第5話 エルフの少女と一夜を共に
「これはもう……破廉恥の極みだよねぇ……でも、見られた以上、責任を取っていただかないと……ふふっ……」
頬を染めながらもシャルルは、不思議な笑みを浮かべている。
長く細い耳がふわりと揺れ、翠色の瞳が艶やかに細められた。
「一回だけぶん殴っていいか? いや、殴る」
拳を握り固めるアウラの手は震えていた。
怒りでか、羞恥でか──猫耳が限界まで逆立ち、頬が微かに赤い。
「悠真様……この辱め……どう償っていただけるのか……」
最後に口を開いたホウキは、冷静な口調のまま、太刀の柄に手をかけた。
切れ長の黒い瞳が静かに、しかし確かな怒りを宿して悠真を見据えている。
「いや、あのな……ちょっとした興味というか、ほら、男の性というか……」
必死に弁明しようとするも、言葉は空転し、ただ相手の怒りに油を注ぐのみ。
「私たち、はっきりと言ったではありませんか……絶対に覗くなと……!」
アイリスが拳を握り、蒼い瞳に怒りを燃やす。
金色の狐耳が限界まで逆立ち、黒レースの下着姿はまだ濡れており、動くたびに水滴が肌から飛び散る。
「悠真くん……最低だよねぇ……」
頬を赤くしつつもシャルルは、にこやかな笑みでじわじわと詰め寄る。
長く細い耳が揺れ、純白の下着に包まれた、その姿が逆に恐ろしい。
「一撃でもいいから殴らせろ」
短く吐き捨てるようにアウラは言った。
その拳には既に怒気が宿り、猫耳が逆立っている。
「シュンリンは……?」
悠真が恐る恐る視線を向けると、シュンリンは燃えるような赤いツインテールを揺らしながら、顔を真っ赤にして腕を組んでいた。
「……別に、見られたくらいで動揺なんかしてないからな。ただ、腹は立ってる」
その割に赤金色の大きな瞳が、明後日の方向を向いている。
そんな中で、ホウキだけは明らかに様子が違った。
濡れた黒いポニーテールが肩に張り付き、顔は真っ赤に染まり、切れ長の黒い瞳が潤んでいる。
肩が僅かに震えていた。
そして彼女は、突如、真っ直ぐに悠真を指差す。
「貴殿! 婚姻もまだな生娘の下着姿を目にした以上──責任を、取っていただきまする!」
「……え?」
「なっ……!?」
他の仲間たちも一瞬だけ唖然としたが、すぐにその場に怒りの空気が戻る。
「せ、責任って、ど、どんな責任を取ればいいんだ……?」
背中に冷や汗をかきながら悠真は後退った。
脳内では即座に”責任”という単語が多様な意味で変換されている。
「えーと、えーと、ホウキさん、その……そのサラシ……めちゃくちゃ似合ってた。こう、武人って感じで凛としてて……かっこよかった!」
「──っ!」
その瞬間だった。
ホウキの顔が紅蓮の如く燃え上がる。
切れ長の黒い瞳が見開かれ、口が開き、次の瞬間には拳が高く振り上げられていた。
「ば、馬鹿者おおおおおおお!」
彼女の拳が、悠真の顔面に直撃した。
鈍い音と共に、彼の体がくの字に折れる。
そのまま、スローモーションのように後ろに倒れた。
「お、おのれ……っ責任を取れというのは、そ、そういう意味では、ないと申しておるのに……!」
涙目で頬を膨らませ、拳を震わせるホウキの姿は、怒っているのか照れているのか分からない複雑な表情を浮かべている。
黒いポニーテールが乱れ、濡れた和装の裾が揺れていた。
「……やべぇ、ガチで入ってたな今の……」
シュンリンが水を滴らせながら呟く。赤金色の瞳が丸くなっていた。
「い、一応……大丈夫ですわよね……? 死んでない……ですわよね……?」
アイリスが恐る恐る、倒れた悠真の様子を確かめようと歩み寄る。
「いい角度で顎に入ってたから、多分……気絶程度だよ。ふふっ、ざまあ」
くすくすと笑いながらシャルルは、長く細い耳をふわりと揺らしていた。
――それから瞬く間に時間が流れると、夕闇はすでに過ぎ去り、満天の星々が夜空を覆う。
月光が濃密な木々の隙間を縫って降り注ぎ、湿った苔や落ち葉に淡く反射している。
しかし時間経過の概念や天候などは全て、このリフレクスの迷宮が生み出している、疑似的なものに過ぎず偽物の光景。
そして悠真が薄く目を開けたのは、そんな静寂の只中だった。
頭に重い鈍痛があり、視界はぼやけている。
だがそれ以上に、頬がひどく腫れている感覚が支配的だ。
「う……ここは……」
視線を巡らせれば、焚き火が燻り、燃え尽きた薪の残りが赤くくすぶっている。
周囲には葉で編まれた簡易的な屋根と、木材と蔓を使った寝床。
薪は均等に組まれ、灰が慎重にかき集められていることから、仲間たちの手際の良さが伺える。
「起きたか? 変態野郎」
薪を組み直しながらアウラが振り返った。
野営用の装いに身を包み、青灰色の瞳が月光の下で静かに煌めいている。
「あー……どのくらい寝てた?」
「丸っと四時間。もうすぐ夜も深まる時間だ」
「で、夕飯は……?」
「無い。罰だ。覗き魔に食わせる飯はない」
不機嫌そうにシュンリンが言い放つ。
燃えるような赤いツインテールを揺らし、腕を組んだその姿は威圧感たっぷりだ。
赤金色の大きな瞳が悠真を冷たく見下ろしている。
「まあ、俺も別に腹減ってねぇし……」
実際、緊張と恥ずかしさのせいか、彼の胃はきりきりとしていたが、空腹感は不思議と感じなかった。
「……本当に反省していらっしゃいますの? 覗きなどという下劣な真似、本来であれば到底見逃せるものではございませんわ。――それでもなお、食事制限程度で済ませて差し上げているのですから、感謝なさいな」
レイピアの手入れを終え、アイリスは上品な仕草で金髪を梳く。
金色の狐耳の付け根が震え、尻尾がふわりと揺れる。
薄手の毛皮を羽織った姿は、まるで王家の騎士のようだった。
「まあまあ、これで悠真くんも懲りたでしょうし、今日はもう眠りましょう?」
シャルルが微笑みながら、寝床へと戻ってゆく。
淡い金色に近い銀髪が月光を受けてきらめき、長く細い耳がゆったりと揺れている。
その表情には怒気はなく、微かな憐憫と優しさが滲んでいた。
「悠真様……今宵は大人しくしておられよ」
ホウキが静かに告げ、太刀を傍らに置いて目を閉じる。
黒いポニーテールが肩に流れ、その横顔は月光に照らされて静謐だった。
そうして皆が順に寝床に入り、林床の広場には静寂が戻る。
悠真は苔を敷いた即席の寝床に体を横たえたが、さっぱり眠れる気がしなかった。
痛む頬、冷たい風、そして何よりも気まずさの残滓。
(くそ……やっちまったな、完全に)
寝返りを打っても、星々を仰いでも、眠気はやってこない。
焚き火の残り火は徐々に灰へと変わり、夜はますます深まっていく。
そんな思考に沈みかけたその時だった。
「悠真くん」
囁くような声とともに、淡い銀髪が視界の端に現れる。
「シャルル……?」
「眠れないんでしょう? よかったら、一緒に……寝てもいいかな」
その声音はどこまでも優しく、ほんのり熱を帯びていた。
シャルルは片手に小さな毛皮のブランケットを抱き、膝をついてこちらを見つめている。
「え、あ、えと……」
彼は混乱しながらも、彼女が自分の隣の苔の上に、そっと身体を沈めるのを見ていた。
そこから香るのは花のような、清楚で甘い香り。
「……怒ってないのか?」
「怒ってないよ。だって、悠真くん、本当は優しいから。つい、好奇心が勝っちゃっただけだもんね?」
翠色の瞳が夜の中で、柔らかく輝いていた。
「ありがとう、シャルル……」
「ふふ、顔が真っ赤だよ? ……でも、嬉しい」
そう言うと、シャルルは少しだけ悠真に身を寄せる。
布地越しに伝わる彼女の温もりに、彼の心臓は破裂しそうなほど鼓動を刻む。
静寂の夜、木々がさやさやと葉音を立てる中、シャルルの呼吸はゆっくりと、安らかなリズムを刻み始める。
悠真もまた、柔らかい香りと温もりの中で、徐々に意識を手放す。
――――そして朝。
「悠真……! 貴様っ、これはどういうことだっ!」
アウラの怒声で目を覚ますと、そこにはシャルルが下着姿の状態で、大の字になって隣で寝ていた。
淡い金色に近い銀髪が乱れ、長く細い耳が伏せられている。
「ふふふ……もっと……んふっ……」
艶めいた寝言と共に、彼女は寝返りを打つ。
その姿を見た仲間たちの顔は真っ赤を通り越して蒼白に近い。
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