4話 魔竜姫
「そっか、良かった」
そう言って僕はカティアに微笑む。
しかし、聞けば聞くほど疑問が湧いて来る。
質問攻めにならない様、一息つく為に僕はコップに入ったジュースを一口飲んで心を落ち着かせる。
カティアも同じ様にジュースを一口、ほんのり微笑んでいて美味しかったのであろう。
「魔力コア……」
「普通の人間では無い、って事……かな?」
先程出てきたワードをおさらいする様に、僕はカティアに問いかける。
まぁ頭に生えているツノや、お尻の辺りから生えている尻尾、それを見ただけでもカティアは普通の人間では無いのがわかる。
「そうね」
「私は……魔族と王竜の姫だから」
「普通では無いのは確かね」
そう言った後、カティアは再び飲み物を口にする。
「ぇ、と」
「出戻りゴネるさ……」
カティアの言った言葉がイマイチ聞き取れず、というか理解が追いついて無く、誤変換する僕。
「……誰が出戻り、よ」
そう言ってそのジト目で僕を睨みつける。
なんかカティアを怒らせてしまった様で、ジト目がさらに半目になっている。
「ぁ、いやゴメン」
「そういう意味では無くて……」
言い訳をしながら、なんとかしようと頭を巡らせる僕。
「魔竜族の末裔よ」
「その姫なの、私は」
僕に上手いこと伝わっていなかったのを察してくれた様で、噛み砕いて言い直してくれる。
とてもありがたい。
「へぇ〜」
なんだか現実離れした突拍子も無い話なんだけど、さっきまで居たダンジョンやらミノタウロスのせいで信じざるを得ない。
何より胸を貫かれた筈の僕が、まだ生きている事が何よりの証明になってしまっている。
そう思いながら再びカティアの方を見る。
魔竜族……魔族と竜族両方の力を持つ一族?なのだろう、多分。
なるほど良く見ると頭のツノは魔族っぽいし、尻尾は竜の様だ。
そう思いながらカティアのツノと尻尾をマジマジと見つめる。
僕に見つめられてちょっぴり照れているのか、頬を赤らめるカティア。
その仕草にドキッとして、鼓動が高鳴る。
……というか、カティアが照れているのに連動している?
なんて疑問が僕の中にふと浮かぶ。
可愛らしい小学生?みたいな子と鼓動が連動してるなんて、一歩間違えば事案モノだ。
僕はそう思って黙っておくことにした。
「……」
僕は鼓動を落ち着かせるために飲み物を一口飲んだ後、口を開く。
「ぁ、えと」
「あのダンジョンみたいになってた蔵」
「どうなってるんだろうね?」
カティアの事以外にも疑問や質問は沢山ある。
別の話題を振って、場の空気を変えようと試みる僕。
「ぁあ、あれね」
「あれについては私も予想外だったわ」
なにやらカティアは事情を知っていそうなので、もう少し深掘りしてみる。
「どういう事?」
僕がそう問いかけると、
「あのダンジョン」
「いえ、宝物庫と言った方が正しいわね」
「あの宝物庫は代々私達一族が守ってきたもので」
相変わらずクールに話してくれて、僕はフムフムとカティアの話に相槌を打つ。
「そこには魔族と竜族の秘宝が眠っていると言われているわ」
流暢に説明を続けるカティア。
自慢の宝物庫なのか、時折尻尾がピョコピョコ動いて自慢げなのが伝わってきて可愛らしい。
「ぁ〜、竜が秘宝を集める習性があるって話は聞いた事があるかな」
カティアがそこまで説明した所で僕は口を開いた。
「その宝物庫でちょっとした問題が起きてね」
「その対処をしようとしていた所を」
「ユウ……貴方に助けられた、って訳よ」
そこまで言って、カティアは再び飲み物を一口飲む。
「ぁ、いや助けられたのは僕の方……」
再びこの会話の流れになりそうな流れで、カティアが僕をジト目で睨みつける。
お互いに助け合ったって事で折り合いをつけようという事なのだろう。
だけど僕はカティアの心臓を一つ譲り受けた形になってしまっているので、命の重みというかバランスというか、釣り合いが合わない気もする。
なんて考えを察しているのか、ジト目のままのカティア。
ここはそういう事にしておいて、と言われてる気がしたので僕はそれ以上言わない事にした。
「でもなんで蔵に宝物庫が?」
話の流れを変えるために、再度カティアに疑問をぶつける。
「ぁ〜」
「まぁ」
「蔵って宝物庫みたいなものだから?かな」
カティアは、目を逸らしながらそう答える。
なんだかはぐらかされた様な気もするが、詳しい仕組みも分からない以上、追求しない事にした。
「ともかく」
「あの蔵、宝物庫をどうにかしないと」
「大変な事になるわ」
話の本題をそっちに持っていきたいのだろう、カティアは少し強めに話した。
「大変なことって?」
真面目な顔で話すカティアにそう問い返す。
「……」
「大厄災よ」
少し間を置いた後、カティアは僕の方を見つめてそう答えた。
見つめられてちょっぴりドキッとした。
それは、僕の動悸なのかカティアの鼓動なのか。
それよりもスタンピードととやらだ。
「ぁ〜、聞いたことは……あるよ」
「沢山の魔物とかが暴走する、やつだっけ」
「それがあの蔵で起きる?」
異世界モノでよくある魔物の暴走と言うやつだろう、そういう系の話は良く読んでいたので、僕はすぐに理解出来た。
「……そうね」
「宝物庫のダンジョンコア、それの影響を受けて内部の魔素や厄災が溢れ出す」
「直近の課題はそれね」
僕の理解が早く、さらなる説明を続けるカティア。
「ぇ、でも」
「現実世界に魔物とかが出てくる?」
「流石にそれは……」
確かに異世界モノを読んではいたが、現実側にそんな事が起きたら大変な事になるし、何より現実味が……無い。
なんて思いながらカティアの方を見ると、ツノに尻尾。
それに僕の胸の傷。
ゴメンなさい、目の前の現実なんですね……と一人で慌てて一人で解決する。
「ユウ、外を見て」
そう言ってカティアは立ち上がる。
「……」
「まじか」
僕は縁側に立ち、空を見上げると紫色の空が広がっていた。
確か時間は昼過ぎ位の筈だから、夕焼けでは無い。
かと言って曇りなどの曇天でもないのに、空は禍々しい色で覆われて居た。
「この家が侵食され始めて居る、という感じかしらね」
並んで立つと、小柄で可愛らしい感じが一層と引き立つ。
そんなカティアが空を見上げながら、静かに呟いた。
「ぇ、大丈夫なの?」
「村のみんなとか」
山間にある僅かな平地に広がる閑散とした田舎。
僕が生まれ育った村だ。
その村の空が禍々しい紫色になっている、僕は心配になりカティアに問いかける。
「見た所、この家がダンジョン化しつつあるだけだから」
「大丈夫ね」
なんか大丈夫と言いながら、凄まじい事を言い放ってる。
「え!この家」
「ダンジョンになるの?」
「……それはちょっと困る、なぁ」
「ご近所さんが来た時に、迷惑になりそうだし……」
焦って困りすぎて、なんだか変なことを口走り始める僕。
「安心して、ユウ」
「今の所、この家が異界に足を突っ込んでいるだけだから」
「外からは入って来れない筈よ」
またもや冷静な顔でトンデモない事を言い始めるカティア。
「実家が異世界化しても困るんだけど……」
クールに説明するカティアに、僕は静かにツッコミを入れる。




