第3話 魔力譲渡の口づけ
「非常事態だ。シャルル、私たちの魔力を使え。……全部、持っていって構わん」
アウラが、そしてホウキやアイリスやシュンリンが、代わる代わる彼女の潤んだ唇に、あるいは熱を帯びた頬に自らの唇を重ねた。
「っ……、ふぁ……っ」
契りを交わすような口づけと共に、仲間たちの熱い魔力が彼女の空の体に流れ込む。
他者の魔力が混ざり合う激痛に、彼女の細い体が大きく跳ねた。
しかし、シャルルは微笑みを捨てない。
「……みんなの想い、……受け取ったよ」
注がれたばかりの奔流を、祈りにも似た治癒の光へと変換していく。
彼女の手のひらから溢れ出したのは、仲間たちの想いが混ざり合った、七色に輝く奇跡の光塊。
その手をシャルルは、悠真の負傷箇所へと優しく、けれど力強く押し当てた。
「――っ!?」
彼は自身の体が爆発するかのような衝撃を受ける。
しかし、それは痛みではない。
冷え切っていた体内に、煮え立たんばかりの生命力が、濁流となって流れ込んできたのだ。
七色の光が、抉れた肉を瞬く間に再生させ、砕けた骨を繋ぎ、失われた血液を満たしていく。
皮膚が塞がる心地よい痒みと共に、死の淵にあった悠真の輪郭が、確かな生命の輝きを取り戻していくのである。
「あはは……よかった……」
彼の傷が完全に癒えたのを見届け、シャルルは満足げに微笑むと、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
だが次の瞬間――突如として闇の底からせり上がるように、悠真たちの足元に巨大な青紫色の魔法陣が出現する。
「これは……! 転移陣!? でも、見たことのない式ですの!」
アイリスが目を見開いた直後、周囲の空間が音もなく震えた。
壁も天井も、光を歪めて揺れ始め──そして。
「なんですか、これは!?」
「クソッ、避けろ!」
「きゃああっ!」
「どうなってんだよ――!」
「くそっ!今日はついてないな……!」
眩い白光に包まれ、悠真たち六人は瞬時に視界を失う。
──転移完了。
目を開けると彼らは、広大な無人の闘技場の中央に立っていた。
楕円形の空間、石造りの観客席、中央に割れた石の演舞台。
天井は開かれており、夜空の月が赤黒く燃えている。
風はなく、空気が妙に静まり返っていた。
気温は低いが湿気を帯び、どこか血の匂いが漂う。
「ここ……フロア外の特殊空間か!? こんな仕掛け、聞いてないぞ!」
悠真が即座に警戒態勢に入る。
その瞬間、闇の中から蠢く気配。
魔物──否、異形の存在が姿を現す。
三メートルを超える肉塊で、無数の眼球と腕を持ち、触手のような足を引きずっていた。
先程の十二体とは、比較にならない魔力の密度が、全身から滲み出ている。
「……何だよ、こいつ。さっきの連中とは桁が違う……」
彼がデッキケースに手を伸ばす。
そして異形の魔物が咆哮を上げ、突進を仕掛ける
その速さは信じられないほどだ。
悠真は前に出て、迎撃態勢を取るが──
「ぐっ……!」
応急処置に近い手当を受けた腹部は、まだ完全に治されてはおらず、激痛を伴うと大きく姿勢を崩してしまい相手の攻撃を諸に受けた。
そして彼は、そのまま数メートル弾き飛ばされ地を転がり、再び動けなくなる。
「悠真くんっ!」
シャルルが叫ぶ。仲間たちも武器を構え応戦に出るが、全員が既に疲労困憊だった。
魔物の速度と攻撃範囲に対し、防御も魔法も間に合わない。
ホウキの腕には裂傷が走り、アウラの右肩には打撲の痕が広がり、アイリスの金色の狐耳には裂けた跡があった。
それでも誰一人、退かない。
「お願い……起きて、悠真くん……貴方がいなきゃ……こんなの、もう……っ!」
シャルルが膝をつきながら叫ぶ。翠色の瞳を歪め、涙が頬を伝っていた。
「起きてよ、お願いっ……! キミが、みんなの核なんだから……っ!」
彼女の叫び声が、闘技場に響く。
その瞬間、悠真の意識の底で何かが反応した。
「……俺が、核……? ……ったく、お前らほんと……世話が焼けるぜ……」
失神状態から意識を戻すと、傷だらけの彼は、ゆっくりと体を起こす。
口元には血が滲んでいるが、前髪の奥の茶色の瞳だけは確かだった。
「簡易領域能力──クイック・デュエル・フィールド!」
足元に魔法陣が展開され、青白い光が広がる。
「──常夏の奉仕の戦場、発動だ」
一枚の戦場魔術カードを手にして、それを悠真は高らかに天へと掲げた。
すると仲間たちの背後で淡く光が溢れる。
「……ふっ、やっと起きたか……寝坊助め」
「悠真……ふふ、そうでなくては困りますの」
「……へっ、頼りにしてんだから、簡単に死ぬんじゃねぇぞ」
ホウキ、アイリス、シュンリン、シャルル、アウラ──全員が顔を上げた。
「チェックメイトだ。常夏の奉仕の戦場の効果の一つ、最後の一節を行使する! 万色奉仕の祝祭!」
彼の声が闘技場に響き渡ると同時に、仲間達の体や武器が一斉に光り出し、魔力の連鎖が闘技場全体に広がる。
――それは肉体のリミッターを解除する筋力強化、魔法の伝導率を極限まで高める魔力増幅、そしてあらゆる衝撃を無効化する絶対防壁。
重なり合うステータス上昇の連鎖は、もはやバフの域を超え、彼女たちの存在そのものを、一時的に神格に近い次元へと押し上げていた。
「……何だよ、こいつ。さっきの連中とは桁が違う……」
彼がデッキケースに手を伸ばす。
そして異形の魔物が咆哮を上げ、突進を仕掛ける
その速さは信じられないほどだ。
悠真は前に出て、迎撃態勢を取るが──
「ぐっ……!」
応急処置に近い手当を受けた腹部は、まだ完全に治されてはおらず、激痛を伴うと大きく姿勢を崩してしまい相手の攻撃を諸に受けた。
そして彼は、そのまま数メートル弾き飛ばされ地を転がり、再び動けなくなる。
「悠真くんっ!」
シャルルが叫ぶ。仲間たちも武器を構え応戦に出るが、全員が既に疲労困憊だった。
魔物の速度と攻撃範囲に対し、防御も魔法も間に合わない。
ホウキの腕には裂傷が走り、アウラの右肩には打撲の痕が広がり、アイリスの金色の狐耳には裂けた跡があった。
それでも誰一人、退かない。
「お願い……起きて、悠真くん……貴方がいなきゃ……こんなの、もう……っ!」
シャルルが膝をつきながら叫ぶ。翠色の瞳を歪め、涙が頬を伝っていた。
「起きてよ、お願いっ……! キミが、みんなの核なんだから……っ!」
彼女の叫び声が、闘技場に響く。
その瞬間、悠真の意識の底で何かが反応した。
「……俺が、核……? ……ったく、お前らほんと……世話が焼けるぜ……」
失神状態から意識を戻すと、傷だらけの彼は、ゆっくりと体を起こす。
口元には血が滲んでいるが、前髪の奥の茶色の瞳だけは確かだった。
「簡易領域能力──クイック・デュエル・フィールド!」
足元に魔法陣が展開され、青白い光が広がる。
「──常夏の奉仕の戦場、発動だ」
一枚の戦場魔術カードを手にして、それを悠真は高らかに天へと掲げた。
すると仲間たちの背後で淡く光が溢れる。
「……ふっ、やっと起きたか……寝坊助め」
「悠真……ふふ、そうでなくては困りますの」
「……へっ、頼りにしてんだから、簡単に死ぬんじゃねぇぞ」
ホウキ、アイリス、シュンリン、シャルル、アウラ──全員が顔を上げた。
「チェックメイトだ。常夏の奉仕の戦場の効果の一つ、最後の一節を行使する! 万色奉仕の祝祭!」
彼の声が闘技場に響き渡ると同時に、仲間達の体や武器が一斉に光り出し、魔力の連鎖が闘技場全体に広がる。
――それは肉体のリミッターを解除する筋力強化、魔法の伝導率を極限まで高める魔力増幅、そしてあらゆる衝撃を無効化する絶対防壁。
重なり合うステータス上昇の連鎖は、もはやバフの域を超え、彼女たちの存在そのものを、一時的に神格に近い次元へと押し上げていた。
「戦列を繋げ! これが俺たちの絆であり、最高火力の連鎖だ!」
その刹那――アウラ、アイリス、シュンリン、ホウキ、シャルル。
五人の武器から放たれた一撃が、一点の座標へと集束する。
それは個別の攻撃ではない。
戦場魔術カードにより、全次元のステータスを同期させた、巨大な一条の”消滅の奔流”だ。
闘技場の空を裂くような、鼓膜を震わせる咆哮。
直撃の瞬間、異形の魔物は守りの姿勢を取る事すら許されない。
細胞のひとつひとつまでが、純粋な魔力の濁流に呑み込まれ、分子レベルで分解されていく。
爆炎が晴れた後、そこには魔物の肉片どころか、塵一つ残されていない。
ただ、神罰が下ったかのように抉られた地面と、仲間たちの絆が残した熱い残光だけが、静かに揺れていた。
――そして異形の魔物が跡形もなく消し飛んだその中心から、眩い幾何学模様の光が溢れ出す。
勝利を祝福するように、巨大な魔法陣が闘技場の地面に再展開される。
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