12話 食事番
宝物庫ダンジョンの第一層を攻略して、再び家に戻って来た僕達。
謎の執事ペンギンがついてきたり、カティアが昔遊んでいたお姉さんな女の子だったりと、情報過多になり頭がパンクしそうだ。
こういう時は、体と手を動かして頭をスッキリさせるのが手っ取り早い。
「晩御飯は……どうしようかな」
僕はそう思い、日が落ちていく空を見ながら夕食のメニューをどうしようかと思いを馳せる。
カティアは腹ペコお姉さんだ、第一層攻略で一杯動いたのでお腹が空いているだろう。
そんな事を考えていると……
ペタペタ
ペタペタ
ペンギンが寄って来る。
いや、竜の執事だったか?
その竜の執事、ペンギンのペンタが口を開く。
「ここはワシに任せなされ」
なんだかカティアに馴れ馴れしい僕に、ライバル心を出したのか、ペンギンなのにキメ顔でそう言う。
「ほぅ……」
ご飯を作ってくれるのかな?
ペンギンの作る料理というのにも興味が湧いた僕は、ペンタに任せてみることにした。
「さぁ、遠慮なく食べてくだされ!」
場所は居間。
調理時間……約6秒。
全調理工程を見ていたが、
1.皿を置く✕三つ。(1秒✕3)
2.その上に食べ物を置く✕三つ。(1秒✕3)
3.完成!
「ペンタは優秀な執事だけど」
「食事番だけは、させちゃダメなのよ……」
目の前の料理?を見ながら頭を抱えるカティア。
「確かに……」
目の前の料理?を見ながら、僕もカティアに同意する。
「なんでですじゃ!栄養たっぷりですぞ」
ペンタは、僕とカティアに向かって叫ぶ。
「だってこれ……」
「ただの生魚じゃない!」
カティアが皿に盛られた料理?を指差しながら叫ぶ。
そう、目の前にあるのは皿に盛られた生魚一匹。
一人一匹一皿で、計三人三匹三皿。
この魚は……小振りのアジ?
「ペンギンだから……ごちそうって事、なのかな」
生魚一匹丸呑みは、ペンギンにとってごちそう……それは間違いない。
「ペンタに食事番させると、いつもこうなるから」
「ペンタは食事番禁止!!」
クールなはずのカティアが、珍しく怒ってそう叫ぶ。
まぁこの腹ペコな状況、ご飯の事に関して熱が入るのも無理は無い気がする。
そんなカティア見て、ぇ〜美味しいのに……って顔をしながら落ち込むペンタ。
いや、ペンギンの表情は読み取れないけれど、そんな気がした。
「そう言えば……」
「こんな新鮮な魚、どこから出したの?」
「……まさか口から?」
ふと鮮度の良いこの魚の出所が気になった僕が、ペンギンであるペンタに問いかける。
ペタペタと歩きながら側に来たペンタが、それに答える。
「収納魔法じゃ」
「流石のワシも、飲み込んだモノは姫様に出せぬからの」
気を使ってるのか使ってないのかよくわからない判断基準だが、飲み込んだモノで無いことを聞いて安心する。
「……当たり前でしょ」
「反芻した魚なんか出した日には」
「……死刑よ」
目の前のお皿に盛られた生魚を見ながら、カティアがそう呟く。
「……うへぇ」
カティアのその言葉を聞き、僕は気を引き締める。
生魚を丸のままな晩御飯は、流石に僕でも無理なので……
「ぇと……」
「これを使ってご飯、作ってくるよ」
僕はそう言って皿に盛られた生魚を回収する。
「ぉお」
期待の眼差しで見つめてくるカティア。
そんなカティアの期待に応えるためにも、美味しい晩御飯を作らないとね。
そう思いながらカティアの頭を見る、ツノが生えている、まあ当然か。
だけど、昔遊んでいたお姉さんカティアは、ツノが無かった記憶がある。
そう言えば収納魔法とか言っていたし、巨大ハンマーもどこからか出し入れしていたみたいだったから、ツノと尻尾も出し入れ出来るのかもしれない。
異世界では割とお馴染みの収納魔法、なんて便利なのだろう。
などと考えながらキッチンへと向かう。
「……さてと」
気合いを入れ直した僕は先ず、先程のアジを手に取り捌き始める。
大学時代に色々なバイトをしていたので、手慣れた手つきで魚を捌く。
最初の三匹に加え、ペンタから追加で貰った魚を捌き終えると、小麦粉と溶き卵、パン粉を準備する。
そう、今から作るのはアジを使ったフライ。
アジフライだ。
魚を捌いた後の調理器具を洗い終え、油を準備して油の温度が上がるまでの時間を利用し、キャベツの千切りを準備する。
このキャベツはご近所さんから頂いたものだ、ありがとうございますご近所さん。
油の温度が上がった所で、メイン食材の作業に入る。
アジの切り身に小麦粉、溶き卵、パン粉の順番で衣を付けて油の中へ投入する。
ジューッ……ジュアァァァ……
心地よい油の弾ける音が響き渡る。
やがてその音が軽くなっていき、乾いた音へと変化する。
パチパチ……パチパチ……
衣の状態を見極め、絶妙なタイミングで上げる。
衣はカリッと揚がり、香ばしい香りが立ち込める。
それを繰り返し、捌いたアジは全て綺麗なアジフライへとなっていった。
キャベツを盛り付けた皿にアジフライを乗せ、あらかじめ準備しておいたご飯と、味噌汁を添えて……
「よし、完成」
そう言った辺りで、背後に視線を感じる。
うん、カティアだ。
食欲を唆る油の弾ける音と、香ばしい香りに誘われて、覗き込んでいたのだ。
「じゅる……」
ちょっと前まで皿に生魚が盛られていた食卓が、一変していた。
「さあ、召し上がれ」
テーブルに並べられたアジフライ定食を皆に勧める僕。
「……おいしそう」
グーペコなカティアがヨダレを垂らしながら、そう呟く。
「生魚を、熱した油に通した?のかの?」
ペンギンのペンタは、物珍しそうにアジフライを眺める。
「では」
「「いただきます」」
僕達はそう言って、アジフライに箸を伸ばす。
サクッ……
はふはふ……
「……ぅ」
「ぅまぁあ〜……」
ほっぺたが落ちそうな程、顔をとろけさせるカティア。
クールキャラが台無しだけど、とても幸せそうで何よりだ。
ガツガツ……
ガブガブ……
「なんじゃコレは!?」
「ウマイぞ、ウマイぞぉ」
ペンギンに揚げ物って大丈夫かな?なんて思ったが、自称竜族だし、大丈夫でしょう。
「あ、コレかけ忘れてた」
「みんなもどうぞ」
僕はそう言って、ソースを差し出す。
アジフライにかけるものと言えば、ソースやらタルタルやら醤油やら、戦争になりそうなぐらい種類はあるが……ここはソースで行く。
アジフライと共に、キャベツにも一緒にソースを回しかける。
サクッ……
はふはふ……
「……ぅ」
「ぅまぁあ〜(再)」
ソースをかけることで何倍にも美味しくなる。
ソースの染み込んだキャベツも絶品で、アジフライとのマリアージュが素晴らしい。
カティアもペンタも、そして僕もアジフライ定食を満喫した。
「「ごちそうさま」」
そう言った後、食べ終えた食器を片付けていると……
「ここはワシに任せてもらおう」
さっきも聞いたような台詞を言い、ペンタが動き出す。
「……」
「大丈夫、なのかな?」
先程の生魚の件で、ペンタを少々警戒する僕。
「大丈夫よ」
「食事番以外は割と優秀だから、ペンタは」
カティアが僕にそう言う。
ペンタが食事番をしようとしていた時とは違い、安心して任せている感じが見て取れる。
そうなんだ……とペンタの動きを観察すると、器用にお皿を頭の上に載せて運び始める。
「ほほぅ……」
頭の上にお皿を載せて歩く様が、ちょっぴり可愛らしい。
そんなペンタの様子を見ていると、その後も上手に食器を洗い、片付けまでやってくれる。
素晴らしい。
流石執事ペンギン……いや竜族だったか。
僕はペンタに片付けを任せ、居間に戻って見ると……
「スゥ……」
「スゥ……」
ツノと尻尾を生やした銀色長髪の女の子が、気持ちよさそうに寝ている。
お腹一杯になって眠くなったのだろう。
それに今日は、なんだかんだ情報量の多い一日だった。
頭も心も疲れているんだな、と思う僕。
そんなカティアに毛布をかけながら、僕は呟く。
「今日はお疲れ様」
「ありがとう」




