14話 お茶のおかわり
「「ブフォっ……」」
飲みかけのお茶が危うく吹き出る所だった……のを間一髪で僕とカティアは踏みとどまる。
「婚約の儀って……つまり」
「婚約者?」
「カティアの?」
見た所10歳か12歳か、小学生か中学生に見えるカティア。
そんな女の子の婚約者?
いや、姫様って言ってたし皇族ならば、小さい頃から婚約者が居ても普通なのか?
そう思いながらカティアを見ると、婚約者というキーワードを聞いて照れているのか、頬を赤らめながら顔を背けていた。
「いや、でも」
「まだ早いというか、なんというか……」
なんてカティアを見つめながら思いを巡らせていると、そんな僕の心を読んだのか。
「ふ〜ん、お子様みたいな私に……」
「って言いたげね」
先程まで照れていたはずのカティアが、少々不満気にクールジト目で僕を睨む。
「ぁ、いや」
「そんな事は言って無いよ」
そう言いながらカティアを見る。
うん、可愛らしいお子様……では無いお姫様。
見た目は幼いが、長命な種族らしいし……実年齢は違うのかな?
なんて考えていると、ペンタが、
「姫様は、上位種の魔王竜の種じゃから」
「齢はワシの倍、100は超えておるか?」
ペンタがとんでもない事を暴露する。
「へ?100歳?」
おばあちゃん……?と言いそうになったが、こんな可愛らしい女の子にそんな事、問題発言になりそうなので、慌てて飲み込む。
「誰がおばあちゃん……よ?」
「それに、私はまだ80程度!」
「だからお姉さん、だからね……」
なんか笑ってるようで、目が怖いカティア。
いつの間にかピコピコミョルニルハンマーを取り出していて、それをチラつかせる。
そうだった、カティアは僕が小さい頃に出会ったお姉さん。
そう、お姉さんだ。
見た目は小さくて可愛らしいが、年上のお姉さんなのだ。
「……けど」
「私達の種族は数千年は生きるから」
「私はまだお子様、かもね」
そう言いながら、少し哀しげな顔をするカティア。
そうか、僕達人間とは時間の感じ方が少し違うだけなのか。
長い人生の時間としてみたら、まだまだ子供である。
カティアはそう言いっているのだろう。
そんなカティアを見て僕はこう言う。
「そんな事ないよ、カティア」
「ね、お姉さん」
そう、幼く小さいお子様に見えるカティアも、僕からしてみたら昔一緒に遊んだお姉さんだから。
「……」
「ありがとう」
僕の言葉に、カティアが照れながら横目で微笑み返す。
「それにしても血を与える事が」
「婚約の儀って……」
先程ペンタが言っていた、婚約の件について考えていると……
「長命である竜種と、そうでは無い種族とでは同じ時間を生きれぬ……ので」
「血を与える事でその差を埋め、共に生きていこう」
「という意味合いがある、と聞いておるぞ」
僕の悩ましげな顔を見て解説してくれるペンタ、さすが食事番以外は有能な執事と言われるだけはある。
「まぁ、でも血を与えて貰った訳ではなかろう?」
「ユウ殿」
そう言いながら、僕の方を見るペンタ。
「……ぁ、うん」
「そうだね……」
血を与えて貰った……訳では無い。
それ以上の事なのだから、嘘は言っていないはず?
僕はそう心の中で言い訳しながらペンタに返答する。
「ぉっと、ワシとしたことが」
「お茶が切れておる」
「淹れてきますので、少々お待ちを」
するとペンタは、お茶の無くなった急須を持って、ペタペタと台所の方へ歩いて行った。
「……」
「ぇと、あれは」
「そういう?」
ペンタが居なくなり、カティアと二人きりになった所で、僕は静かに口を開く。
カティアの方を見ると、うつむきながら顔を赤らめている……のが見て取れる。
あれ……とは、もちろん僕の胸にある、カティアのものだった心臓についての件である。
血を与える事で婚約の儀になるというのなら、それ以上のモノをカティアから貰っている事になる。
婚約以上……?なんて考えながら、カティアを横目で見ていると、
「そう言う話があるって事は、聞いた事あったけれど」
「あの時は、そんな事考えてる余裕は無かったし……」
「まったく考えなかった、と言えば嘘になるけれど……」
「いや、ほら、緊急事態だったから!!」
カティアが動揺しながら話しているのが見て取れる。
僕を助けようとしてくれた結果、こういう状況になってしまったのだろう。
なんだか、カティアに悪い事しちゃったかな?なんて思った僕は、
「コレは婚約……にはならない、よね」
「そういう大事な事は……」
「ちゃんとカティアが好きな人と、するべきだし……」
「なんか、ゴメン」
こんな僕みたいな男が、カティアの将来の重荷になっちゃダメだよね……なんて、カッコ付けるように僕は言った。
「なんで……謝るの、別にユウは悪くないし」
「あのままだと、ユウ死んじゃってたのよ!!」
「そんなの絶対にダメ!!」
クールキャラな筈のカティアが、僕に向かって叫ぶ。
「それに、私も助けて貰った訳だし……」
「あと……別に、その……」
「ユウとなら……いいって、いうか……」
カティアが僕に向かって叫んだ後、モゴモゴし始める。
「……ん?なんて?」
声が小さくて上手く聞き取れなかったので、カティアにそう聞き直す。
「だから……その、ユウとなら……」
カティアが顔を背けながら、小声で言い直そうとした時、
パタパタッ、バタン!!
「お待たせしましたぞ」
閉まっていた居間の襖が勢い良く開いて、ペンタが戻って来た。
「……」
「どうか、しましたか?」
頬を赤らめているカティアは、それを見られないように顔を背ける。
「カティア、今なんて?」
何か言おうとしていたカティアに、僕はそう問い直す。
「ぁ〜、もう」
「何でもないわ!」
カティアはそう叫んで席を立ち、居間から出ていってしまった。
銀色の長い髪でよく見えなかったが、なんだか耳が赤かった気もするが、気のせい……かな?
「何か、ありましたですか?」
「ユウ殿」
ペンタが急須に入った新しいお茶を頭に乗せながら、僕に聞いてくる。
「あ、いや」
「大丈夫、なんでも……ないよ」
そうペンタに返事する僕。
この胸の心臓の件については、カティアが内緒にしておきたい感じだったので黙っておく事にした。
ペンタが準備してくれた新しいお茶をすすりながら、さっきカティアが何を言おうとしてたのかな?なんて思いを巡らせていると、
「ユウ殿」
「よければ、お教えしましょうかの?」
ペンタが僕にそう言ってくる。
「ん?何を?」
なんの事だろう……と、僕はペンタに聞き返す。
「収納魔法ですじゃ」
「そういった基本的な魔法程度なら、私でも教えられますぞ」
するとペンタは僕にそう返答する。
「ぉお」
「それは助かる!!」
「ぜひ教えて欲しいです」
さっき僕が、使えたら便利だなぁ〜と言っていた、収納魔法の事だ。
魔力持ちなら普通に扱えるとかなんとか言っていたし、使えるのなら使いたい。
「お願いします」
「えと……」
「ペンタ師匠」
ペンタを突然の師匠呼び。
これは教えてくれる人?への当然の敬意だ!
「では、早速始めますかの」
そう言ってペンタ師匠は、居間から続く縁側に出ると庭に飛び降りる。
「はい」
「ペンタ師匠」
そう言って僕もペンタ師匠に次いで、庭へと出る。




