15話 師匠
「では、早速始めますかの」
そう言ってペンタ師匠は、居間から続く縁側に出ると庭に飛び降りる。
「はい」
「ペンタ師匠」
そう言って僕もペンタ師匠に次いで、庭へと出る。
ペタペタ歩くペンタ師匠。
「ここなら魔法が多少暴走しても、大丈夫かの」
「準備はいいですかの?ユウ殿」
庭の中央辺りまで来ると、振り向いて話し始める。
「……準備って」
「なにをすれば……いいのかな?」
魔法とか魔力とか言われても、正直良く分からないので、ペンタ師匠に聞いてみる。
「そうじゃな」
「先ずは……魔力を感じる所、からかの」
胸を張ってそう話すペンタ師匠。
そもそもペンギンの風貌は、胸を張ってペタペタ歩く感じなので違いがよく分からないが、胸を張っているのだろう。
「魔力……」
異世界モノや異能力作品の知識はあるものの、実際に感じろ……と言われても、よく分かっていない。
こういう時は自然体がいいとか良く聞くけれど……。
そう思い、目を閉じてリラックスしてみる。
微かに感じる風……。
頬を撫でて気持ちいい。
なんて……自然を感じていると、なんだか不思議な感じがしてくる。
「ほぅ」
「ユウ殿は、スジがイイですのぉ」
そうペンタ師匠の声が聞こえてくる。
ゆっくりと目を開けると、自身の周りに色のついた風の様なものが見える。
「これが……魔力?」
不思議な風が自分の周りを包む感じ……なんだか温かいような、そうでも無いような。
一度認識すると不思議な事に、始めからそこに存在していていたかのような一体感を感じる。
「初めてにしては、魔力の感能力が素晴らしい」
「姫様の力に影響されて、魔力に目覚めたのも頷けますな」
ペンタ師匠は、僕の纏う魔力を見てそう言う。
なんだか即興で言った言い訳に、説得力が追加されたようである。
「では早速、次の段階へと進みますかの」
ペンタ師匠はそう言って、足元の小石を咥える。
ペタペタ
小石を咥えたまま僕に近づき、ペンタ師匠のお腹の星マークが光ったかと思うと、咥えていた小石がほんのり光出す。
シュン……
瞬きしたら、見逃しそうなぐらい一瞬で小石が消える。
「ぉお……」
まるで魔法の様な光景に、感嘆の声を上げる僕。
「これが収納魔法ですじゃ」
咥えていた小石が無くなり、ペンタ師匠が口を開く。
「それでは手を出して下され」
ペンタ師匠の言われるがまま、僕は手のひらを上に向けたまま右手を前に出す。
「今から、先程の小石を出しますじゃ」
「魔力の感能力を高めた状態で、ワシの出す小石を感じ取って下され」
「さすれば、収納魔法の感覚も感じ取れる筈ですじゃ」
ほぅ、そんな感じでいいんだ。
いわゆる身体で覚えろ……的な教え方なのかな?と、思い覚えたての魔力を使って感覚を研ぎ澄ます。
「では、いきますぞ」
「ゆっくりいきますので、それを感じ取って下され」
ペンタ師匠がそう言うと、僕の右手の上がほんのり光り始める。
感覚を研ぎ澄ましているからか、ペンタ師匠が分かりやすくゆっくりしてくれているからか、魔力の流れが鮮明に感じ取れる。
亜空間?なのかストレージなのか、そこから取り出され僕の手のひらへと移行する小石。
シュン……
先程ペンタ師匠が収納していた小石が、僕の手のひらに現れた。
なんでこうなるのか、とか理屈とかは正直良く分からないが、何故か収納魔法というものを身体で理解出来た僕。
「……凄いね、これ」
収納魔法、いわゆる異世界的な話やゲーム等で良く出てくるアイテムボックス、というやつだ。
異世界話で出てくる能力を目の前で見せられて、感動する僕。
「これを何度か繰り返せば、感覚を掴める筈ですじゃ」
「では、もう一度……」
ペンタ師匠が、そう言って再び小石を収納しようとした所で、
「ちょっと待って……」
「ん〜」
「こんな感じ?」
僕は先程ペンタ師匠がしていた様に、感能力を高めながら魔法の感覚を探る。
ポゥ……
シュン……
手のひらに乗っていた小石が、ほんのり光ったかと思うと、一瞬で消える。
「うぉ!」
目の前の小石が消え、ペンタ師匠が驚きの声を上げる。
消えた小石はというと……なんだか脳内なのか感覚なのか、ちゃんと僕の収納リストに入っている。
「これは……便利」
こんな便利なモノを異世界のみんなは使っていたのか、そりゃあこぞって使うわけだ。
なんて思いながら、リストを見る……というか感じる。
「一回でここまで出来るとは……」
「ユウ殿は、器用ですな」
ペンタ師匠が僕に向かってそう言う。
「……」
「そんなに……器用に生きてないよ」
器用……その言葉に僕はあまりいいイメージが無い。
特化していない器用貧乏……的なイメージでもあるし、なにより器用に物事をこなし過ぎると、色々と仕事を押し付けられてしまう。
それにより、他の人より負担が増えてしまい、逆に身動きが取りづらくなる。
大学時代のバイトや、ブラック会社で頑張り過ぎてしまいそんな目に多々あった。
本当に器用な人は……脳ある鷹は爪隠す的な、器用な動きをして上手く立ち回る。
僕は素直すぎるのか、頑張りすぎるのか、そんなに器用に生きてこれなかった。
だから僕は、そんなに器用じゃない。
「でも、何となくは……掴めた気がします」
「ありがとうございます、ペンタ師匠」
僕はそう言って、手のひらに先程収納した小石を出して見せる。
シュン……
「出し入れも、完璧ですな」
「あとは……」
「容量の感覚ですかな」
ペンタ師匠が、僕の方を見ながら説明を続ける。
「大きいとか小さいなどと言葉で説明しても」
「こればかりは、個人差がありますからの」
「どれくらいまで入るかは、本人にしか分からないですじゃ」
そう言いながらペンタ師匠は、収納魔法で生魚を取り出し口に咥える。
確かに実際に亜空間を測るわけにもいかないし、容量は本人にしか分からないのか。
「……あとは」
「一回で収納出来る大きさも、個人差があるぐらいかの」
「ワシは、マグロみたいな大きな魚は収納出来ぬのでの」
なんだろう……例えるなら袋の口の大きさ?って所かな。
袋の口が小さければ、車とか家とか大きいものは入らない。
収納する容量は袋の大きさで、一度に入れれる限界は袋の口の大きさに依存する……そんな感じなのだろう。
袋の口が小さくても容量が大きい人も居れば、袋の口が大きくてもあまり入らない人も居る。
そういうのが個人差なのかな。
僕の袋の口は……どこまで入るかはまだ分からないが、小石位なら全然余裕の様だ。
容量についても、なんか一杯入りそうな気がするが、測れないので、まだ良く分からない。
そんな事を考えながら、確かめるように手に持った小石を何度か出し入れして見る僕。
「もう会得したようですな」
「やはり器用ですぞ、ユウ殿は」
ペンタ師匠が、そう褒めてくれる。
器用……か、会社とかバイトなら仕事の負担を増やされる恐れがある為、セーブするところだが。
実家の異世界化を防ぐ為とか、ダンジョン攻略の為とか、何よりカティアの力になれるなら……出し惜しみしなくても良いかな?なんて思える。
「あと、ワシが教えることが出来るのは……基本的な魔法ぐらいですかの」
「それ以上は、魔法の専門家とかに教わるのがよろしいかと」
ペンタ師匠がそう言うと、再びお腹の星が光り始める。
コポコポ……
すると、目の前にバスケットボール程度の大きさの……水?が現れた。
ペンタ師匠が出したのだろう、その水の玉は宙に浮いたまま、ゆらゆらと波打って居る。
「これは水の魔法ですじゃ」
「ワシは、水と氷の属性への適合性が高いですから」
「どの属性に適合しているかも、個人差がありますじゃ」
「さて、ユウ殿はどんな適正ですかの」
再びペンタ師匠のお腹の星が光ったかと思うと、宙に浮いていた水の玉が霧散する。
「僕の……適正」
そう呟きながら、ペンタ師匠を見つめる僕。




