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「お前は戦力外だ」と追放されたカードゲーマー、伝説級レアカードで無双する ~元クラスメイトたちは没落したけど、俺は美少女パーティーとダンジョン配信で大成功しました~  作者: どすこい。お嬢様
第五章

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第13話 信頼

「なあ……まだ、やるのかよ……」


 歯を食いしばりながら悠真は立ち上がる。

 漆黒の外套の肩口が裂け、汗と土埃で滲んだデッキケースから、カードが数枚滑り出ていた。


 ホウキは応じない。代わりに、そっと太刀を鞘に納め──

 そして、再び引き抜いた。斬閃。

 音速に迫る速度で、彼女の身が突っ込んでくる。


「くそっ──!」


 悠真は素早く、次のカードを展開した。


「ビキニメイド・ストームカリン、召喚!」


 魔法陣から嵐を纏う女性が現れ、ホウキの太刀と正面から激突する。

 風の魔力が弾け、石の床を揺らした。

 だがホウキは怯まない。


「桜花千凜──壱ノ型、花散らし!」


 太刀が花弁へと変じ、無数の刃がストームカリンを包囲する。

 切れ長の紅い瞳が鋭く輝き、刃の嵐がカリンの防衛を突き崩した。カリンが消滅する。


「次だ──ビキニメイド・サンダーヴァルキリー、召喚!」


 金色の雷を纏う長身の女性が、電撃の槍を構え、彼女へと突撃した。

 ホウキは飛翔する。軽装和装の裾が翻り、宙で身を捻りながら槍を躱す。

 その動きは流れるようで、まるで舞のようだ。


「弐ノ型──千刃桜林!」


 散った花弁が空中で再び集束し、無数の刃の形を成す。

 それがサンダーヴァルキリーへと一斉に降り注ぎ、雷の魔物を瞬く間に消し去った。


「お前……本気でやってんのか……!」


 悠真は叫びながら、次のカードへと手を伸ばす。


「魔術カード──炎陣の号令・ブレイズ・オーダーを発動し! ビキニメイド・インフェルノクイーンを特殊召喚!」


 深紅の光が炸裂し、大型の炎の大剣を携えた、威風堂々たる乙女が現れた。

 インフェルノクイーンの大剣が、ホウキへと振り下ろされる。


「……参ノ型──斬花一線!」


 彼女が地を蹴り上げた。

 ポニーテールが風に舞い、太刀が螺旋を描く桜の軌跡と共に閃く。


 刃がインフェルノクイーンの大剣と激突し、爆発的な魔力が四方に弾け飛んだ。

 石柱が幾つか傾き、天井の霧が捩れて散る。


 両者の消耗は激しかった。

 悠真のデッキケースの残枚数が危険域に入る。

 ホウキの額にも汗が滲み、肩で息をしていた。


「……まだ、やるのかよ……ホウキ」


 悠真の声が、乾いている。ホウキは答えなかった。

 しかしゆっくりと、悠真へと歩み寄る。


 そして互いに武器も構えぬまま、真正面に立ち合った。

 悠真は拳を強く握りしめる。


「どうして……っ」


 言葉が、喉で詰まった。


「どうして、そんな目で俺を見るんだよ……! ホウキ!」


 その瞬間である。ホウキの太刀が振り下ろされた。

 反射的に悠真の手が、デッキケースを構える。

 ──だが、止まった。


 斬撃の直前。彼女の手が、ぶるりと震えた。

 太刀が悠真の首筋の寸前で、ぴたりと止まる。


 彼のカードもまた、発動寸前で静止していた。

 空気が凍りつく。目と目が合った。


 切れ長の紅い瞳の奥で、何かが激しく揺れている。

 静寂。互いの鼓動だけが響く。


「……悠真様こそ、なぜ避けぬのだ」


 震える声で、ホウキが問うた。

 それは二人が対峙してから、初めての問いかけである。


「……止められぬのは……私のせいか?」

「バカじゃねぇの……止められるわけ、ねーだろ……お前はオリムラ・ホウキだ。俺の大事な仲間だ!」


 鼻を鳴らし、悠真は顔を顰めた。その言葉が、霧の広間に静かに響く。

 ホウキの手が僅かに震え──ゆっくりと太刀を鞘に戻した。


「……悠真様……」

「なあ……戻ってこいよ……」


 不意に天井の霧が晴れ、白い光が差し込んでくる。照らされる二人。

 互いに血と汗にまみれ、肩で息をする姿は、戦いの末に立つ戦士そのもの。


 勝敗はない。だが、心は繋がった。

 刀とカードを交えた戦いの中で、二人は何より確かな信頼を、その手で取り戻す。


 そして突如として、眩い光が視界を焼いた。

 真夏の太陽を直視したかのような強烈な閃光が、何処からともなく発せられ、悠真の網膜を白で塗り潰す。

 一瞬の出来事でありながら、まるで時間が停止したかのような長さを伴う。


「っ……! うお、目が……!」


 瞼を閉じてもなお残像が焼きつき、ぐらりと世界が揺れる。

 彼は思わず両膝をつき、地面に手をついた。

 

 ざらりとした岩肌が指先に触れる。

 先程までの戦いで汗が吹き出し、掌を濡らしていた。

 だが次第に目が慣れてくると、周囲の輪郭が朧に浮かび上がる。


「……戻った、のか?」


 悠真の口から、誰に向けるでもない呟きが洩れた。

 そこは見覚えのある場所。


 石造りの広場。

 壁面を囲う柱廊の内側には、転移陣が淡く輝きを残しており、そこには五つの人影があった。


「……皆……無事か」


 彼が口を開くと、背を向けて立っていた、銀灰色の長髪が振り返る。


「悠真か。無事で何よりだ。こちらも生き残ったようだ」


 規律正しき口調でアウラが応じた。

 帝国軍の制式制服は、焦げ跡や擦過痕で汚れていたが、体に負傷は見られない。


「ちょっと、なんでいきなり光ったわけ!? 目がチカチカして……って、は!? 戻ってる!? なにこれ!?」


 最も声を張り上げたのはシュンリン。

 燃えるような赤いツインテールを振り回しながら、彼女は荒々しく辺りを見回していた。


 龍化の名残か、うっすらと腕に、鱗の痕が残っている。


「夢ではありませんわ……」


 しとやかな声音が続いた。アイリスである。

 腰まで届く金髪が再び整えられており、ゆったりと金色の狐耳が揺れていた。

 蒼い瞳の奥に、静かな疲労と確信が同居している。


「……恐らく、ダンジョンの試練だったのでしょう。私たちは……それぞれに」


 彼女の言葉に、全員が短く息を呑んだ。

 アイリスはシャルルと。アウラはシュンリンと。そして悠真はホウキと。


 それぞれが、仲間の姿をした敵と戦っていた。

 直後、沈黙が落ちる。

 重苦しいものではなかった。むしろ、静かな共鳴に似ている。


「……あの空間、明らかにおかしかった」


 シャルルが細い声で囁く。

 淡い金色に近い銀髪が、まとわりつくような疲労の色を帯びており、長く細い耳が伏せられていた。

 長杖を胸元で抱き、わずかに震えている。


「殺し合いをさせる幻覚……感情と理性をぶつけ合わなければ出られない構造でしたわ。チームの絆を試す、魔の設計ですわね」


 手を自身の顎に当てながら、アイリスは神妙な面持ちで呟く。


「まさかアウラと戦わされるとは思わなかったぞ……」


 赤金色の大きな瞳を細めながら、シュンリンは腕を組んだ。


「……私もだ。まさかシュンリンが相手になるとは」


 アウラが短く応じる。猫耳が伏せられ、青灰色の瞳が気まずそうに逸れた。


「一皮、むけたのかな。僕たち……全員」


 シャルルが微笑む。

 己の感情を曝け出した戦いを思い返し、恥じ入りながらも誇らしく感じているような表情だった。


「悠真様……」


 呼びかける声が聞える。ホウキだった。彼女は悠真の直ぐ隣に立っている。

 東の国風の軽装和装は無数の切傷に彩られ、腰の太刀の鞘には汚れがこびりついていた。


 それでも姿勢は凛としており、黒いポニーテールが静かに揺れている。

 切れ長の黒い瞳の奥には、動揺ではなく静かな確信が宿っていた。


「私……あの時、悠真様に刃を向けましたこと……。それでも、受け止めてくだされた。感謝申し上げます」

「……俺も、言いたいことをぶつけたしな。まぁ、お互い様ってことで」


 肩を竦めて答えた彼に、彼女は軽く頭を垂れた。


「あの場で心をぶつけ合わなければ、私は……己の弱さから逃げ続けていたでしょう。悠真様に、導かれました」


 その時、ダンジョン内にも関わらず、どこからともなく風が吹く。

 湿り気を帯びた風が、皆の髪を優しく撫でた。


「……でも、どうしてこんな試練を?」


 アイリスが小さく首を傾げた。ゆったりと金色の狐耳が揺れる。


「なぜ我々のチームワークを強化しようとしたのか……理解不能だな」


 アウラが腕を組み、低く唸った。


「それが分かったら苦労しねぇんだが……。まぁ、俺らを何らかの目的で、ここに引き込んだ何かが居るってことじゃねぇのか」


 天を仰ぎながら、吐き捨てるように、悠真は言い放つ。


「だが……今だけはみんな、生きて帰ってこれたんだからな。それだけで充分だろ」


 シュンリンが、硬質な爪の拳を握る。燃えるような赤いツインテールが揺れた。それに誰もが頷く。

 ――そしてチームワークを試されてから、気がつけば長い月日が流れていた。


 あの修学旅行中での異世界への転移から、どれほどの時間が経過したのか。

 数えきれないほどの戦いを潜り抜け、幾度も死線を越え、仲間たちと絆を深めながら、悠真たちはついにここまで辿り着いた。


 ダンジョン攻略、最終局面。

 今現在、悠真たちは安息地の一角、白翼の館(宿屋)の広間にて集まっていた。

 配信魔導端末の光が静かに点滅している。


「悠真くん、今日の配信どうする?」


 長く細い耳を揺らしながら、シャルルは問いかけた。


「準備の様子でも流しとくか。どうせ視聴者は気になってるだろしな」


 彼が端末を操作すると、すぐにコメントが流れ始める。


『ついに最終決戦が近いの!?』

『悠真くんのパーティー応援してるぞ!』

『でも、アイツ(一軍の男子と女子)らが先にボス部屋見つけたんだよな……』

『あいつらに先越されるのは悔しすぎる』

『まあでも、悠真くんなら絶対大丈夫!』


 その最後のコメントを見て、悠真は小さく息を吐いた。

 そう、何を隠そう例の一軍の男子や女子が、ラスボスの部屋を発見したのである。

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