6話 攻略準備
僕がかつて暮らした実家。
それは山間にある僅かな平地に広がる、閑散とした田舎に建つ一軒の家。
家と呼ぶには少々大きく、屋敷と言った方が正しいのかもしれない。
大学進学時に街に出たが、その後就職したものの会社が潰れてしまって僕が生まれ育った家、そこに再び戻って来たのだ。
その家にあった蔵。
広めの庭の端にあり、和風建築でしっかりした造りの蔵である。
小さい頃この蔵でよく遊んでいた……様な記憶があり、何だか懐かしい気持ちで蔵に入ったら、変な扉があってそこに入ると女の子が寝てて僕は牛に襲われ……今に至る、という訳である。
その女の子、カトゥラリア・ドラグネッティ……だったか。
カティアというツノと尻尾の生えた女の子、魔族と竜のお姫様?と言っていた。
カティア曰く、僕の実家の蔵がダンジョンになっていて、それを攻略する必要がある……との事。
蔵と共に僕の実家も異世界な感じになってる、とも言っていた。
流石にこのままにしておく訳にもいかないし、女の子一人でダンジョン攻略させるのもいただけない。
てなことで、僕も一緒にダンジョン攻略する流れになった、というのがここまでのあらましだ。
「ひとまず、準備してからでもいいかな?」
僕は先導するカティアにそう話しかける。
尻尾がピョコピョコして可愛らしい。
「そうね、準備も大事だわ」
足を止め綺麗な銀髪の長髪を靡かせながら振り返り、カティアはそう言った。
ひとまず家に入り、準備を始める。
「どれくらいかかりそう?」
「ダンジョン攻略って」
僕はカティアにそう問いかける。
「……」
「最深部に辿り着くのが最終目標、だけれども」
「そんな簡単にはいかない」
クールな感じで解説をし始めるカティア。
「先ずは第一層を攻略する」
「そこからね」
半目でクールに説明されると、何だか説得力があって納得してしまう。
なによりそのカティアの出で立ち、ツノの生えた銀色の長髪に黒色ベースでミントグリーンの差し色のゴスロリ服から生えた尻尾。
そんなファンタジー要素満載で話されると、納得せざるを得ない。
「あれ、一層ってあの……ミノタウロスが居た所?」
「あれは退治したんじゃ」
蔵からダンジョンに飛ばされ、カティアに出会い、ミノタウロスと対峙した。
実際に倒した所は見てないが、僕が目覚めた時には居なくなっていたので倒したものだと思っていたが、違うのかな?なんて思っていると、
「あの時は、貴方の治癒を優先したから」
「第一層攻略せずに退避したのよ」
「だからまだ第一層は未攻略扱いなの」
カティアが僕を見ながら少し心配そうに説明してくれる。
カティアのその言葉に僕は胸に手を当てる。
ドキドキしてる。
恋とか照れとか動揺では無く、脈打つ自身の鼓動を感じる。
第一層のミノタウロス、その攻撃からカティアを守る際に僕はミノタウロスのハルバードによって胸を貫かれた。
当然心臓も串刺しだ……った筈なのだが、カティアが三つある自分の心臓、いや魔力核?だったかを僕に使って助けてくれたのだ。
なので、僕は生きて鼓動を感じていられる。
「……なんか、ごめん」
なんとなくカティアにそう呟く僕。
「ユウ、その事はもういいわ」
「……私が勝手にした様なものだし」
「だから謝らないで」
ちょっと強めに言うカティアだが、僕の引け目を代償という形で相殺しようと言うのだろう。
カティアなりに気を使ってくれた……そう感じた僕は、
「なんか……ありがとう」
カティアの話に合わせてそう返事する。
「ひとまず……第一層攻略なら」
「そんなにかからない筈だから」
カティアはちょっと重くなった空気を変えるように、そう話を続けた。
「そっか」
「じゃあ手早く準備するよ」
僕もそれに乗り、支度を始める。
とは言ったものの、ダンジョン攻略なんて初めての経験なので、何をどう準備したものやら……と僕は頭を悩ませる。
ひとしきり考えを巡らせた後、僕は台所へ向かう。
とりあえず食料、というかお弁当を準備するか……と思い冷蔵庫の中を確認する。
カティアに会ってからずっとお腹ペコペコなイメージがあったので、食べ物は持っていった方が良いだろうと判断しての事だ。
そんなに時間もかけていられないので、冷蔵庫にあった食パンとハム、チーズで手早くサンドイッチを作る。
大学時代から一人暮らしだったので、こういうパパっとした食事はお手の物だ。
飲食系のバイトも結構していたので、僕は手際よく仕上げる。
他には……と見渡すと目についたのは、グミ。
カティアは美味しそうに食べて喜んでいたな……と思い、それも手に取る。
グミのパッケージを見ながらふと考える。
小さい頃……幼稚園だか小学生低学年だったか、昔もこうやって誰かにグミをあげていた事を……思い出す。
あれは……お姉ちゃん?
当時の僕から見て、親戚か近所の子か年上の女の子……その子と一緒にグミを食べていた様な記憶が思い出される。
確かその子も銀髪な女の子だったが、もうずいぶん昔の話だ。
20年は経っているので、今はしっかりしたお姉さんになっているだろう。
そんな幼少期の事を思い出していると、居間の方から声がする。
「準備の方はどう、ユウ?」
カティアだ、僕の様子を見に来たのだろう。
そうカティアみたいな感じの銀髪で、その子はツインテール?だったかな……と思い出していた。
まぁ、流石にツノも生えていなければ尻尾も無い、普通の女の子……近所のお姉ちゃん?だったかな。
おぼろげな記憶が頭をよぎりながら、僕は準備を進めた。
食料やらなんやら準備した後、身支度を整える。
靴はしっかりとした物に履き替えて、ハイキングか山登りか、と言った風情の格好に着替える。
ダンジョン……正直よくわからない場所だが、登山やキャンプ的な準備をしておけば間違いないだろう、多分……。
リュックを背負いキャンプ風か山登りなのか、着替えも準備万端で蔵の前に立つ。
一方隣にいるカティアは銀色の長髪をなびかせて、服装は黒色ベースにミントグリーンの差し色のゴスロリなのかドレスなのか、僕とは真逆の感じである。
「カティアは……その服で大丈夫?」
僕は一応、カティアに確認してみる。
「大丈夫よ」
ヒラヒラしたフリルと銀色の長い髪をなびかせながら、カティアはそう返事する。
ダンジョン攻略には不釣り合いな服だとは思うが、
「可愛いから大丈夫か」
僕はカティアをチラ見しながらそう呟く。
胸がドキッとする。
これから挑むダンジョンへの恐怖か、はたまた程よい緊張感なのかはよく分からないが、僕は意を決して蔵の扉を開く。
ギイィィィィィィ……
重い扉が開いていき、蔵の中のひんやりとした空気を感じる。
僕達は再び薄暗い蔵の中に足を踏み入れた。
小窓から差し込む薄明かりと、開いた扉から入る光で蔵の中がうっすらと見える。
蔵の内部を見渡している内に目が慣れていき、蔵の内部が分かるようになってくる。
割と広めの蔵だがそんなに物は多くなく、いくつかの化粧箱と小さめの箱が並んでいるだけの、何もない蔵。
そこに不釣り合いな洋風の扉が見える。
その扉は上部が丸く、装飾もバロック方式?
洋風建築にはあまり詳しくないが、明らかにこの和風の蔵には似つかわしくない扉である。
前回、この扉を開いて訳もわからす宝物庫ダンジョンとやらに飛ばされた。
でも今回は自分の意思でそこに向かう。
僕はその扉に手をかけて、カティアに向かって呟く。
「……いくよ、カティア」
カティアは静かに頷き、それを確認した僕は宝物庫ダンジョンへの扉をゆっくりと開いた。
開くと同時に、扉から漏れ出る眩しい光に包まれる。
パァァァアァァァ……
その光に包まれていき、僕達は宝物庫ダンジョンへと挑むのであった。




