
カティアは僕にそう言うと、部屋の中に居るスライム達に向かって行った。
カティアはハンマーを振り被り飛び上がると、スライムに向かって勢い良く振り下ろす。
ズシャァァァアッ!
その巨大なハンマーの衝撃は凄まじく、見ていた僕にも地面の振動が伝わって来た。
ブォン……
カティアはハンマーを勢い良く振り、ハンマーの先にへばりつく潰れたスライムを吹き飛ばす。
「スライムはね、コアを潰せば倒せるの」
「簡単でしょう」
僕の方を見ながら、丁寧に説明してくれるカティア。
「……コアというか、なんというか」
「全部潰してる、気がするけど……」
そんなカティアに僕は軽いツッコミを入れる。
「細いことは気にしなくていいわ」
「倒した事に違いは無い、でしょう」
半目とクール喋りで分かりづらいが、何だか嬉しそうな感じが見て取れる。
「まだまだいくわよ」
カティアはそう言って、残りのスライムに向かって行く。
ズシャァァァア!
ドシャァァァ!
まるで引っ込まないモグラ叩きだ。
部屋の中に居たスライムを次々と潰して行くカティア。
ドガァァァア!
ズガァァァアン!
あっと言う間に部屋に居たスライムは全て潰されてしまいカティアが、どうだと言わんばかりにこちらを見つめる。
「こんなものね」
クールぶっているが、何だか嬉しそうな感じが見て取れるので僕は、
「凄いね、カティア」
「見事なものだよ」
そんなカティアを僕は目一杯褒め称える。
「た、大した事……ないわよ」
「所詮スライムだし」
謙遜しているものの、褒められて凄く嬉しそうな小動物みたいな反応をするカティア。
何だか微笑ましい。
まぁ、正直な所僕は何もしていない訳だし、カティアを労って褒めてあげることぐらいしか出来ない。
「それにしても」
「僕が最初このダンジョンに来た時は、スライムなんて居なかったけど」
「これも自動生成だから、かな?」
僕が最初にこの宝物庫ダンジョンに迷い込んだ時、部屋は沢山あったものの、何も無く誰も居なかった。
最後の部屋とおぼしきミノタウロス部屋の前で、カティアを見つけるまでは……。
「それは多分……」
「私が全部倒した後、だからかしらね」
カティアは巨大なハンマーを肩にかけ、僕の方に歩きながら説明をしてくれる。
「なるほど」
「カティアが全部掃除してくれていた」
「そういう事なのか」
自分の顎に手を当てながら理解する僕。
それなら、何も無い部屋が続いていた事も納得出来る。
「ありがとう、カティア」
そう言ってカティアに対し、満面の笑みでお礼を言う僕。
「ど……どういたしまして」
真っ直ぐに褒められて照れくさそうにするカティア。
そんなカティアを見てドキッとする。
いや、この動悸はカティアのもの?
なんて思っていると、カティアは次の部屋へ続く通路を見ながら僕に語りかける。
「さぁ、次に行くわよ」
そう言って先導して進むカティア。
通路を進んで次の部屋に行くと、そこにもスライムが何匹か居た。
そのスライム達も、カティアが軽々と扱う巨大ハンマーで次々と潰されていった。
それが数部屋続いた後、今までより大きな部屋が見えて来る。
「あの部屋が、ミノタウロスの居る部屋の様ね」
その言葉を聞き、僕の心に一気に緊張感が走る。
前回この部屋に入った時は、カティアを庇う為とはいえ、僕はミノタウロスに身体を貫かれている。
恐怖?なのかわからない。
いや、普通に考えたら怖いだろう、身体を貫かれた相手に再び対峙するのだ。
そんな緊張感が僕の中に走ったその瞬間、響き渡る音があった……
グウゥゥゥゥ……
「へ?」
一気に緊張感が無くなるような轟音。
その音の発生源に目を向ける。
……カティアだ。
「……おなか」
「すいた」
先程までのクールドヤ顔は見る影もなく、しょんぼりしたカティアがそこに居た。




