13話 魔力持ち
空を見上げる。
心地よい風と、爽やかな緑の香りに心が安らぐ。
今日もいい天気である。
……昨日は色々な事があった。
ペタペタと歩くペンギンを見ながら、物思いにふける。
「ユウ殿」
「コレは何処に運びましょうかの」
段ボール箱を運ぶペンギン、ペンタが話しかけてくる。
「ぁ〜、それは奥の部屋にお願い」
もはやペンギンが話す事自体は不思議とは思わなくなっていて、普通に返事する僕。
実家に戻って来て間もないので、家の中には引っ越しで運び込んだ未開封の段ボールがいくつか置きっぱなしになっていた。
それをペンタに運んで貰っている、という訳である。
ペンギンの執事……もとい竜?の執事であるペンタゴン(ペンタ)は、魔族と王竜の姫であるカティアと、その王族に仕えているとの事。
それがなぜ、僕の引っ越し荷物の片付けを手伝ってくれているのかと言うと……
昨日のご飯が美味しかったから……らしい。
一宿一飯の恩義?っていうやつなのかな、そのお返しをしたいらしい。
なんて律儀なのだろう、そう思いながらペンタの好意に甘え手伝って貰ってる、という訳だ。
おかげで部屋がスッキリ片付いた。
「ふぁ……ぁ、おはよう?」
そんな事をしていると、別の部屋に寝かせていたカティアが目を覚まして起きてきたようだ。
居間と繋がっている和室の襖が開いて、カティアが顔を出す。
「ぁ、起こしちゃったかな?」
「騒がしくしてゴメンね」
片付けの音で起こしてしまったのかと思い、カティアの方をを見てみると……
寝癖大爆発……?
綺麗な銀色の長い髪が、寝癖で大暴れしてる。
「……ん?」
僕の反応に気付き、側にあった姿見の全身鏡を見るカティア。
「……っ!?」
寝癖大爆発の自分の姿を見て、顔を真っ赤にするカティア。
「ペンタ!」
側を歩いていたペンタを掴み、自分の寝ていた別室へと連れ込むカティア。
ドタン、バタン……
クエェ゙~
謎の効果音と悲鳴が響き渡った後、再びゆっくりと襖が開いてゆく。
「待たせた、わね」
再び現れたカティアは、綺麗な銀髪の長髪を靡かせながら登場した。
あたかも、先程の寝癖大爆発は無かったかのような態度を見せ、キラキラした風貌で僕に語りかける。
まぁ、子供っぽく見えても年頃の女の子だ、寝起きのあんな姿を見られるのは恥ずかしいのだろう。
と、カティアの心中を察して、僕はあえて突っ込まないでおく事にした……のだが。
「いやぁ、今日の寝癖は強敵でしたのぉ」
次いで出てきたペンタが、口を滑らす。
なるほど、執事で側仕えなペンタがカティアの身だしなみを整えていた、という訳なんだね。
「ん?なんの事かな?」
優しい笑顔と口調で、ペンタを睨みつけるカティア。
なんだか目が笑っていない気がする。
「ぁ、いぁ」
「何でもないですぞ!」
そう捨て台詞を放ちながら、ペンタは逃げてゆく。
いやぁ、執事って大変だなぁ……などと優しげな眼差しでペンタを見送る。
そう思いながら再びカティアを見つめる。
綺麗に整えられた銀色の長い髪が靡いている。
「うん、綺麗だね」
自然とそう口が滑っていた。
それを聞いたカティアは顔を真っ赤にして、目を背ける。
「ぁ……あり、がとう」
そう言えば寝起き低血圧とも言っていたし、寝癖大爆発の事は触れないでおこう。
ひとまずカティアが起きてきたので、朝食を準備し皆で頂く。
ひとしきり食べ終え、片付けた辺りでお茶を入れ直し居間のテーブルに座り直す。
テーブルには、カティアと僕、そしてペンタが顔を並べて座っている。
昨日の夜は色々あって頭も回っていなかったし、カティアも疲れて寝てしまっていた。
その為、あまり状況を理解出来て居なかったが、一晩経って徐々に実感が湧いてきた。
そう考えながら僕はお茶をすすり心を落ち着けた後、話始める。
「……それにしても」
「カティアが、あの時のお姉さんだったとは……」
冷静さを装いながらお茶をすすり、カティアの方をチラ見する僕。
当時は並んで座っても僕の方が小さく、女の子を見上げていたのだが……
今現在は僕の方が大きく、カティアを見下ろす形になってしまっている。
「カティア……お姉さん?」
ちょっぴりかしこまって、僕はそう呟く。
「カティアでいいわ」
最初に名前呼びを指定した時と同じ流れになってしまっているので、僕はそのままカティア呼びする事にした。
「当面の目的は」
「宝物庫の最深部を目指す……」
「だよね」
ひとまず話を本題に戻すように、そう言ってカティアを見つめる。
「そうね、第一層を攻略したから」
「あの蔵から今すぐに魔物が出てくる事は無いと思うけれど」
「長い間放っておけば、また溢れ出してくる可能性が高いわ」
カティアはそう言うと、手元のお茶をすする。
まぁ、田舎に戻って来て仕事も決まってなかったし、実家と蔵の異世界化問題を解決しない事には、働きに出るわけにもいかないし。
蔵の宝物庫ダンジョン攻略が最優先課題かなぁ、と僕は頭を回す。
「ちなみに何層まで……あるの?」
「宝物庫って」
念のため僕はカティアに確認をする。
すると……
「さぁ?」
「私にも分からないわ」
サラッとそう言うカティア。
まぁ、ダンジョンと言うくらいだ、それなりの深さは覚悟しておいた方がいいだろう。
その深さによっては、長期でダンジョンに潜る可能性も高いって事になる。
となると当面の課題としては……荷物かなぁ。
小さな女の子に戦いを任せるのはなんだか申し訳ないが、現状戦力として戦えるのはカティア位だ。
そのカティアも燃費の問題があり、ダンジョンに挑むのであれば燃料、というか食料を沢山持って行きたい。
「収納魔法とかが、僕にも使えたら……」
「色々持っていけるのに」
僕が悩ましげな顔をしながら、そうこぼすと、
「魔力持ちならば、普通に使える魔法じゃぞ」
「容量の個人差はあるがの」
「おぬし、魔力持ちじゃろ」
喋るペンギン、ペンタが僕に向かってそう言う。
うん、ペンギンが喋っている事に違和感を感じなくなって来ている僕が恐ろしい。
というか、魔力持ちって……僕に言ってる?
「僕が魔力持ち?」
自分を指差しながら、ペンタに問いかける僕。
「そうじゃ、おぬしから普通に魔力を感じ取れるぞ」
「……ただ」
「宝箱から脱出した時も感じたが」
「……どことなく、姫様の同種の魔力というか」
「似た匂いを感じる……が」
ペンタがなんだか鋭く突っ込んでくる。
「あ〜、ぇと」
「……それはね〜」
ペンタの話にカティアがモゴモゴ返答し始める。
僕の胸の中にある鼓動、その話をカティアは言い淀んでいる様に見える。
その態度を見て、この件は内緒にしておいた方がいいのかな?と察する。
「まさか……」
「姫様の竜の血を飲んだ……とか?」
「だとしたら、大問題ですじぇ!」
ペンタがそう叫び僕の顔を見る。
ペンギンの表情の違いはよくわからないけれど、きっと真剣な顔をしているのだろう。
「飲んだとしたら……そんなに大問題、なの?」
今僕の胸にある心臓は、カティアのものだった。
血を飲むよりも、もっと凄い状態になっている気がするが、ペンタの剣幕からして黙っておいた方がいいだろう。
「そうじゃ、竜の血を浴びて不死身となった勇者の伝説位は知っておろう!!」
「ましてや上位の魔竜種の姫様の血を飲んだとあれば!!」
「大問題ですぞ!!」
「それに……」
どんどん発言がエスカレートしそうな所で、カティアが動く。
ゴスッ
「ぐぉあっ!」
鈍い音と共に、ペンタが悲鳴を上げる。
「ちょっと黙って」
「落ち着きなさい、ペンタ」
そう言うカティアの手には、ピコピコハンマーサイズのミョルニルハンマーが握られていて、それがペンタに直撃していた。
しかもクールなカティアが、目の座ったクール顔でペンタに詰め寄る。
「……は、はい……ですじゃ」
そんなカティアに気圧されて、ペンタの喋りのトーンが一段階下がる。
それにしても竜の血を飲んだら不死身って、確かにそんな伝説は聞いた事ある。
あと、何だっけ……鳥の言葉が分かるとか、他にもエリクサーの原料になるとか色々伝承があった気がする。
僕は、頭の中の異世界知識を総動員する。
「……」
「なるほど」
そこで僕はペンタの方を見ながら、腑に落ちる。
鳥の言葉が分かる、だからペンギンが喋ってることが聞き取れても不思議では無いという事か。
僕は一人で納得した顔をする。
「ぇと、ほら」
「カティアの力に影響されて、魔力に目覚めた?的な」
「そんな感じ?」
その流れで僕はペンタに、それっぽい理由を話す。
当然今思いついた即興の言い訳だが。
「そうなのかじぇ?姫様」
ペンタはカティアにそう言って確認をする。
「……」
「そう、それ」
一瞬間が開いたものの、カティアはすぐ僕の即興言い訳に乗ってくれる。
「そんな事が……?あるのか、じぇ」
ちょっと疑っているペンタに、カティアが追撃を加える。
「それだけ私の魔力の影響が凄い、という事よ」
「それとも、私の魔力が大した事無い、とでも?」
手に持ったピコピコミョルニルハンマーを軽く振りながら、ペンタに詰め寄るカティア。
「ぁ、いや」
「そんな事はないですじゃ」
再び頭を叩かれそうになり、慌てて否定するペンタ。
あのピコピコハンマー、便利だなぁ……などと僕は思いながら眺めていた。
「そんなに竜の血って凄いんだ」
「おいそれと怪我なんかできないね」
「流血でもしたら、周りが不死身だらけになっちゃう」
叩かれそうなペンタがちょっと気の毒になったので、話を僕から振ることにした。
「それは大丈夫よ」
そう言ってピコピコミョルニルハンマーを納めるカティア。
「血を与える側の意思が影響しているから」
「流れた血をただ飲んだり浴びたりしただけじゃ、それほどの効果は得られないはずよ」
なるほど、それなら大丈夫なのかな?とカティアの説明に納得する。
つまり今の僕はカティアの、死んで欲しくなかった……という意思があったから、生きながらえているという事になるのか。
「一安心しましたぞ」
「姫様がユウ殿に、意図的に血を与えたのだとしたら」
「もはや婚約の儀、ですからな」
すると、ペンタがサラッと爆弾発言をする。
「「ブフォっ……」」
飲みかけのお茶が危うく吹き出る所だった……のを間一髪で僕とカティアは踏みとどまる。




