11話 美味しい魔法
「ワシか?」
「ワシは竜の執事!!」
「王龍様とその姫様に仕えし、竜の側仕えぞ!」
僕の上で仁王立ちになり、胸を張ってそう叫ぶモノ。
いや、どう見てもペンギンなんだけど。
「いや、どう見てもペンギンなんだけど」
そのペンギンに向かって、思った事がそのまま口に出ていた。
「なんじゃと!」
「ワシは竜じゃ、竜族の執事じゃ!」
なんだか必死で反論するペンギン……いや自称竜族?
普通のペンギンと違う所と言えば……お腹に黄色い星のマークがあるぐらい?
「とりあえず……トラップでは無いのか、な」
胸の上に乗っていたペンギンが降りると、僕は立ち上がりそう呟く。
「そうね」
「ごめんなさい、トラップの可能性を失念していたわ」
側にいたカティアが、僕に向かって謝る。
「ぉお、今度こそ姫様!!」
そう叫び、カティアの胸に向かって飛び込むペンギン。
いや、竜……?
「まぁ、それは置いておいて……」
そう言いながら、サラリとペンギンを躱すカティア。
「うべっ」
渾身の飛び込みを躱されたペンギンは、そのまま地面に落ちながら変な声を上げる。
そんなペンギンをスルーしながら、カティアは開いている宝箱を覗き込み、手を入れる。
そこから取り出したのは……空の瓶?
「これは……貴方の仕業ね」
そう言いながら空の瓶を見せつけるように、手に持って見せるカティア。
それを見せた先は……ペンギン。
「いゃあ、大変助かりましたぞ」
「箱の中に閉じ込められた時は、どうしようかと思いましたが」
「それのおかげで、餓死せずに済みましたぞ」
再び自信満々に解説するペンギン、だけど僕はイマイチ飲み込めてない。
「……どういう、事?」
事情を理解していそうなカティアの方を向き、どういう事?という顔をする僕。
「これは……ポーションだったものよ」
「一層の宝、と言った所かしらね」
そう言いながら空の瓶を振るカティア。
「まぁ、一層だし大したモノでは無いけれど」
「それよりあっちの方が問題ね」
その視線の先にはあのペンギン……もとい竜の執事?
「カティアは……」
「知り合い、なの?」
カティアとこのペンギン……初対面な感じはしない、何となく知り合いみたいな雰囲気がある。
「なんじゃ、貴様!」
「姫様に向かってその口は、無礼であろう!」
カティアに質問している所を見て、ペンギンが僕に向かってそう叫ぶ。
確かにカティアは魔族と王竜の姫?様だと聞いた、高貴な人なのはその風貌から察してはいたが、何故か気軽に話しかけてしまう自分がいた。
もっと畏まって話した方がいいのかな?なんて考えを巡らせていると、
「ユウは、そのままでいいわよ」
「むしろ、その方が……いい」
ちょっぴり悩ましげな顔をする僕に、カティアがそう言ってくれる。
「それよりペンタ、何故貴方がこんな所に?」
クールで半目な顔のカティアが、なおさら半目になってペンギンに詰め寄る。
「わたくしめは、王竜様から姫様のお世話を仰せ使っておりまする」
「なので、どこにだって現れますぞ」
「まぁ、今回は少々下手を打ちましたが」
自称竜族執事のペンギンが、何故か胸を張ってそう叫ぶ。
ペンタゴン……ペンタ、このペンギンの名前かな?
ますますペンギンな気がするし、何で宝箱から出てきたのか意味分からないが……あえて突っ込まないでおこう。
「と、とりあえず」
「一層攻略……なのかな?」
なんだか話がややこしくなりそうなので、話を纏める為に僕はそう話を進める。
「そうね」
そう振り向くカティアの先には、入った時の扉と同じ形状の扉が見える。
「詳しい事情や説明は、一度出てからにしましょう」
「行くわよ」
そう言って扉に向かって歩き始めるカティア。
「うん」
そう言って僕は、カティアの後を追う。
「待ってくだされ〜」
ペンギン……もとい竜族執事のペンタゴン、ペンタ……さんもペチペチ音を立てながらついてくる。
パァァァアァァァ……
扉を開け光に包まれると、僕達は再び元の蔵に戻ってきていた。
「……ふぅ」
今度は無事に帰ってこれて、胸を撫で下ろす僕。
蔵の外に出てみると、一層攻略前に紫色で暗く陰っていた空は青空を取り戻していた。
とは言え宝物庫ダンジョン攻略をしていた為、そこそこの時間が経っていたので空の色は徐々に赤く染まりつつあった。
「これで僕の実家の異世界化は直った、って事かな」
少しづつ赤くなる空を見ながら僕はそう呟き、安堵する。
……が、
「直ってないわよ?」
すぐさまカティアがそう言って、僕の安堵時間が終了する。
「ぇえ……?」
哀しそうな眼差しで見つめる僕にカティアは、
「まぁ、すぐに魔物が溢れ出す心配は無くなったけどね」
「外界への出入りぐらいは出来るはずよ」
「相変わらず、関係者以外は入れないけれどね」
僕の心配を和らげる様に説明してくれるカティア。
うん、優しいなぁ。
「それに……私一人では第一層を攻略出来なかった」
カティアは続けてそう言うと、振り返りながら僕に微笑む。
赤くなる空と夕日に照らされて、綺麗な銀色の長い髪が輝く。
「ユウの、美味しい魔法のおかげ」
その情景に、僕の中の記憶が鮮明に思い出される。
……夕日に照らされた笑顔を見て、閉じていた記憶の蓋が開いた。
「……美味しい魔法」
カティアに向かって僕は、そう呟いた。
その言葉に20年近く前この蔵で出会い、一緒に沢山遊んでいた人との記憶が蘇ってくる。
確か僕が5〜6歳だったか、遊んでいた女の子は10歳か、もう少し上か。
1年ぐらいしか遊んでいなかった……その時の記憶だけれど。
服装は違うけれど、確かにあの時の……女の子。
美味しい魔法……それは、その女の子に言った言葉だ。
「あの時の……女の子?」
そこまで僕が言って、
「……そう」
「あの時のお姉さんよ」
「ちゃんと覚えていてくれたようね」
カティアがそう返事する。
ようやく思い出したわね……という感じの僕の顔を見て、カティアは髪をかき上げるながら微笑む。
今まではツノと尻尾のインパクトが強くて、認識出来ていなかったが、今ならわかる。
あの時……そう、たった一年ぐらいしか遊んでいなかったが、僕達の間では『あの時』、で通じる同じ時間を過ごした思い出。
初めて会ったのは……この実家の蔵だった。
両親もまだ生きていて、その両親に親戚のおじさん?とおばさんが会いに来た。
当時5〜6歳だった僕は、両親とその親戚が話している間、席を外して遊んでいて……とファミリーパックで小分けにされたお菓子の袋を一つ手渡される。
お菓子を貰って上機嫌な僕は、それを持って家の外に出る。
日頃から敷地外に出ないでね、と言われていたので塀で囲まれた家の敷地内で遊ぶことにした。
庭を散策していると、蔵の扉が開いている事に気付く。
普段は頑丈な扉が閉まっていて、中の様子を窺い知ることは出来ない。
子供ながらに、見たことのない蔵の中が見える……と少々興奮気味に中を覗く。
蔵の中は、明かり取りの格子窓から漏れる光と、開いた扉から差し込む明かりがあるものの、少し薄暗い。
その中に一人の女の子が居た。
「誰?」
僕が言うより先に女の子か、そう叫ぶ。
「あ、僕は……ユウくん」
幼い頃、僕は自分の事をユウくん呼びしていた。
「ユウ?」
「ぁあ、あなたがユウね」
女の子はそう言って僕を見る。
その女の子は銀色の長い髪で服は……ワンピースだったか、子供の頃はそんな服の種類すら分からない。
とにかく綺麗な女の子だった。
「君は……だれ?」
幼い僕は、少々人見知りしながらもそう問いかける。
「ん~」
「お姉ちゃん、かな」
女の子は少し考えた後にそう言う、何故かお姉ちゃん感を出しながら。
「僕にお姉ちゃんは、いないよ」
当時ピュアだった僕は、素直にそう話す。
「そんなに深く考えなくていいわよ」
「お姉ちゃんはお姉ちゃん」
その女の子はクールな顔で、僕の頭を撫でながらそう言う。
そんな僕達はすぐに仲良くなった。
理由はお菓子だ。
「お姉ちゃんにもコレあげる」
お姉ちゃんの隣に座った僕はそう言いながら、ファミリーパックで個包装になったお菓子の袋を開ける。
「……いいわよ」
「子供にお菓子なんか貰ってたら、お姉ちゃんぽくない」
女の子は不思議な言い訳をするが、本心は食べたそうな感じが滲み出ている。
「ん〜」
「一緒に食べると、美味しいって」
「ママが言ってた」
当時ピュアだった僕は、そう言いながら女の子に袋から取り出したお菓子を一つ手渡す。
「あ、うん」
「……ありがとう」
自分より小さなお子様なのに、その強めの押しに負けて受け取る女の子。
「これは?」
手に乗せられたのはガムでも飴でもなく、はたまたクッキーやチョコレートなどのお菓子でもない。
一口サイズの丸くて柔らかい、その手のひらの上の物体を見つめる女の子。
「ぐみ、だよ」
「おいしいんだ」
僕はそう言って女の子に勧める。
「ぇ〜、ぁ……」
「そう、なんだね」
手に乗った謎の食べ物にビビる訳にもいかず、しばらく見つめた後、意を決して口に入れる女の子。
モグモグ
「……」
「うまっ」
初めてグミを食べたのか、ちょっぴり美味しさに感動する女の子。
それからというもの、親戚のおじさんが来た時には決まって、お菓子を手に取り蔵へ向かう僕が居た。
おじさんが来ていると、何故か蔵の扉が開いていて、そこにはあの女の子が居る。
その女の子とお話しながら、お菓子を一緒に食べるのが習慣となっていた。
おじさんは週に1〜2回来ていて、その度に蔵で一緒に遊んでいた。
お姉ちゃんの異世界?のお話は面白く、今の僕が異世界好きになったきっかけでもあった。
今実家と蔵が異世界的な状況になっているのに、落ち着いて行動出来ているのは、それのおかげでもあるのだろう。
そんな女の子との時間は1年程続いたが、僕が小学生になる辺りでおじさんはパッタリと来なくなった。
当然、蔵の扉が開いている……ということもなく、それを境に女の子とは会えなくなっていた。
時を同じくして僕の両親が消息不明となり、その後亡くなったと伝えられた。
当時の僕はまだ幼く、両親が亡くなったと言う事に現実感が無いまま過ごし、また小学校生活に慣れるのが大変だったと言うこともあり、女の子の存在は記憶の隅へと追いやられていった。
それでも今なら思い出せる、空が赤くなり女の子が帰る?時間となった時に言う言葉。
「美味しい魔法を、ありがとう」
女の子との異世界会話が盛り上がった時に、僕が言い出した言葉だ。
「僕も魔法、使えるのかな?」
なんて僕が話しかけ、
「ユウはもう魔法使ってるじゃない」
女の子がそう返す。
「そっか、これだ」
「美味しい魔法」
そう言って女の子と一緒にお菓子を食べる。
そんな思い出が頭の中を一瞬で駆け抜け、あの時の記憶が蘇る。
それにお姉ちゃん……いや、あの時の僕から見たら確かにカティアはお姉さんである。
今でこそ僕の身長が伸びて、カティアより高くなってしまってはいるが、なんとなくお姉さん感はある。
ただ……頭に浮かぶ疑問をそのまま口に出す僕。
「え?いや……でも」
「20年近く前?だよ?」
遥か昔の記憶だ……なんてったって20年も前の話だから。
カティアの言うことが本当ならば、今カティアはそれなりの歳になっている筈だが、とてもそうは見えない。
「……ぇと」
「だから……」
カティアに年齢を聞こうとするものの、女の子に歳を聞くのはマナー違反?なのかな……と頭をよぎった為に、僕はしどろもどろになる。
「……」
「ユウ、大きくなったわね」
そう言うカティアは、なぜだか哀しげな顔をする。
そこで僕は気付く、カティアは魔族と王竜の姫だった事を。
僕達人間とはそもそも寿命の長さが違うのだ、と。
「ぁ、うん」
「カティアも大きく……なった?ね」
とっさにカティアにかける言葉が見つからず、そう言ってしまう。
「……まぁ、いいわ」
「覚えていてくれたのなら」
「それでいい」
カティアはそう言って、背を向ける。
なんだか……赤く染まる夕日のせいなのか、カティアの頬が赤い気がした。
ペチペチ
ペチペチ
なんかペンギンに叩かれてる。
「なんだか姫様に馴れ馴れしいぞ!おぬし!」
そう叫びながら、お腹に星の付いたペンギンに叩かれる




